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ワールドクライシス  作者: かたせ真
エリティアの人たちのお話
44/62

神様の出来心

ライアとペルナの若い時のお話。本編のかなり前。

「ライアちゃんは、 魔術師なのになんで剣も使うの?」


 ある日、 喫茶室の指定席での事である。

 エルフの女はそう問うと、 こくり、 と紅茶を飲んだ。

 問われたのも女だった。

 ライアと呼ばれのは年若い、 傍目には少女にも見えなくはない人間の女である。

 彼女は困ったように笑って、 テーブルの右側に立てかけていた己の剣に視線をやった。


「なんで、 って聞かれても」

「気になっただけ。 言いたくなかったら言わなくても良いけど」

「言っても良いけど、 紅茶、 不味くならないかしら」


 あくまで笑顔のままでライアは言う。

 エルフの女は首を傾げ、 それから、 彼女も困った顔をしてみせた。


「聞いたのは私だから、 それは構わないけど。 血腥い系の話?」

「うん。 まあ」

「ふぅん。 それで?」

「あ、 やっぱり聞きたいのね」

「うん」


 即答である。

 ライアは少しだけ笑みを抑えはしたが、 以外は何も変わらない。

 傍から見れば、 至って穏やかな女二人のお茶会に見えるだろう。


「実家で剣術を教えていたのもあったけど。 誰かの命を奪う、 と言うのが間近で見れるから」


 声音はいつもと変わらない。

 ただ、 事実を淡々と告げたように見えた。

 訪ねたエルフの女も、 表情一つ変えずに言葉を受け取る。


「満足?」

「うん」

「そう。 それは良かった」


 そうして、 にこり、 と笑った。

 エルフの女はライアの笑顔をじっと見つめて、 またこくり、 と紅茶を飲む。


「ペルナちゃんは、 どうして気になったの?」

「どうして、 って言われても」


 立場が逆転して、 エルフの女は笑う。


「言いたいから言っても良い?」

「え? ええ、 良いけど」

「じゃあ、 言うね」


 ペルナと呼ばれた女はカップを置いて、 じっとライアを見た。

 青い双眸に彼女が映り込むようだ。


「貴女は間違いなく、 現段階のアルミスで一番強い人よ。 そろそろ外交官のお鉢が回ってくると思う。 その代わり、 貴女はこの国にとってかなりの重要人物。 なのに、 しょっちゅう独りで戦いに行くし、 でも怪我して帰ってくるから別に魔術で全部解決するでも無いみたいだし。 剣術しか方法が無いなら分かるけど、 どっちかと言えば魔術が本業でしょ? だから、 気になったの」

「それは、 興味? それとも知識欲?」

「両方ね」

「ペルナちゃんの悪い癖よ? 知りたがり」


 くすりと笑ってライアが言うと、 ペルナはにこりと笑ってみせた。


「これは私の病気だから、 事故だと思って続けさせて」

「あらあら」


 ライアは知っていて言っているせいか嫌な顔はしないし、 ペルナはこのやり取りが初めてでは無いので気にせず続ける。

 本人も言っているが"知りたい"、 "気になる"と言う気持ちは止められない。

 突き詰めてしまうのは、 彼女の病気の様なものだった。


「さっきの理由、 別にいい意味じゃ無いよね」

「さあ、 どうかしら。 もしかしたら、 私は好きで誰かの命を奪うのかも知れないわ? 近くで見たいだけかも知れない」

「それは無いわね」

「……あれ、 即答?」

「即答。 嘘付くの下手なんだから、 悪い冗談も止めた方が良いと思う」

「……善処します」


 ライアが乾いた笑いを零すと、 ペルナは空に近い己のカップを弄び始める。

 淵を指先でなぞりながら、 暫し、 考えた。


「嫌だからこそ、 じゃない?」

「……」

「戦うの、 嫌いでしょ? でも、 それでも戦わなきゃ行けないから、 せめてきちんと向き合う為に剣を取ったってところ?」

「……ペルナちゃん」

「何?」

「探偵とか、 やれば良いのに」


 驚いた、 と言って、 ライアは笑った。

 すっかり冷めてしまった彼女の紅茶を漸く一口含んで、 ゆっくり飲み下した。


「どうして分かるの? 凄いね」

「褒め言葉として受け取っておくわ。 うん、 でもこれが正解なら、 私は貴女が心配」

「……そう?」

「うん。 魔力がそこらの人より遥かに強いのに、 更にそんな。 ……精神がやられてしまわないか、 心配」

「ああ、 成程」

「……他人事みたいに聞こえるんだけど」


 呆れて言った彼女に、 ライアは言う。


「私は、 大丈夫だよ」


 と。 微笑んだ彼女の顔を、 ペルナは訝しげに見詰めていた。

 そして、 はあ、 と溜息を吐く。


「貴女の"大丈夫"って、 あんまり信用できないわ」

「あ、 それはたまに言われる」

「なら治しなさいよ。 大丈夫には見えないもの」

「そうかなぁ。 最近は安定してるよ?」

「……最近は?」


 ぴくり、 と彼女の長い耳が動く。

 ライアは口元に手をやるが、 その仕草は何処か芝居がかっていた。


「なんて。 子供の頃の話。 ちゃんと制御出来るから、 問題ないわ?」

「子供の時から、 そんな力持ってるの?」

「うーん。 まあ、 生まれつきみたい」

「……なんで人間に生まれたのかしらね」

「さあ? 神様の出来心じゃないかしら」


 笑っていた気がしたが、 この言葉だけは意味深に聞こえた気がして。

 ペルナはまた、 ライアを見詰める。

 しかし、 ライアはにこにこと笑って紅茶を飲み干した。


「さて、 それじゃあ仕事に戻るわね?」

「……分かったわ。 またね」

「うん、 またね」


 代金をテーブルに置くと、 ライアはひらひらと手を振り去っていく。

 小柄な彼女は暫くすると、 すぐ紛れてしまえた。

 そんな小さな背を見つめながら、 ペルナはまた、 息を吐く。


「……神様の出来心、 ね」


 つぶやくと、 何か不吉な物でも召喚できそうな響きに聞こえて彼女は首を振る。


「……しかし、 人の身であんな力持ってるのに制御可能なんて……どうしてかしら。 私達だって彼処までは。 ……どんな業を背負ってるって言うのかしらね」


 けれど、 彼女は其処まで考えて、 止めた。

 触れては行けないタブーな気がして、 脳が働かない。

 "知りたい"筈なのに、 何故だろう。 そんな事を思いながら、 思考を止めてしまった。




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