自分の美貌に自身のある王女様は、召喚勇者をペットにするつもりのようです。
場所は王都近郊、小高い丘の上。大理石で化粧された純白の教会。
そこに彼女、マリア・キミ・リーングランデは立っていた。彼女は、金髪碧眼。美というものを体現したかのような少女だ。彼女が身に纏うドレスは薄い絹で織られている。ドレスの胸元には大胆に解放され、その豊満な胸部を見せつけるかのように露出させている。さらに、そのスカートには大きなスリットが入れられており、触れれば折れてしまいそうな彼女の脚部が眼に入る。
そんな彼女はリーングランデ王国の第二王女であり、その周囲では幾人もの魔術師達が忙しなく動き回り、これから行われる大魔術の最終点検を進めていた。
「いよいよですな」
老巫女が、王女に声を掛ける。
「ええ。いよいよです」
王女はそう答えながらも、その瞳は老女を捉えてはいない。彼女が見ているもの。それはまだ見ぬ勇者の姿だった。
「魔王をも打ち倒すというその力……。早く見てみたいものです」
彼女はそう呟く。
「うふふふふふふふふ。でも、力が強いだけでは駄目ですのよ? 勇者様。ペットにしてあげますわ。……あたしの美貌を使って」
王国暦1522年
この時、神聖リーングランデ王国は窮地に立たされていた。
王国が国境を接するミッドガルド帝国は急速に版図を拡大。周辺諸国を次々に併合。主要な近隣国家をあらかた侵略し終えた帝国の領土的野心は、王国へと向けられつつあった。
この国家存亡の危機に対して、無駄に歴史が長いということ以外にこれといって特色のない王国には、打つ手などあるはずもなく、ただいたずらに時を過ごしていた。
そんな中、老宮廷魔術師が禁書庫にて勇者召喚の魔術式を発見。
資料によると、召喚された勇者は極めて強大な力を持っていたらしい。それで、勇者はその力を用いて、かつてこの大陸で跳梁跋扈していた魔王を打ち倒すことに成功した。
さらに、これが重要な点なのだが、勇者召喚魔術式それ自体は簡易。かつての権勢を失った現在の魔術師でも、問題なく起動できる。
老魔術師のこの報告に王国上層部は狂喜乱舞した。
無論、一部には、魔王を打ち破るほどの力を持った勇者を召喚すれば、王国にとっても危険であるとの意見もあった。
だが、座して死を待つよりはと、ときの国王は勇者を異世界より招聘することを決断。
こうして現在、彼女の目の前で勇者召喚が行われようとしていた。
「術式、起動!」
宮廷魔術師団長の命令により、各魔術師が詠唱を開始。各魔術は、教会中央に描かれた召喚魔術式により同期されて、一点に集中。
閃光!
一切の音の存在しない、ただ光だけの世界。その時間はホンの僅かであったが、その光が消えたとき。教会の中央部。召喚魔術式が描かれた正にその場所に、今まで存在しなかった人影が一つ出現していた。
「そんな……。なんでこんな……」
王女が呆然とした表情で、うわ言を漏らす。
彼女の視線の先。そこにいた人影。それは……
「え? 私は一体……どうしてここに?」
十代中ほどの少女だった。




