表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
27/62

終焉 1



 答えを探して


 答えを求めて







 さあ、 戦おうよ。



















 ビィが手を掲げた。

 それをきっかけとして、 描かれた魔方陣から這い出す影が二つ。

 そうして現われたのは、 ビィと同じ姿をした者だった。


「……一対複数はズルイなぁと思っていたカラ、 同じ数で正々堂々と行こうネ。 その代わり全部本体にしてアゲタから」


 ぺろりと唇を舐める仕草を真ん中に居た奴がする。

 両脇の二体は次第に姿を変えていく。

 ビィの姿から、 一体は大きな猫の様なものに。

 それはデスターの前に立つ。


「長には、 これがいいでしょウ?」


 もう一体は、 女の子の姿。

 それは、 何処と無くアジェルに似ている。

 そして、 彼女はキールの前に立った。


「……悪趣味だな」

「そうカイ? お誂え向きダロウ?」


 キールは怒るかと思いきや、 ぽつりと呟くにとどまり、 剣を彼女に向けた。

 くすりと笑うビィは、 笑顔のままにオレを見る。


「君の相手はワタシ。 ……現実世界で会うのは初めて、 ……じゃないよネ?」

「会ったことあるのか、 お前」

「……洞窟で」


 剣を構えたまま、 デスターの質問には答えた。

 完全に余所見をしているデスターだが、 前に居る猫は爪を突き出し威嚇していた。


「余所見してていいのか、 デスター」

「大丈夫だろ。 こんなの」


 ふ、 と、 笑う。

 楽しそうだな……ほんと、 嫌味。

 物理的に傷なんて付かないって言ってたけど、 アレの所為?


