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ワールドクライシス  作者: かたせ真
エリティアの人たちのお話
48/62

優しい眠り 1

キラとデスター。旅をしながらお仕事の巻。


 この世界にはギルドと呼ばれる仕事紹介案内所がある。

 地域にも寄るが、 種族、 性別、 年齢、 スキルに問わず登録が可能であるのが利点だ。

 内容も、 届けものの様な簡単な仕事からトレジャーハントや魔物討伐まで様々。

 要人の護衛や暗殺、 なんてものもあるらしい。

 言うなれば何でも屋の事で、 報酬と内容が見合うと思えば誰でも請け負う事ができた。

 キラはこのギルドの存在を知ってから、 ちょくちょく路銀稼ぎと社会経験を積むために仕事を請け負ってきていた。

 本日も、 そんな仕事の途中である。


「此処、 かな」


 小さな包を手にした彼女は、 遠慮がちに扉を叩いた。

 町から少し外れた場所にあるこじんまりとした家だが、 射し込む光は輝いてとても綺麗なところだった。

 到着したのは昼時で忙しいのではと緊張する中、 顔を出したのはエルフの男性だ。

 見た目には二十代くらいの金髪で碧眼。 白くて長い耳が覗く。 ……そして当然の様に眉目秀麗である。

 若く見えるが間違いなく年上の人であるし、 仕事できているのだからとキラは緊張した面持ちながら背筋を正した。


「……どなた、 ですか?」


 男は訝しげにキラを見た。

 彼女が知っているエルフの人々はあまり人間に対して何か思う素振りは見せないが、 世間はそうでないらしい。

 そんな話を思い出して、 キラは警戒心を解いてもらおうとへらりと笑ってみせた。


「セリフェさんで合ってますよね? 届けものがあります」

「届けもの? ……こんな辺鄙な所まで」


 ずい、 っと手にしていた小さな包を差し出す。

 セリフェと呼ばれたエルフは恐る恐る受け取り暫し見詰めた後、 中身を確認してやっと肩の力を抜いた。


「……ああ、 予定より早かったんですね。 有難うございます」

「予定?」


 依頼者が知らせでも出したのだろうか? そんな疑問を浮べるキラに男は柔らかに笑ってみせた。

 回答は得られないままではあったのだが、 彼はキラに待っている様に告げると、 一度部屋の中へと引き返す。

 直ぐ様戻ってきた彼の手には小さな革袋が握られていた。


「報酬です。 ……あの、 ところで」

「はい」

「アナタ、 女性の方ですよね? 良ければこれも、 受け取って貰えませんか?」


 性別を確認される程男勝りでは無い筈だと本人は思いながらも、 キラは流すことにした。

 差し出された手の中を覗き込むと、 小ぶりで金細工のブローチが収まっている。

 細い糸を編んだようなそれは薔薇の形を構成し、 中心には青の小さな石が飾られていた。


「……これは?」

「娘に、 プレゼントしようと思ったのですけど」

「娘さん?」

「はい……ノエルと言うのですが。 渡しそびれてしまったまま居なくなってしまって。 妻にも先立たれてしまいましたし、 私が付ける訳にもいきませんから」

「でも何故オレに?」

「アナタにお渡しするのが良い気がして。 なんででしょうね」


 ブローチは不要なら売って下さい、 と男は苦笑し、 再び「こんな辺鄙な場所に来てくれて有難う」と言って扉を閉めた。

 キラは手に残ったブローチを眺めながら、 まあいいかと一先ず革袋と一緒に懐に仕舞い込んだ。














「デスター、 今大丈夫?」


 珍しく普通に扉をノックして彼の仕事場に来たのはリアクトだった。

 一冊の本を抱えて、 控え目に扉を開けている。

 扉の向こうでは、 部屋の主が今、 仕事を終えようとしていた。

 安寧の眠りを約束された繭の中に、 死を悲しむ魂達を送り届けたところである。

 きちんと見届けてから、 来訪者の元へと歩いていく。


「……構わないが……。 リアクト」

「何?」

「普通に部屋に入れるんだな」

「…………何が言いたいの?」


 丁度向かい合う様になると、 彼女は彼を見上げてあからさまに嫌な顔をした。

 けれども大きな目をいくら細めても大した効果は見られない。

 デスターはさらりと流して、 普段通りやや不機嫌そうな顔で腕を組む。


「で、 何の用だ」

「ああ、 うん。 あのね、 この本なんだけど」


 差し出されたのは、 背表紙が掠れて読めなくなってしまっている本だった。

 リアクトが管理するのは箱庭の世界の生き物の記憶。

 本のタイトルは記憶の持ち主だったモノの名前が記される。

 掠れて読めないと言うのは何らかの理由がある筈だった。


