むかしばなし -創造主の夢-
戦いはいつだって、 自分勝手に行われる。
何かが欲しい。
何かが嫌い。
そうして奪われるのは、 同じ‘生き物の命’
始まった戦いを終わらせるのにも、 命が必要。
勝てば英雄。
死すれば悪党。
そうして作られるのは、 生ける者達の織り成す歴史。
次に歴史の生贄になるのは、 一体誰だろう。
今の世界になってから二千年程経っただろうか。
いつもいつも同じだけれど、 今回もまた、 戦いの歴史だった。
欲に忠実に。
己に正直に。
戦って、 戦って。
他を認めず、 己の繁栄を見て欲し、 栄えて滅びていく。
ここ数百年の内では、 戦いの主な火種にダークエルフなる種族も加わりかの種族を討伐する為の戦いすら巻き起こる始末。
この時代も、 戦いは頻繁に起こっていた。
同じ種族同士でも争うし、 混沌とした世界には魔物も多く発生していた。
血を流し、 沢山の命が奪われる。
そんな時の繰り返しの中ではあるが、 この時代、 ‘英雄’と呼ばれるに相応しい少女が存在した。
名はライア・エリティア。
人の身でありながらエルフ族を凌駕する魔力を持つ彼女は、 世界を創りたもうた神とも繋がりを持っていた。
世界のバランスを保つ精霊と契約をし、 その力を持って、 世界を平和にせんと戦っていた。
観音開きの大きな扉を開けると、 多くの本が収められた本棚が並んでいるのが見えた。
扉をくぐってすぐにあるのは、 長いテーブル。
其処には、 今沢山の本が山積みになっていた。
まるで図書館の返却カウンターの様で、 その山から本を抜き出し読んでいる若い女が居た。
さながら司書であろうか。
彼女はカウンターの中にある椅子に掛けている。
灰色の大きな目は、 開いた本の頁を凄い速さで追っていた。
いつも被っているボックス型の帽子を床に放り出し、 薄い紫の肩までの髪が乱れるのも構わず本に向かう。
司書の名前は、 リアクトと言った。
全ての時間と生けるモノ全ての記憶が綴られた本の管理者として、 この図書館を管理する存在。
世界で誰かの時間が終われば、 それは一冊の本として彼女の手元に現れる。
それをチェックし、 整理するのが仕事なのだが。
今、 この図書館では異常なスピードで本が増えていた。
「これも……これもっ! なんでこんなに悲惨な最期ばかりなの!」
近代稀に見る速度で増え続ける本に苛々しながら作業をしていたが、 そんな状態で上手く行く筈も無く。
ついにはカウンターを思いっきり叩いて、 ぜいぜいと肩で息をしていた。
暫くそうして、 大きく溜息を吐いたと思ったら椅子にすとんと座る。
「……リアクト」
入り口で、 金髪の少年が彼女を見ていた。
手にはティーセットを乗せた盆を持って、 すたすたと歩いてくる。
「……」
「苛々しても仕方ないですよ。 迎えた終わりは変えられない。 ……ちょっと落ち着いたらどうですか?」
「わかってる!」
「それが苛々しているって言うんです……」
本を寄せて、 カウンターの上に盆を置く。
カップは三つ。
ご丁寧におやつも用意して、 少年は苦笑した。
「デスターも、 仕事場で怒ってたから休憩するように言ってきました」
「……いいの?」
「いいですよ。 今は、 君達二人が一番疲れるポジションですから」
「……シャール……」
そうして、 お茶の用意が始まる。
彼の心遣いにリアクトが感動していると、 黒髪の青年も図書館へとやって来た。
遠めにも、 目の下に薄ら隈が見える。
リアクト同様、 ぐったりとしながらもデスターが登場した。
「デスターもお疲れ様。 此処で休憩しましょう」
苦笑しながらそう言い、 青年はそれに従って空いていた椅子に腰掛ける。
「……すまないな」
「有難う」
「二人ともお疲れ様」
陰鬱な空気を和ませる為のお茶会がスタートした。
私が精霊と呼ばれる彼等と時を共にするようになったのは、 本当に偶然だった。
