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ワールドクライシス  作者: かたせ真
エリティアの人たちのお話
46/62

魂を繋ぐ物語

キラとデスター。本編後。

デスターの過去話有り。暗い目です。

 夢は、 彼等を繋ぐ架け橋となる。


 契約と言う概念で繋がった彼等は、 意図せずして思い出を共有する事があった。
















 しん、 と静まり返った夜だった。

 この日も彼女は夢を見る。

 一人で旅を始めてから。 いや、 もっと前から夢は見ていた。

 けれど、 最近の夢はほぼ同じシーンだと言っても過言ではない。


 幸せだったであろう、 彼の人生。

 終わる時は憎しみに支配され、 恨んで死んでいった。


 そんな物語。






 夢の中の登場人物は、 部屋の中で放心していた。

 目の前には血塗れで倒れる女が居る。


 -ああ、 どうして-


 彼は呟く。


 -どうして、 今日だったんだろう-


 言葉を発する程に、 ぼろぼろと涙を零した。


 -なんで、 こんな形で……-


 泣きながら、 縋る様に女に手を伸ばした。

 もう動くことはないと知っていた。

 倒れている女が死んでいる事は、 素人である彼にも一目瞭然であったからだ。

 無残に切り裂かれた体には、 切り裂いたであろう刃物が刺さっている。


 -      、 ……っ-


 名前を呼んだ気がした。

 けれど、 もう聞こえない。

 余りに苦しそうで。 余りに辛そうで。

 キラは意識を保てなかった。

 胸が痛むのを感じながら、 シーンが進むことを願う。

 少しだけ時間の経過を感じた後、 彼は別の場所へと移っていた。

 時期も少し進んだのだろう。

 彼は何もない部屋の中で過ごしていた。

 彼女が死んだ場所とは違うところだ。

 薄暗く、 住人は憔悴していた。

 けれど、 目はぎらりと光る。

 窓の外を時折覗いては、 苛々とした様子で煙草を吸った。


 彼女は、 私怨によって殺されていた。

 しかも彼女自身の物では無く、 恨まれていたのは彼だった。

 己のせいで大切なものを失った彼は、 血眼になって奪ったものを探し出した。

 そして、 突き止めた。

 復讐したところで何も帰ってこない事は分かっていたし、 それでどうなる訳でも無かったが。

 許せなかった。 だから、 ……相手を殺そうと考えていた。

 だが、 それも寸でのところで妨害されてしまう。

 相手は既にかの事件の犯人として保護を受ける対象であり、 復讐者から逃れる為に自ら捕まったからだ。

 籠の中に入られては手の出し様は無く、 しかもどういう訳か刑も軽いと言うオマケ付きだ。

 法廷の席でどれだけ声を上げても届くことはない。

 何年かすれば悠々と出てくるだろう。

 許せなかった。

 殺された彼女はもう帰ってくる事は無いのに、 何故。

 そんな事をぐるぐると考えていたが、 次第に思考は停止した。


 -もういい-


 煮えたぎる様な憎しみで、 心は溶けてしまったようだ。

 沸騰するほど激しく怒ったせいで、 感覚は麻痺してしまったようだ。

 部屋の隅でぼんやりとしながら、 ふと思い出してポケットを探る。

 小さな箱から出てきたのは指輪だった。


 -あと一日早かったら、 お前が死ななくて済んだかも知れないよな-


 目を閉じて、 彼は言った。

 思い出すのは、 大好きな彼女の事だ。

 よく笑う人だった。

 朗らかで、 優しい人だった。

 外国の血が入っているらしく、 青い瞳をしていて。

 困ったように笑う顔が好きだった。

 温かい手が、 好きだった。


 指輪を握り締めて、 目を閉じる。


 -二度と会えないのが寂しいよな。 せめて……もう一度会えたら良かったのに-


 無理か。 そう言って、 久しぶりに少しだけ笑った。

 指輪を握り締めたまま、 新たに刃物を取り出す。

 怖くは無かった。

 死後の世界など信じるタイプでも無かったので、 死に対して思うことも無かった。


 この世は憎らしい。 何故、 人を殺しても生きている方が優遇されるのか。

 この世は恨めしい。 おかしなことが溢れていて、 真っ当なことなど何も無い。


 そして、 少し寂しい世の中だ。

 そう思いながら、 彼は自らの喉を掻き切り暫し苦しんで死んでいった。