「この本の魂が、 此処に来た形跡はある?」


 リアクトは神妙な面持ちで訪ねた。

 デスターは受け取った本に手を重ね、 目を閉じてみる。

 けれど、 僅かにそうしていただけで再び目を開けると首を横に振った。

 本を再び彼女に返しながら、 彼もまた神妙な面持ちになる。


「……知らないな。 これがどうしたんだ?」

「向こうの世界からまだ離れられないみたいで。 探してきてくれない?」

「どの辺りだ?」

「ええと……」


 告げられた地名を復唱するのを見、 リアクトは「宜しくね」と笑った。

 頷いたデスターは、 しかし。 はて、 と思い当たる。


「リアクト」

「え?」

「お前、 これ……最近の事じゃないよな」


 ぎくり、 と肩を跳ね上がらせつつもリアクトはにこりと笑ってみせた。


「えー?」

「……とぼけるな。 怒られる前に謝っといた方が良いと思うぞ、 俺は」

「……あー……うん。 ご忠告痛み入るわ。 でも正直な話、 私にもわからなかったのよね」

「わからなかった?」

「よく見えない、 みたいな。 遮蔽物がある様で感じ取れなくて」

「ふぅん……」

「こんなになって漸く気付けたの。 名前を忘れてきているみたいだから、 悪いんだけど……」

「急げって言うんだろ。 分かったよ」


 目を閉じると、 姿が消えていく。

 彼が消えたのを確認し、 リアクトは手にした本を優しく撫でた。


「……気付いてあげられなくて御免ね。 名前は必ず思い出せるから」















「お前な……、 ちったぁ警戒心を持てって言ってるだろ!」


 町の方に戻ってくる最中の道での事であった。

 昼時を過ぎて、 少し。 ぽかぽかとあたたかな日差しの中で彼女は事件に巻き込まれていた。

 ……いや、 巻き込まれた、 と言うのは違うかも知れない。

 ベタな話であるが、 道の往来で困っている人が居た。

 荷物を運んでいる最中、 馬車が転倒したと言う。

 人通りも疎らであり、 大変だろうと手伝いを申し出た。

 散らばった荷物を拾う手伝いをし、 立て直すところまで付き合った。

 礼を述べる馬車の主であったのだが、 此処からがキラの引きの強いところ。

 彼は物取りであり、 有り金寄越せと襲われたのである。

 非常に冷静に対処した結果、 多少の怪我を負いはしたが返り討ちにし事無きを得た。

 逃げていく物取りを見送ったのも束の間。

 突然現れた男の怒声が響いたのは、 その後である。


「見てたんなら、 手助けしてくれても良いのに」


 街道を反れて座り込んだキラの呟きに、 青筋を立てんばかりの勢いで彼は睨みつけた。


「手助けが居るなら呼べって言ってるだろ!!」


 黒髪と同じ色の切れ長の目をした青年である。

 通常時は不機嫌そうなくらいで大した変化も無い。 だが、 今はどうだ。 ご丁寧に顔に"怒り心頭中"と書いてあるようだ。

 感情の起伏など大して無い方だったのに、 ここ一年程でそれはある一定の条件下のみ変化を見せる。

 ぜいぜいと息など切らせ、 キラを見る。

 彼女は態とらしく耳など塞いで見せたかと思うと、 ちらり、 と青年を見上げた。

 見上げたくらいでは止まらなさそうだと感じ、 重たい口を開くことにする。


「デスター……そんなに大きな声出さなくても聞こえるよ」

「ならいい加減学習しろ。 何回目だよ……ったく」

「……えー……と?」


 とぼける彼女は、 あさっての方向に視線を送る。

 いくら人通りが疎らだと言っても、 これだけ大きな声を出せば道行く人はこちらをちらちらと見やる。

 注目されるのを快く思わないのは同じ筈なのに、 今日は収まらない様だ。

 視線を合わせないキラを見やり、 デスターは盛大に溜息を吐いてみせた。

 彼等は人を超えた精霊と言う神に近い存在と契約者と言う間柄ながら、 最近は何処か保護者のそれを思わせる言動が増えてきてるのは間違いない。

 キラは故郷で待つ兄と目の前で苛々しているデスターを重ねつつ、 顔を顰めていた。











 時間は経過し、 同日の夜の事である。

 宿泊先に選んだ安宿のベッドの上で、 キラは本日何度目かになる溜息をついた。


「……あんなに怒らなくったっていいのに」


 ぶちぶちと文句を言いながら、 ばさりと適当に上着を脱ぎタンクトップ姿になる。

 窓から入る月明かりは明るく、 妙に傷だらけの身体を照らしていた。

 左腕に撒かれた包帯は肩から肘までと範囲が広い。

 これまた適当に外しながら、 昼間の事を思い出しまた溜息をついた。

 こうなると溜息も止まらないようである。

 小さな袋をベッドの上でひっくり返し、 中身を雑に取り出す。

 零れ出てきた薬やらの中から包帯を掴んで手に取った。