けれども、 世の中には偶然などないのだと、 彼等は言う。
これ、 全て定められしこと。
全てが、 必然的に行われる。
創造主……私達の言葉で言う、 神の御心のままに。
シャールは、 特別造りの綺麗な真っ白の扉に手をかけた。
そっと開くと、 真面目な顔をして部屋の中を見詰めた。
「主様達」
ふわりふわりと、 シャールが‘主’と呼んだ銀髪の少年少女が浮いている。
真白の正方形の箱の様な部屋。
床の中央には、 複雑な文様が幾重にも描かれている。
彼等はその上を、 呼吸に合わせて多少上下しながら浮いていた。
「……シャール?」
部屋に入ってきたシャールに向かい、 目覚めたルディアが声を掛ける。
涙を溜めた銀色の瞳で、 彼を見た。
少年は扉を開けた向こうに立っている。
部屋に入ることは無く、 ただ、 彼等を見ていた。
「……」
次いで目覚めたフォートは一人床に降り、 扉の前に向かう。
入り辛そうにして居たシャールと対面をすると、 困ったような顔をして見つめていた。
「フォート様。 ……あの……向こうでは、 何が起こっているのですか?」
‘向こう’とは、 生き物たちが住まう場所。 箱庭と呼ばれる時も有るが、 彼等の創りたもうた世界の事である。
何が起こっているのか、 答えをシャールは知っている。
けれど、 どう切り出した物かと悩んだ末、 あえて訪ねた。
回答したのはフォートだった。
「戦争だよ。 これからまた、 幕が開ける」
「……またですか」
「うん。 僕等が共有してしまったから、 このまま形になるだろう」
「…………そうですか。 今回は、 何故?」
「黒の子供が、 世界に愛されないから」
ふ、 と息を吐くシャールに、 少年は苦笑して返した。
そんな二人に、 ルディアが割って入る。
「……止めて。 この戦いを。 彼女に、 お願いして」
「ルディア様……、 それは」
「彼女じゃないと、 止まらない」
「……それは……」
「黒の子供は、 救えない」
か細い声が、 シャールの言葉を制する。
そうしながらも、 少女は子供の様に涙した。
どうしたものかと少年の方を見ると、 なんとも言えず悲しい顔をして少年はシャールに背を向けた。
「シャール……後を頼むよ」
フォートが目を閉じると、 またふわり、 と体が浮いた。
「僕等は、 これからまた、 実体を保つのが難しくなりそうだから」
「……。 ……畏まりました。 主様達の仰せのままに」
「すまないね……」
戦いが起きようとしていた。
否。
人間同士の間では、 戦争が起きていた。
それは遥か昔より繰り返されたこと。
今も規模の大きさは問わず沢山の戦争が起きているけれど、 今回は少し毛色が違うようだ。
「……また、 戦争かい?」
「……ええ。 今は南のエルフの集落と近くの村の方が同盟軍を組んで居られるとか」
アルミス国が世界に自慢する、 世界一美しいとされる城ティルア。
そんな城の喫茶室の奥、 大きな窓の近くの席。
喫茶室の長であるエルフの問いに、 赤毛の女が苦笑する。
ゆったりとした制服に身を包むのは、 少女と言っても差し支えない様な若い女だった。
声や物腰が落ち着いている所為か、 見た目よりも幾分年上に見える。
「この子を置いて、 またお仕事に行かなくちゃ行けないみたいです」
彼女の腕には産まれて間もない赤ん坊が抱かれていた。
すうすうと心地よさそうに眠る赤子に、 彼女がそれはそれは優しい顔で微笑みかける。
「……先日出産したばかりだろう?」
「マスターったら、 もう半年も前ですよ」
上品な笑みをマスターに向けると、 そのまま窓の方へと顔を向ける。
「雲行きが怪しくなってきました」
「……雨が降りそうだね」
「ええ。 ……近いうちに、 また沢山の涙も流れるでしょう」
「悲しいことだ。 ここ数年はまだ平和だったと言うのに」
「アルミス周辺は、 と言うだけですよ」
苦笑する顔がなんだか寂しい。
