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ワールドクライシス  作者: かたせ真
エルフ組のお話
33/62

終わってから始まったもの- side フォルト姉妹 -

ペルナの疑問。

彼女の願いは、姉の幸せ。

 私は先日、 キラちゃんの兄エイルくんと結婚して奥様となった訳なのですが。

 そういえば、 と、 私は思ったのです。

 我が姉は、 ずーっと同じ人と連れ添って軽く百年くらいを過ごして。

 てっきり結婚してるんだと思ったら、 そうじゃないと言う。

 結婚と言うのは、 人間だけの概念じゃないし。

 エルフ族的にも割と大きな意味を持つものだと思うのだけど。

 あの二人はその辺どう考えているのだろうかと。


「と思うんだけどさ。 聞いていいものだと思う?」


 テーブルを挟んだ向かいで、 エイルくんが困ったように笑った。

 じぃっと見ると、 ますますそれは色濃くなる。


「ねー」

「……いや、 聞かない方が良いとは思うんだけど」

「うん」

「……多分、 ペルナは聞いてしまうよね?」

「まあ、 そうだけど」

「だから、 答えるのどうしようと思っただけ」


 よくわかっていらっしゃる。

 まあ、 我慢なんてできないし。

 明日あたり聞いちゃうと思うけど。

 取り敢えず、 明日姉さんのところに遊びに行ってみようかしら。



 そうして次の日。

 お空は気持ちが良いほど晴れていた。

 お洗濯云々を済ませて、 私は元自分の家に足を向ける。

 エイルくんと住んでいる家から歩いて少し。

 村の外れに、 今姉さん達が住んでいる家が在る。

 慣れ親しんだ扉を開けると、 奥からぱたぱたと姉さんが歩いてきた。


「ペルナ? どうかしたの」

「遊びに来たの。 お邪魔しまーす」

「はいはい、 どうぞ」


 優しげに笑ってくれた姉さんに安心して、 勝手知ったる元我が家へ入った。


「イリアスさんは?」

「今日は朝から外出してますよ。 遅くなるって言っていたから、 夜まで帰らないんじゃないかしら?」

「ふぅん。 姉さんは寂しくないの?」


 椅子に座ると、 すかさずお菓子が出てくる。

 暫くしたら、 良い香りと共に紅茶も出てきた。

 私の分と自分の分とを注いでくれながら、 姉さんは笑う。


「何故そんなこと聞くの?」

「ちょっと気になって」

「そう? ……まあ、 昔から四六時中一緒ではなかったから、 これで丁度いいくらいではない?」

「そうなんだ」

「ええ」

「それより。 ペルナこそどうしたの。 エイルさんと何かあった?」


 じっと見てくる目が真剣。


「ううん。 何も無いってば。 あったらこんな悠長にしてないし」

「……」


 一瞬の間。

 その後姉さんは困ったように笑って、 「そうね」と言った。

 いや、 実際何かあったりしたら即座に押し掛けて、 姉さんに相談に乗ってもらうと思うけど。


「そう納得されると複雑だわ」

「いいじゃない。 仲良くしているなら、 私は嬉しいわ?」


 そうして、 姉さんはこれ以上無いほど。 妹の私が見ても文句無く素敵だと言える様な笑みを浮かべた。

 それからちょっとの間、 まったりと何気ない会話をして。

 そろそろ本題に行こうかどうしようかと思った時、 姉さんがまた笑った。


「それで、 ペルナ」

「……何?」

「何か言いたくて来たんでしょう? 本題は良いの?」


 流石、 姉さん。

 私がよっぽど挙動不審だったのかも知れないけど、 ばれていたらしい。

 新しく煎れてもらった紅茶をこくりと飲むと、 出来るだけ普通に聞いてみた。


「姉さん」

「はい?」

「イリアスさんと、 結婚はしないの?」

「……え、 ?」


 聞いた途端に、 かあっと顔を赤らめて非常に気まずそうに顔を曇らせる。

 しかもしかも、 暫く見ていたらもう、 耳の先まで真っ赤だ。


「で、 できる訳が無いでしょう。 今更、 そんな。 大体、 私とあの方はそういう関係じゃ」

「え! 違うの!?」


 寧ろそっちが驚きだ。

 傍目から見ても、 あれだけ仲が良いのに。

 あからさまに友人とかそういう域は越えている様に見えたけど、 ……恋人ではないの?あ、 でも「様」って呼んでるよね……。


「じゃあ、 なんなの」

「……何かと聞かれると困ります」

「なに、 まさか遊ばれてるとか」

「ペルナ!!」

「御免なさい。 これは失言。 ……え、 でも」

「……なんです」

「あれだけ長い時間一緒に居て、 何も無いって、 そういう事?」


 これはその……流石の私も覚悟の上の質問だったけど。

 怒ってると言うより、 恥ずかしいらしい姉さんは、 目にいっぱい涙をためた上に真っ赤になって俯いてしまった。

 ふわふわした髪が邪魔をして伺い知れないけど、 テーブルに乗り出して顔を寄せる。


「でも、 好きなんでしょ?」


 こくりと頷く。

 姉さんがこんなに……、 えーと、 何。

 少女みたいなリアクションするって言うことは、 多分、 真剣だからで。

 でも、 これに私より長い時間居たあの人が気づかない筈ないよね?

 じゃあ、 なんでだろうか。

 思考を巡らせる私を遮り、 姉さんは言う。


「だけど、 ……それを言って良い訳じゃないの。 これ以上傍にいけない」

「……え?」

「私はこれ以上入れない」

「……姉さん?」


 少しの間、 深呼吸をする。

 そして姉は、 顔を上げた。


「ペルナ。 お願いだから、 イリアス様には内緒にしていてね?」

「……良いの?」

「ええ。 もしいつか、 言って良い日が来たら自分で伝えます」


 また笑ってくれたけれど。

 その顔は、 なんだか悲しげだった。



















 その日の夕飯時。

 家に帰った私は、 エイルくんに経過を報告した。


「……ああ、 やっぱり聞いちゃったんだ」

「まあ」

「それで? ペルナはどう思った?」

「……うーん。 取り敢えず、 悪い事したなって思った」


 ちょっと入りこみ過ぎた気はした。

 だけど、 やっぱり気になる。


「……姉さんはあれで幸せなのかしら?」


 私が見たところ、 あれは姉さんだけが思っている事ではないと思うんだけどな。

 ……でも私がわからない何かが、 姉さん達にはあるんだろうし。


「ペルナ」

「なぁに?」

「幸せって、 本人が決めることだから」

「そうだけど……」

「肉親の事だから気になると思うけど。 大切なら、 見守るに徹する事も大事だと思うよ」


 ね、 とエイルくんが笑う。

 自分よりも遥かに年下の子に言い負かされてしまった。

 ……うう。 でも正論かしら。


 物凄く気になる。 気になるんだけど……。

 きっと、 何かあれば姉さんは伝えてくれる筈だから。


 我慢して、 成り行きを見守ろうと思う。


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