前編
お久しぶりです、基地長。
塔にこのような区画があるとは思いませんでした。《虚人》に抗うので精一杯な隊員たちにとっては、反乱なんて無縁ですから。
そう、私がここに入れられているのもおかしいと思いませんか?
……すみません立場も配慮せずに。
ですが、その言葉はありがたいです。あとしばらくは検査に耐えられそうです。
やたらと痛いんですよ。《虚化》してしまうのではないかと思えます。
……茶化せないですよね。
こんばんは、基地長。
もしかして毎晩来るつもりですか?
暇じゃないでしょうに、なんの理由があって……
……そうですね、無粋でしたね。
ソウとヘクトはどうしていますか? 私がいなくて大丈夫ですかね。
……当然です。心配で仕方がないですよ。早く戻ってやりたいです。
……それは覚悟しています。でも、私はどのような扱いを受けようとも、塔を守ります。
それに、ソウやヘクトもまた、守るべき大切なものですから。
こんばんは、基地長。
それは……本ですか? もしかして私に?
ありがとうございます。この房には暇つぶしになるようなものが少なかったので。
……テレビなんて、塔で放映されている番組は何十年も昔の番組の再放送ばかりです。
軌道居住区で放送されている番組はどれほど面白いのでしょうかね。まあ観たいとはあまり思わないのですが。
おや?
これはどういうことですか基地長?
私の収容期間は短くはないだろうと思っていたのですが……
ああ、そういうことですか。分かりましたよ。
余計なおせっかいというか、あなたは本当に自分の身が滅ぶまで人を救おうとしますね。
今回の私の解放の代償は?
……私、前よりもかなり価値が上がったんですね。
3号塔より報告します。
本日正午に復帰しましたが、以前と変わりありません。
普通なら変わることが怖いのでしょうが、どうも私は変わらないことのほうが怖いようです。
これも私が普通ではないことの証拠なのでしょうかね。
3号塔より報告します。
大規模侵攻の情報なんて、どうやったらそんなものが分かるのか教えてほしいものですね。
基地長はご存知なのでしょう?
……まあ、立場というものは不自由ですよね。
いずれにせよ、私は基地長の命令に従い、《虚人》を迎撃するだけです。
また《虚化》しろと言われても、私はこの身を捧げましょう。
私にしかできないことなのですから。