君と僕の日常
「五度目の転機」からのお話。
戦いが終わり半年が経過した頃、 キラの招待でアルミス国イル村に住むようになった。
それから更に、 半月が経過したろうか。
エイル氏と相談の上、 仕事をやる事になったりして。
日々が怒涛の様に過ぎて行き、 正直ついていけない自分が居る。
「イリアス様~」
「……」
朝。 実にのどかな村の風景と遠くに聞こえる爆発音。
半月もすれば流石に慣れたけど、 あれはどうかと毎朝思う訳で。
発生源である人物に初日に聞いてみたところ、 どうも彼女が帰ってきている時はそうらしい。
そんな音を聞きながら、 毎朝起こしに来てくれるクレシェの声で起床する。
「もうお目覚めでしたか。 おはようございます」
「……うん、 おはよう」
「朝食が出来ましたので、 下でお待ちしてますね」
僕はクレシェと一緒にとある人の家に居候して、 其処で暮らしている。
最初は、 キラが実家がもう直ぐ空くから使えと言ってくれていたんだけれど。
それは流石に遠慮した。
次に申し出が来たのは、 僕にとっては意外な人物だった。
「キラさんのお家から、 ぺルナももう直ぐ戻りますから」
「……うん」
そう。 ぺルナと言うエルフの申し出を得て、 彼女の家で住んでいる。
と言うのも。
「姉さん! ただいまー!」
「あら……噂をすれば」
扉が勢い良く開く音がして、 クレシェは少し笑いながら踵を返した。
階段を降りていく音と、 ペルナが笑う声が聞こえてきた。
「お帰りなさい、 ぺルナ。 朝食が出来ていますよ。 頂きましょう」
クレシェの妹なんだそうだ。
再会するのは、 実に百年ぶりらしい。
僕と会ったのが大体それくらいだから、 本当に長い時間を越えての再会だった。
身支度を整えて、 部屋を出る。
階段を降りてリビングへと向かうと、 彼女等が一緒に迎えてくれた。
……しかしそっくりな姉妹だと思う。
顔や雰囲気は確かに似ているけれど、 中身の問題で。
「イリアスさん。 どうぞー」
「ああ、 有難う」
カップにたっぷりと入った珈琲を受取りながら、 ちらりと正面を見やる。
クレシェは物腰も柔らかで優しげな印象……と初対面の人は言うが。
ペルナの方は行動的で活発だ。
毎日何処かに出掛けては、 怪我したり、 爆発を起こしたりして帰ってくる。
ポイントは、 毎日、 と言うところだ。 タフだなあと思ったりする。
と同時に、 こののどかな村の何処に怪我をする要素があるのかと思う訳だが。
話はそれたが、 第一印象こそ違えど姉妹の共通点と言うのは色々ある。
こうと決めたら絶対引かなかったり、 ……なんというか、 強い。
半月しか一緒に居ないのに、 微妙にそれを感じてしまう。
「あ、 そうそう。 私、 もうちょっとしたら家を出ますから」
「そうなの?」
「あれ、 言ってなかったっけ?」
きょとんとしたクレシェのリアクションも珍しいけど、 ……これは、 もしや。
此処に来た日にキラに聞いた話がある。
もしかしたら、 それだろうか?
「私、 結婚するんです。 来週」
ああ、 やっぱり。
直接では無いにしろ知っていた僕はいいとして、 問題はクレシェの方だ。
実に幸せそうに言ってのけるその顔を前に、 絶句したのは言うまでも無く。
がたんと音をさせて椅子を倒すと、 そのままペルナの手を掴みに行きあわあわとしながら暫し狼狽えた。
……狼狽えた?
違うな……取り乱している、 が正しいかも知れない。
「だ、 誰とですか! 結婚だなんて、 どうして教えてくれないの!」
「えとー。 エイル君と。 言った気になってて、 すっかり忘れてて。 ごめんねー」
軽く言いのけたペルナに、 クレシェの方は言葉にならない声で叫び出しそうな勢いだ。
眺めている場合では無いと思うけれど……止めた方が良いかな。
「もう、 貴女って子は! エイルさんてキラさんのお兄様じゃない! ……私、 ちょっとご挨拶に!」
「今日は隣村に行ってて居ないから、 明日じゃないと」
「じゃあ、 明日参ります!」
「えー、 良いよわざわざ」
「良くないでしょう! ……私達を此処に呼んだ時には既に決まっていたのでしょう? 言う機会は幾らでもあった筈じゃない」
あ、 これはまずい。
泣きそうに顔を歪めて、 震えている。
「クレシェ。 落ち着いて」
「……でも、 ……イリアス様」
涙を零しそうなのを我慢しているのがよくよく分かる。
これは悪い事をしただろうか。
その後クレシェはペルナを抱きしめて、 顔を隠してしまう。
「ペルナ……おめでとう」
「有難う御座います」
目を細めてふわりと笑う顔が、 クレシェと似ていて。
ああ、 こういうところも共通点かも知れない。
わんわん泣いているクレシェを抱き返しながら、 ペルナは苦笑していた。
「姉さん、 そんなに泣かないでよー」
「黙りなさい。 教えてもくれないで。 ……ちゃんとおめでとうって、 言いたいのに」
「姉さん」
「ペルナは無茶ばかりするから、 心配だったんですよ。 元気で暮らしていたのも嬉しいけれど。 ちゃんと幸せになってくれると聞いて、 喜ばない姉が居ますか」
「もー」
「幸せになるんですよ。 ……おめでとう」
「うん、 ありがと」
親族が居ない自分にはわからないけれど、 なんだか良いなあと思ったりした。
そして宣言通りペルナは翌週には結婚して、 結婚式ではクレシェが号泣して。
でも、 変わらずペルナは毎日遊びに来て。
こんな日常を過ごした事が無い僕は、 堪らなく幸せに思えたりして。
こんな日常を送れる事になるなんて、 少し前には予想もしてなかった。
願わくば。 もう暫く、 これが続けば良いと、 願うんだ。