「……人は弱い生き物です。 そして、 欲に正直に生きる。 戦いは、 大抵己の傲慢さから始まるもの」
「……」
ぽつぽつと、 雨が降り出した。
「……ダークエルフさんが、 居るのですって。 討伐の為の戦と言うことです。 名目は」
「ほお……。 昔からそんな噂はあったけれど、 本当に居るんだね」
「らしいです。 何故今になって急に動きを見せたのでしょう……?」
「……さて」
「……マスター。 どうして、 人もエルフさんも……他の種族の皆さんも、 ダークエルフさんを仲間外れにするのでしょう?」
「それは……」
何か言いかけ、 マスターは口を噤んだ。
代わりに女が言葉を繋げる。
「怖いから、 でしょう? 強い魔力。 並外れた格闘センス。 そう言う物全てを、 生まれながらに持つ種族だからと聞くから」
悲しそうに、 けれども言葉を途切れさせる事は無い。
「でも。 力を持つだけで、 畏怖の対象とし、 悪と呼んで討ちにいく。 それは可笑しくはないですか? いつかきっと災いとなるから。 そうして彼らの種族は他種族の侵略に合い、 放浪の身となり数を減らしました。 何もしていないのに。 ……でも、 敗北をした彼等は世界の悪として、 今も、 生きているだけで討たれる対象です。 ただ、 力を持つだけで。 ……懸命に生きる彼等を討つ、 私達こそ悪ではないですか……」
腕に抱いた子を抱きしめ、 彼女は悲しみに震えていた。
悲しそうに、 悔しそうに、 細い肩を震わせていた。
「……ライア。 君の様な者が沢山居れば、 世界はきっと平和だよ。 でも、 やはり自分に無いものを持つ物を妬んだり、 羨んだり、 ……憎んだり、 怖がったりするのは、 生き物として仕方の無い事だと、 私は思う。 だから、 戦いは無くならないんだよ……」
ざあざあ。
強くなるだけの雨の中、 彼女等の言葉は弱々しく響いていた。
「という訳で、 向こうの時間であと数年は続くみたいです」
図書館で休憩をしていた、 リアクト、 デスター両名の元にシャールが戻り報告をした。
苛々が大分と収まった様に見えた二人の顔が、 一気に歪む。
それはそれは嫌そうな顔をして、 それぞれのリアクションで嫌だと主張した。
「仕方ないじゃないですか。 主様達が紡がれた未来なんですから」
「……仕方なくねぇよ。 なんだよ、 それじゃ俺等が貧乏くじ引いただけじゃないか」
「そうよそうよ! 早く終わらせる事だって可能なはずでしょ!」
「可能じゃないから長引くんです。 あんまり我侭言うと、 二人とも粛清しますよ……?」
こくり、 と、 自分の分の紅茶を飲みながらシャールが笑う。
「「すみません」」
間髪入れずに二人が謝ると、 シャールはもう一度にこりと笑って見せた。
その笑顔が怖い、 怖い! と、 二人が内心泣きたくなっているのを無視して、 彼はふと息をつく。
「……それで、 君達に話があるのですが」
「え?」
「話? 説教じゃなくて?」
一呼吸置いて、 話を始めたのは先程主人達に聞いた言葉。
「主様達はライアにお願いするそうです。 此度の一件を収める事」
「……あの女にそんな力あるのかよ」
「まあ……彼女は器用ですし。 僕等の力を駆使してもらうとかして、 戦いを終わらせる方法は色々あると思うのですが。 ……でも、 そういう事じゃないと思うのです」
何か含んだ物言いに、 デスターが首を傾げる。
戦争が始まると言うのに、 人間一人の力でどう終わらせよと言うのか。
そんな簡単な事でいいのなら、 しょちゅう起こる戦いはすぐ終結しているだろう。
「主様達は、 今回の発端も、 どういう流れで戦いになってどう終わるのかもご存知の筈」
「自分達の夢で創るから、 そりゃわかるだろ」
「ライアに終わらせる様命じろと言う事は、 歴史の変わり目に彼女を使うと言うことかと思って」
「……話が見えないんだが」
「彼女じゃないと終わらない。 そう決められた。 でも、 今までのケースで行くと、 どういう形であれきっと今回も」
