終わってから始まったもの- side フォルト姉妹 -
ペルナの疑問。
彼女の願いは、姉の幸せ。
私は先日、 キラちゃんの兄エイルくんと結婚して奥様となった訳なのですが。
そういえば、 と、 私は思ったのです。
我が姉は、 ずーっと同じ人と連れ添って軽く百年くらいを過ごして。
てっきり結婚してるんだと思ったら、 そうじゃないと言う。
結婚と言うのは、 人間だけの概念じゃないし。
エルフ族的にも割と大きな意味を持つものだと思うのだけど。
あの二人はその辺どう考えているのだろうかと。
「と思うんだけどさ。 聞いていいものだと思う?」
テーブルを挟んだ向かいで、 エイルくんが困ったように笑った。
じぃっと見ると、 ますますそれは色濃くなる。
「ねー」
「……いや、 聞かない方が良いとは思うんだけど」
「うん」
「……多分、 ペルナは聞いてしまうよね?」
「まあ、 そうだけど」
「だから、 答えるのどうしようと思っただけ」
よくわかっていらっしゃる。
まあ、 我慢なんてできないし。
明日あたり聞いちゃうと思うけど。
取り敢えず、 明日姉さんのところに遊びに行ってみようかしら。
そうして次の日。
お空は気持ちが良いほど晴れていた。
お洗濯云々を済ませて、 私は元自分の家に足を向ける。
エイルくんと住んでいる家から歩いて少し。
村の外れに、 今姉さん達が住んでいる家が在る。
慣れ親しんだ扉を開けると、 奥からぱたぱたと姉さんが歩いてきた。
「ペルナ? どうかしたの」
「遊びに来たの。 お邪魔しまーす」
「はいはい、 どうぞ」
優しげに笑ってくれた姉さんに安心して、 勝手知ったる元我が家へ入った。
「イリアスさんは?」
「今日は朝から外出してますよ。 遅くなるって言っていたから、 夜まで帰らないんじゃないかしら?」
「ふぅん。 姉さんは寂しくないの?」
椅子に座ると、 すかさずお菓子が出てくる。
暫くしたら、 良い香りと共に紅茶も出てきた。
私の分と自分の分とを注いでくれながら、 姉さんは笑う。
「何故そんなこと聞くの?」
「ちょっと気になって」
「そう? ……まあ、 昔から四六時中一緒ではなかったから、 これで丁度いいくらいではない?」
「そうなんだ」
「ええ」
「それより。 ペルナこそどうしたの。 エイルさんと何かあった?」
じっと見てくる目が真剣。
「ううん。 何も無いってば。 あったらこんな悠長にしてないし」
「……」
一瞬の間。
その後姉さんは困ったように笑って、 「そうね」と言った。
いや、 実際何かあったりしたら即座に押し掛けて、 姉さんに相談に乗ってもらうと思うけど。
「そう納得されると複雑だわ」
「いいじゃない。 仲良くしているなら、 私は嬉しいわ?」
そうして、 姉さんはこれ以上無いほど。 妹の私が見ても文句無く素敵だと言える様な笑みを浮かべた。
それからちょっとの間、 まったりと何気ない会話をして。
そろそろ本題に行こうかどうしようかと思った時、 姉さんがまた笑った。
「それで、 ペルナ」
「……何?」
「何か言いたくて来たんでしょう? 本題は良いの?」
流石、 姉さん。
私がよっぽど挙動不審だったのかも知れないけど、 ばれていたらしい。
新しく煎れてもらった紅茶をこくりと飲むと、 出来るだけ普通に聞いてみた。
「姉さん」
「はい?」
「イリアスさんと、 結婚はしないの?」
「……え、 ?」
聞いた途端に、 かあっと顔を赤らめて非常に気まずそうに顔を曇らせる。
しかもしかも、 暫く見ていたらもう、 耳の先まで真っ赤だ。
「で、 できる訳が無いでしょう。 今更、 そんな。 大体、 私とあの方はそういう関係じゃ」
「え! 違うの!?」
寧ろそっちが驚きだ。
傍目から見ても、 あれだけ仲が良いのに。
あからさまに友人とかそういう域は越えている様に見えたけど、 ……恋人ではないの?あ、 でも「様」って呼んでるよね……。
「じゃあ、 なんなの」
「……何かと聞かれると困ります」
「なに、 まさか遊ばれてるとか」
「ペルナ!!」
「御免なさい。 これは失言。 ……え、 でも」
「……なんです」
「あれだけ長い時間一緒に居て、 何も無いって、 そういう事?」
これはその……流石の私も覚悟の上の質問だったけど。
怒ってると言うより、 恥ずかしいらしい姉さんは、 目にいっぱい涙をためた上に真っ赤になって俯いてしまった。
ふわふわした髪が邪魔をして伺い知れないけど、 テーブルに乗り出して顔を寄せる。
「でも、 好きなんでしょ?」
こくりと頷く。
姉さんがこんなに……、 えーと、 何。
少女みたいなリアクションするって言うことは、 多分、 真剣だからで。
でも、 これに私より長い時間居たあの人が気づかない筈ないよね?
じゃあ、 なんでだろうか。
思考を巡らせる私を遮り、 姉さんは言う。
「だけど、 ……それを言って良い訳じゃないの。 これ以上傍にいけない」
「……え?」
「私はこれ以上入れない」
「……姉さん?」
少しの間、 深呼吸をする。
そして姉は、 顔を上げた。
「ペルナ。 お願いだから、 イリアス様には内緒にしていてね?」
「……良いの?」
「ええ。 もしいつか、 言って良い日が来たら自分で伝えます」
また笑ってくれたけれど。
その顔は、 なんだか悲しげだった。
その日の夕飯時。
家に帰った私は、 エイルくんに経過を報告した。
「……ああ、 やっぱり聞いちゃったんだ」
「まあ」
「それで? ペルナはどう思った?」
「……うーん。 取り敢えず、 悪い事したなって思った」
ちょっと入りこみ過ぎた気はした。
だけど、 やっぱり気になる。
「……姉さんはあれで幸せなのかしら?」
私が見たところ、 あれは姉さんだけが思っている事ではないと思うんだけどな。
……でも私がわからない何かが、 姉さん達にはあるんだろうし。
「ペルナ」
「なぁに?」
「幸せって、 本人が決めることだから」
「そうだけど……」
「肉親の事だから気になると思うけど。 大切なら、 見守るに徹する事も大事だと思うよ」
ね、 とエイルくんが笑う。
自分よりも遥かに年下の子に言い負かされてしまった。
……うう。 でも正論かしら。
物凄く気になる。 気になるんだけど……。
きっと、 何かあれば姉さんは伝えてくれる筈だから。
我慢して、 成り行きを見守ろうと思う。




