前編
3号塔より報告します。
あれほど徹底的に壊滅させたはずなのですが、本日も《虚人》が複数回襲来しました。天候も比較的良好だったため、こちらに被害はありませんでしたが、奴らの絶対数を考えると恐ろしくなってきますね。
……それはなんとも言えません。ただ、少なくとも我々よりも多いとは思います。1号塔以外は地形的に守りやすいため、先日のような大襲来はとても稀ですけれど、裏を返せば1号塔はどこよりも過酷な環境を背負っているのですよね。ヘクトが新入り期間も明けきらないうちにここへ転属になった理由も、ほぼ察しがつくというものです。
本日の定時報告は以上です。それではまた明日。
3号塔より報告します。
ああ、やっぱり声は少し変ですね。
……いえ、S型装備を使用してうわっ!?
……いや大丈夫ですよ。元々、慣れるために使っているのですし、基地長と何度もテストをしたではありませんか。私と基地長がこの装備の保証人です。
……まあ確かに、私のようなことをしていればそうは認められなくなるというのが通説ですが、私との通信は基地長だけが聞くものですから、問題ないですよ。
……およそ70パーセントといったところでしょうか。首のあたりまでです。これでもS4までは余裕をもって使用できます。先日の襲撃の際でS3まででしたから、《亜虚化》状態でも実戦に堪えるでしょう。
それにしても、やはり不思議な感覚です。いえ、嫌いじゃないですよ? ただ、前にヘクトに腕を刺された時は、やはり通常の身体がなによりも素晴らしいように思えました。あの瞬間、自分の身体から流れ出る血が、生きていることの尊さと、ある種の快感を私にもたらしてくれましたから。
虚と実を往来する私の身体がいつまでもどちらでもいられる保証まではない、ということは分かっているのですがね……
3号塔より報告します。
研究対象案件をひとつ確認しましたので報告します。
ヘクトが警戒にあたっていた夜明けのことなのですが、地平線に三体の異種の《虚人》を視認したそうです。画像データを送ります。
……いえ、その後去っていったとのことで襲撃も被害もなかったので、定時報告で上げました。こちらで呼称も定めておきましたので、ご確認ください。
補足ですが、日の出の際の反射光が青色だったそうです。形状の特異性と反射光とで異種とみなしたのですが、あとは解析を待つしかないですね。
……はい、私もこの緊張が続くくらいならばむしろ早く襲来してほしいとさえ思えてしまいます。
3号塔より報告します。
今日は天候不順で視程が警戒域まででしたが、襲撃はありませんでした。
……あの、基地長。やはりソウとヘクトには、私の《虚化》について話しておくべきではないでしょうか。
……いえ、ただやはりあれ以降は二人との間に抜けられない壁があるように思われるので。それに、私が《虚人》のそれとは違う《虚化》である、という程度の表現ならば知られても問題ないのではないですか?
……それは当然です。私は人間ですから。もっとも、《虚人》に悲しみがないとは限らないですけれど。
……そうですか、分かりました。それでは、今日はこれで。
3号塔より報告します。
と言っても、特に報告することはありません。今日は特別、星が綺麗というくらいですかね。もっとも、そちらのほうが見える数も輝きも桁違いなのは分かっていますが。
……詩は嫌いではないです。友人が詩を書いていたこともありましたので。
……あの、私もなんとなくは気づいているので、もう隠す必要はないですよ。
……とぼけても無駄です。このマイクとスピーカーだけしか基地長とのつながりがないということがどのような意味を持つか、基地長ならば理解できましょう。
……基地長?
これも耐用年数なんて無視されているからなぁ……