「……死ぬって事か?」
「正確には、 殺される、 でしょうね……。 英雄として」
戦争の度、 勝者と敗者が生まれ。
勝者側を英雄、 敗者側を悪と呼ぶ。
両者は共にその戦いで死ぬ事が、 この世界では多い。
それは、 創造主達がそう夢見るからなのだが。
今回、 勝者側に選ばれたのは、 精霊達の契約者ライア・エリティアだと言っているのだ。
「……それは、 あんまりじゃないの?」
「創造された時間は、 もう僕等には決定事項。 変更は出来ません……」
「……でも、 ……」
「それに、 ‘彼女じゃないと、 救えない'と仰った。 ……ライアじゃないといけない理由があるんでしょうが……」
「……なんだよ」
「僕には、 ……紡がれた夢通りに進めることが良いことなのか、 たまに分からなくなります」
「……シャール」
「それについては、 後で話そう。 ……それで、 あの女にはお前が言いに行くのか?」
「……まあ、 それも仕事ですから」
弱々しく笑う少年と、 悲しそうに顔を曇らす彼女と。
「……貧乏くじ、 お前とあの女もしっかり握らされてる訳か。 ついてねーな」
実に不愉快そうに、 青年が吐き捨てた。
「マスター」
城にある自身の執務室にライアは居た。
仕事をする時は子供をメイドに預け見てもらっている。
彼女にはもう一人、 五才になる息子も居るのだが、 彼も一緒にあずけていた。
子供達が傍に居ない所為か、 先程喫茶室で見せていた優しい母の顔ではなくなっていた。
そんな中、 シャールが珍しく現れたのだ。
来客を確認した途端、 ふんわりと優しい面持ちに変わった。
「あら……シャール? どうしたの?」
「いえ……あの」
「珍しいわね。 こうして来るのもだけれど、 ……貴方のそういう話し方」
くすくすと茶化すように言いながら、 にこりと笑いかける。
けれどもシャールは困ったようにライアを見るばかりで、 遂にはどうしたものかと俯き視線を泳がせていた。
「戦争のお話かしら?」
「……、 はい」
「神様の夢が紡がれたの?」
「……」
こくり、 と首を縦に振る。
「そう」
「……それで……あの、 ……」
「私が関わるの?」
「……はい」
「じゃあ、 シャールは死刑宣告に来た訳ね」
「……!!」
「辛い役回りね……。 引き受けてくれて有難う」
机から離れてくしゃりとシャールの頭を撫でると、 彼は慌てて顔を上げる。
そんな様子にライアは苦笑し、 机に身体を寄せた。
「そんなに驚かなくてもいいでしょう」
「……何故」
「だって、 シャールがそんな言い難そうにしてるなんて、 きっと私の命に関わる事なんでしょうし。 他の要件ならリアクトが来るでしょう。 戦争の話だとも言ったでしょう? 今、 世界はダークエルフ討伐に燃えています。 その為に国と国とが協力し、 連合軍まで組まれる大きな戦い。 私は立場上、 其処に行かなくては行けなくなる。 だからそうかなって。 ……違う?」
「……はい」
「そっか」
やっぱりなー、 などと言いながら天井を見上げる。
「それは、 何時頃かしら?」
「わかりません。 けれど、 こちらの世界の時間で言う、 数年後には間違いなく、 だと」
シャールが重く伝える言葉の一つ一つを受け止めながら、 彼女は考え始める。
少しの間そうして居たかと思うと、 今度は真っ直ぐにシャールを見た。
「わかった。 時間がまだあるなら、 大丈夫」
そうして、 にっこりと笑って見せたのだ。
「……死刑宣告を受けた人のリアクションとは思えませんね」
「時間が決まったからこそ、 笑ってられるのよ。 泣いてる時間なんか一秒たりともないわ」
「マスター……」
「なあに?」
「僕らは……これで正しいのでしょうか?」
「ん?そうねー」
ふむ、 と声が聞こえる。
腕を組んで盛大に唸ると、 彼女はまた笑って見せた。
「シャールは、 神様の夢をそのまま未来にする事、 どう思う?」
