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3号塔より、弾雨が降る  作者: 雪原たかし
観測を終えず、続く者
14/16

後編

「待てやめろ!――――」

 ジュパッ、と重く湿った音を立て、放たれた射線。

 扉をすり抜けたワタシの目の前で、彼より若いだろうか、ひとりの隊員が自らの頭蓋を撃ち抜き、身と血を散らしながら床に崩れ落ちた。

 そして、彼もまた床に膝をつき、うなだれた。




 『もう一度……また来るから!!』

 そう言ったワタシの姿を、彼は覚えているだろうか。

 ……いや、もはやそのようなことが彼の中にあると思えない。

「なん……あぁ……あっ……えあっ…………」

 自決した隊員の遺骸に這い寄り、欠けて鋭い刃のようになった腕で、刺し貫いてしまいそうなほど激しく揺する。みるみるうちに隊員の皮膚が裂傷にまみれ、それでも彼は揺するのをやめようとしない。

 こんな姿を目の当たりにして、ワタシはいったいなにを信じたらいいのだろう。

 ()れたらいいのだろうか。

 こんなふうに――――

「っ……!」

 彼が跳ね上がり、後ずさった。

「誰か……誰かいるのか……?」

 その反応と言葉とで知る。

「ああ。ここにいる。ワタシはここにいる」

 この言葉は彼に届かないのだと。

「誰っ……誰か……」

 それでも、()れられるのだと。

 そして、彼に()れた瞬間、ワタシは感覚に教えられた。

 ワタシはもう消えないのだと。

「見えっ……見えないのに……なんで……」

 きっと彼だけに()れられるのだろう。彼はもはや唯一なのだから。ワタシもまた唯一なのだから。

 それはもう確かめようがないことだが、確かめる必要などないことだ。

「ヘクト……ヘクトなのか……? それともソウか……?」

 彼が望むならなんだっていい。

「私は……お前たちを守っ……守れっ……」

 ワタシはこれから永久(とわ)に彼と共にあり、彼はこれから永久(とわ)にワタシと共にある。

「すまない……えあっ……あぁ……」

 ただ、ほんの少しだけ、彼のほうがより孤独なのだ。

「っ!?」

 ワタシは彼の背に指を当て、言葉をなぞる。

 彼は背に意識を集わせ、そしてその言葉に気づいた。

「あぁ……約束しよう。今度は、必ずだ……」

 言葉は、伝わる。言葉だけなら、伝わるのだ。






 彼は立ち上がる。肌はもう人間のそれには戻らない。自決した隊員の遺骸の上にベストをそうっと掛け、彼は部屋を出る。

 振り返らずに進み続け、基地を去り、塔との境界上でようやくひたと立ち止まる。

 そして、彼は見送る。広大で空疎な宇宙へ旅立つモノを。

 地に降り立つと、彼は隊員たちを埋葬する。失われた腕の断面で、地に這いつくばって掘った穴に。決して遺骸に直接()れることなく。

 最後のひとりは、一五式と共に散ったあの隊員だ。彼はその隊員を埋める前に、ウェアの上着をそうっと掛け、ひとすくいずつ埋めゆく。

 こうして、彼はひとつの時に別れを告げ、そこからまた、新たな時間を始める。

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