「……デスターも、 最近ちょっと過保護すぎやしないか」


 言いながら、 再び兄の姿を思い浮かべる。

 こんな怪我などして帰った日には、 それはもう、 あれやこれやと構いたがるに違いない。

 それが兄の愛情表現なのは重々承知しているけれど、 しかし、 である。

 贅沢な事とは思いつつ、 兄一人でも頭を悩ませる事があるのに人ならざる彼でさえもこうとは。

 はあ、 と、 またも溜息が部屋の中に消える。

 そうして、 面倒そうに包帯を巻き始めた彼女であったのだが。


「そりゃあ悪かったな」


 不機嫌を絵に描いた様な顔をしたデスターによって、 手を止めざるをえなかった。

 いつから居たのだろうか。

 窓際で、 腕など組んで立っていた。

 だが、 しかし。 ベッドに座るキラに詰め寄ると、 そのまま手にしていた包帯を奪い取る。


「俺がやる」

「……はぁい」


 観念したように目を伏せるキラの腕に、 丁寧に包帯を巻いていく。

 手馴れた物で、 始めに彼女がしていたよりは格段に早く綺麗に巻けていた。


「デスターって、 割と几帳面?」

「……お前が雑なんだろ。 治そうと思えば魔術で治せる筈なのに、 なんでこんな……ったく」


 溢れ出てくる小言は、 もう聞かない事に決めたらしい。

 キラはあさっての方向を見たまま、 終わるのを待った。

 処置が済むと「有難う」と礼を述べる。

 けれども、 彼はちらりと見遣っただけでそれ以上何かは無かった。


「……ああ。 で、 本題だ」

「……もしかして、 また説教?」

「お望みとあらば、 朝まで苦言を言ってやろうか」

「……要らない」


 うんざりとした表情を隠そうともせず眉を潜め、 視線を外す。

 彼はそんな彼女を見やり、 わかりやすく溜息をついた。


「言っておくがな。 お前がそんな調子だからだぞ」

「……オレの所為だと」


 悪いことはしていないのにと言わんばかりの言葉に、 デスターは益々不機嫌そうに顔を歪める。


「あのなぁ。 ……ベタに道で困ってる奴が居て、 手を貸したら実は物取りでしたなんて……気づけよ」

「見てたならわかるだろ? あんな状態だったら手を貸すだろ。 普通」

「心意気は評価するが、 お前その後襲われてるだろ」

「荷物は守ったし、 ちょっと怪我したくらいで追い払ったし、 ちゃんと解決しただろ」

「ち ょ っ と 怪 我 し た く ら い ?」


 ひくり、 と彼の頬が痙攣した。

 しまったと彼女が口を塞いだのも、 最早後の祭。

 物凄い形相で彼女を睨む目とぶつかった。

 もう言葉にせずとも「何度目だ」と目が訴えている。


「……お前な。 人助けするのは構わんが、 それで死んだらどうするんだよ」

「それは、 オレの力量が足りなかっただけの話だろ?」


 両者はお互いに、 言い分には一理はある、 とは頭の隅では感じていた。

 世の中、 良い出来事ばかりではない。

 どんな環境下でも、 何かに巻き込まれる可能性はあり、 それが死を伴う物であるかも知れない。

 だから気をつけるべきだとデスターは言い、 能力が高ければ切り抜けられるとキラは言う。

 彼女は知らないが、 彼女の母も同じ系統の人間と言える。

 実際能力が高く、 どんな状況下であろうとなんとか出来てしまったと言う実例付きだ。

 そんなとこまで似るのか、 と彼は心中で悪態をついた。


「ガキの癖に、 力量が云々言える立場か」

「言えないと思うから、 経験を積んでるんだろ」


 真っ向から対峙する様は、 さながら火花でも散る様だ。

 ほんの僅かな時間睨み合った後、 視線を反らしたのはデスターだった。


「……なら、 好きにしろ」


 立ち上がったかと思うと、 姿が掻き消える。

 文字通り、 消え去った後はまたぽつんとキラだけが部屋に取り残された。


「……なんだよ」


 手近にあった枕をベッドに叩きつけて、 そのまま顔を埋めた。

 ベッドと枕の間に手を差し込んだ時、 枕元に上着を放り出した際に転がり落ちたらしいブローチを発見した。

 薔薇の形をした小さなブローチ。

 青い石が真ん中に埋め込まれていて、 とても綺麗な代物である。


「娘にあげる筈だった、 かぁ」


 プレゼントにする筈だったが、 渡しそびれてしまった。

 こんな物でも売ればお金になるだろう。 そう言われて、 彼女の手の中にある。


「……行方不明って事かな……。 代わりに渡してあげられたら良いのに」


 枕元にそっと置いて目を閉じた。

 そうして暫くの後、 眠りの海へと落ちていくのはすぐだった。



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