「……それは、 ……主様達が望む世界になるように動くのが僕らの使命。 望まれたとおりになるのは嬉しいです」
「うんうん」
「でも、 こうして……時々未来を創るうえで、 犠牲にしなくてはいけないものもある。 ……それが、 僕には」
「耐えられない?だけど、 何かを生み出す上で、 犠牲は必要でしょう?」
「……」
「終わりが無くては始まることも出来ない。 戦いが起こったならば、 終わらせなくては」
「……マスター」
「終わらせてあげましょう。 だから、 次はもっと上手く作り上げて欲しいな?」
「……貴方は、 それで良いんですか?」
「良い訳ないけどね。 私だって、 ただで死んであげないんだから」
「……」
「ああ、 話は逸れたけど。 シャール? 何をするにも、 迷いがあってはいけないわ?」
「はい」
「神様が創りたい幸せな世界。 それを実現する為に、 お互い頑張りましょう?」
シャールが私に話をしに来てから、 五年の歳月が経った。
その間に、 私は出来るだけ子供達の傍に居た。
私が産んだ二人の子供は、 今は仲良くしていた友人に預け私の実家で見守って貰っている。
一緒に居れた時間は少なかったが、 精一杯の愛情を持って接してきた。
そして、 もう二人。
実子の様に可愛い、 私の愛弟子達にも愛情を注いだ。
一人はキール。 一人はアジェル。
二人とも私を良く慕ってくれたし、 私の真似をして、 城に士官までした。
今では近衛隊と、 アジェルに至っては外交官見習いとして頑張ってくれている。
精一杯に楽しい時間を過ごした。
教えられる事は、 出来る限り教えられたと思う。
悔いなど残すことの無い様に、 精一杯、 生きた。
そんなある日だ。
戦争がいよいよ本格化し、 アルミスも合同軍に加わる事となった。
女王陛下から呼び出され、 私も軍に同行する事になる。
敵はディフィアに住むと言う、 ダークエルフの男、 と言う話だ。
……聞くところによると、 あれから事態はまた変わっているらしい。
当初はディフィアにダークエルフが一人住んでいる、 と言うことだったが。
それを聞きつけた無法者達が、 南で軍を作り暴れていると言う。
ダークエルフ一人を頭として、 それは活動していると言うが……何処まで本当なのか。
これを機に他の国を侵略しようとする動きもあるようだ。
しかし……力や噂が、 混乱を大きくしているのは確からしい。
大きな力を持っているからこその悲劇。
どうして私をと神が言ったのか、 よくわかる。
私も、 同じだ。
人の身ではあるけれど、 力を持つ故の畏怖の念。
少しは分かるかも知れない。
それに、 ……私は彼を殺す気は無い。
私は、 賭けをしたいと思っていた。
この戦いで、 私は間違いなく死ぬことになる。
いや……きっと、 殺されてしまうだろう。
そう決められたのだから、 変わらないと思う。
でも、 終わりがあるならば、 私の終わりから何かを始めてもいい筈だ。
シャールにも言ったが、 ただで死んでやる気は毛頭ない。
だから私は考えた。
彼を救う方法を。
ダークエルフはその力の膨大さ故に、 成長の過程で精神が二つに割れてしまうらしい。
これは推測に過ぎないけれど、 殺戮に力を使う精神と言うのがきっとある筈だ。
とするならば、 これをどうにかすれば彼は平穏に生きられるだろう。
力を持っても、 平和に生きていける。
こんなにも世界に嫌われた彼を救いたい。
そして同時に、 世界も平和に変えることが出来るかも知れない。
もし仮に、 一人でなくダークエルフが集落を作っているのなら、 それを守りたい。
ひいては、 私の子供達の生きる世界も平和に出来るかも知れない。
上手く行くかはわからないが、 出来うる限りの準備は全てする。
だから、 きっとやってくれることだろう。
私の意志を、 託そうと思う。
そのために、 私は、 決められた終わりを受ける事にしたのだから。