「…………」


 宿屋の固いベッドの上で、 キラは目を覚ます。

 月明かりが部屋を照らすけれど、 まだ外は暗かった。

 胸が締め付けられるような痛みを憶えて、 身体を縮こまらせる。

 ぎゅっと目を閉じた拍子に、 涙が溢れた。

 きっと眠っている間にも泣いていただろう。

 枕も濡れた跡があった。


 彼女は最初にこの夢を見た時、 すぐ誰の物か気付いた。

 今まで、 創造主や他の人の声を受けて夢に見たがこれは質が違う。

 何処の世界の物か分からない風景だったけれど、 明確に感じるのは"彼"の気持ちだ。

 まるで物語を読んでいる様な気持ちだったが、 これは確かに"彼"の人生だったのだろう。

 気持ちが落ち着くまで丸まって、 それから、 身体を起こした。

 サイドボードに置いていた水差しに手を伸ばし、 冷たい水を少しだけ飲んだ。

 そして。


「……あ」


 いつの間に現れたのか、 彼女が契約する精霊の姿を見た。


「……デスター。 何?」

「いや。 別に……その、 用事がある訳じゃないんだが」

「いつもそれだな」


 実際のところ、 召喚しなくてもしょっちゅう現れてはキラと行動を共にしていた。

 だが、 夜中に現れる事は殆ど無い。

 何か思惑があって来たのか、 様子もどことなく可笑しいなと感じながらキラは苦笑した。

 けれど、 デスターは心配そうな顔でキラを見詰めていた。


「お前、 夢を見ただろ」

「……え?」

「しかも初めてじゃないよな。 ……悪いな」


 夢の話は、 いつもこうして隠していた。

 いや、 隠すと言うのは語弊があるか。

 尋ねられないから言わないと言うのが正解だ。

 多分、 話をすると嫌だろうと、 直感的に思っての事だった。

 そんな訳で謝罪される意味合いは、 直ぐ理解出来た。


「……あー、 じゃあアレは」

「俺が人だった時の記憶だ。 お前、 同調しやすいから気を付けとくべきだった」


 だから、 悪い。 と再び謝罪の言葉を口にする。

 キラは慌ててぶんぶんと手を振る。


「謝る事ないから! ……その……オレも、 言わなかったし。 ごめん」

「……お前、 変なとこで謝るよな。 それこそ謝る必要ないだろ」


 ぽん、 と彼女の頭に手を乗せ、 わしわしと撫でる。


「あんまり気分の良いもんじゃないからな」

「……あの、 さ」

「うん?」

「なんで分かったの」


 ちらりと見上げられて、 彼は手を止める。

 じぃっと漆黒色の目が彼女を見詰めていた。


「なんだろうな。 気持ちがぶれると言うか」

「……気持ちがぶれる?」

「魔力に大幅な変動が出るんだよ。 人間で魔力を多く持つ奴は」


 言いながら、 複雑そうに眉を寄せたのはデスターだった。


「俺が言うのもなんだが、 最近頻繁に起こるからな。 繋がってるから余計わかるわけだが」

「…………」


 そんな彼を見上げながら、 キラも眉根を寄せてうんざりした顔で呟く。


「…………なんかちょっと嫌だな、 それ」

「言うな。 俺もちょっと気持ち悪い気がしてた」


 キラの周りにはどうしてか過保護な保護者が多いのだが、 彼もそれに認定されようとしていたのは彼の知らない話。


「まあ良い。 そんな訳で迷惑かけたな」

「……ううん。 でも同調するのはどうしたら止められるんだ?」

「心配ない。 これからは気をつける」

「……デスターがなんとか出来るのか?」

「大丈夫だろ。 だからもう休め」


 そそくさと寝かしつけられて、 不本意ながら床に付く。

 いつかの様にベッド脇に座り、 子供にする様に頭を撫でながら彼は言った。


「次はいい夢をな」

「……うん。 ありがとう」


 目を閉じれば、 再び睡魔へと捕らわれる。

 暫しの後、 穏やかな寝息をたてる彼女を見て、 彼は溜息をついた。

 離した手を組んで、 うーん、 と唸る。


「困ったもんだよ、 ほんと」


 契約する前から、 彼は度々彼女と同調していた節がある。

 彼の意識するところでは無かったにせよ、 こうも頻繁では彼女も疲れてしまうだろう。

 ちらり、 と視線をやる。

 歳相応の寝顔に、 少しだけ顔が綻ぶ。

 それから解ける様に姿を消した。


 どうか、 穏やかな夢をと願いながら。


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