「君も、 強い魔力を持つんだネ。 長と繋がってイル?」


 伸ばされる手が、 目の前に迫る。


「……喰われて見るカイ? そして、 世界の礎とナル……なんて素敵だと思うけど」

「生憎と、 お前の糧になってやる気は無いんでね」

「そうかい、 残念だ。 ……じゃあ、 始めヨウ。 楽しい楽シイ、 殺シ合イ」


















 カウンターに開いて置いた大きな本を見、 彼女は経過を見守っていた。


「始まった」


 手を祈るように組んで、 リアクトが呟く。

 彼女の後ろには、 沢山の本が溢れていた。

 再生を待つ魂達が増えている。

 世界から、 沢山の命が消えている証拠だった。


「……祈るしか出来ないなんて、 無力」


 悲しげに目を閉じると、 リアクトはぎゅっと一冊の本を抱きしめる。

 ライア・エリティアの記憶を記した本だった。


「……マスター。 貴方の心を継いだ彼女は、 無事に帰ってこれるでしょうか」




















 雪の大地での攻防戦は、 長時間続くと流石に応える。

 けれど、 それでも何とか数を減らしていき、 これが最後となった時だ。

 それは起こった。


「っ……」


 彼の背中から滴る血は雪を溶かし、 大地を血に染める。

 痛みに顔を顰める彼は、 額にうっすらと汗をかいていた。

 膝をついた彼の前には、 クレシェが居る。


「……、 イリアス、 様?」


 彼女を守る為に身を呈した結果の出来事。

 咄嗟の事でそれ以外に方法も無く、 最善では無いが、 確実に彼女を守る方法ではあった。

 けれど、 襲い掛かってくる魔物は待ってはくれない。

 目の前に振りかざされる爪が、 彼等に迫る。


「……クレシェ! しっかりしろ!!」


 低い位置から剣で攻撃を受け止めたイリアスだが、 しかし、 それが更に出血を促す。

 身が裂ける様な痛みを堪えて、 彼は言った。


「こいつで終わりだ。 僕が止めるから、 術を!」

「あ、 ……は、 はい……!」
















 対峙しても面倒臭そうに、 彼は鎌を振りかざした。

 猫が動き出そうとした瞬間。

 ざ、 と、 音がして、 それから首が落ちた。

 血は流れたりせず、 砂のような粉が溢れていく。

 音もなく床に転がった首を見つめ、 デスターは不服そうに顔を歪めた。


「……こんなもんか?」


 けれど、 落とされた首はにたりと笑い、 デスターを見上げた。


「……マタ、 首? 学習能力を疑いますネェ」

「煩い。 じゃあ、 どうすりゃ良いのかご教授願いたいな」

「……それではつまらないデショウ? 消滅させる位で来て頂キタイものです」


 けたけたと笑うその光景は、 ぞっとするものがある。

 デスターは小さく息を吐くと、 鎌を振り上げた。


「……なら、 望み通りに。 死神様がわざわざ出向いて殺してやるんだ。 有難く思え」

「それは、 ワタシの台詞。 アナタこそ、 次の神に殺されるのデス……光栄に思って下サイネ」


 首が落ちていても、 身体は動けるらしい。

 爪を振りかざし、 それはデスターに襲い掛かった。


















「……本当に、 悪趣味だ」

「姿かたちに惑わされるナンテ、 修行が足りませんヨ」


 怪訝な顔をするキールに、 彼女は楽しげに笑ってみせた。

 彼が躊躇するのは、 見た目がアジェルに似ている、 と言う事もあったが丸腰に見えるのも理由だった。

 けれども、 と剣は構えたまま攻撃のチャンスを見定めている。


「隊長サンも、 共犯者けいやくしゃと一緒みたいだネ」

「……?」

「力も無い癖に何かヲ守るナンテ早い。 結果的には、 自分の命も守る対象も持ってかれるノニ、 馬鹿じゃないノ?」


 あはは、 と盛大に笑いながら、 印を描く。


「行け!」


 命と共に生まれるのは、 闇色の霧。

 それは無数の鞭となり、 彼を捕らえようとする。

 キールは剣でそれらを払いながら、 距離を開けた。


「……オヤ?」


 剣が輝き、 闇を消し去る。

 触れるだけで消滅させ、 また彼に触れようとした物も消えていく。

 エルフ二人が施した術の効果であるようだった。


「ズルイな」


 くすりと笑う彼女は、 今度は殴りかかってくる。

 けれど、 拠ける一方で反撃には今ひとつ身が入らない。


「……ずるいのは君だ。 その姿、 いい加減にしないか?」

「正々堂々の勝負ナンテ無いと知ってイル筈デハ? ……戦う気が無いなら死にナサイ」


 に、 と笑って、 彼の頭上を飛び越えるとそのまま背中に蹴りを入れる。

 吹っ飛びはしないが、 見た目どおりの力では無いようだ。


「……っ」

「……はは! そんなダカラ部下も死んじゃうんダヨ、 隊長サン?」


 その言葉に、 彼は苦笑した。

 思い出す。

 目の前で殺された部下の事を。 街の人々を。

 そして、 助けたいと切に願う彼女の事を。


「……そうだね。 いい加減にするのは、 僕の方か。 ……失礼、 全力で挑もう」

「最初からそうしてよネ」


 彼女はにやにやと笑う。

 それでも、 己が負ける筈がないと言う気持ちからだ。

 ビィの認識では、 彼は最弱。 魔力の要素が無いと言うのは警戒する価値も無いと言うことだ。


「……キール・リテイト。 改めて、 参る」

「そうこなくちゃ、 つまらないヨ」















 キール、 デスターがそれぞれに少し距離を置いた場所で戦いを始めた。

 デスターの方は、 なんだか余裕そうに見えたけど、 キールは大丈夫だろうか。

 けれど、 そんなオレをビィはじっと見ていた。

 つまらなさそうにする仕草は、 まるで子供のそれだった。


「君も余所見?」


 さっきデスターに対して言っていたのを覚えていたらしい。

 ……こう言ってはなんだけど、 こいつに注意されるとは思わなかった。


「さあ、 ワタシ達も戦おうヨ、 お嬢ちゃん」

「……ふざけた呼び方するなよ」


 にたりと笑う顔とは裏腹に、 何処か恐怖さえ感じる。

 蠢く闇色の力。

 滅されてしまいそうな、 絶対的な力。

 威圧感を感じる。

 けれども、 こいつにはどうしても聞きたい事があった。


「……お前、 何故神になりたいんだ?」

「前に言ったヨ?」

「……世界を滅したいと?」

「そうだよ。 アマリにも醜い。 見ていられナイよ」


 呼び出された湾曲剣を手に、 ビィが切りつけてくる。


 ぎぃん。


 剣がぶつかる。

 一撃一撃が、 物凄く重たく感じる。

 実際、 重たいのかも知れない。

 そして、 早い。


「神は嘆く。 創造物が余りに不出来ダカラ。 創造物は、 芽生えた欲に忠実に動く。 同族で殺し合い、 戦いを繰り返し。 神の目指す‘幸せ’なんかそっちのけサ。 負の感情はワタシの糧だけれど、 もういい加減そんなモノ食べて生きるの飽きてシマッタ」

「だから、 失くすのか?全て?」

「ソレが一番早いじゃないか。 不出来なモノは全部なくして、 ゼロから創る。 失敗してばかりの神も、 要ラナイ。 ワタシが全部やるんだ。 素敵な世界になるだろうヨ」


 饒舌に語る口調は熱っぽくて。

 それを本当に‘良い事だ’と思っている様だ。

 こいつにも意思があるんだよな。

 でも……。


「それは、 ……間違ってると思う」

「……何?」


 ぴたりと攻撃はやみ、 ビィは初めて笑うのを止めた。

 こちらを睨み、 顔を歪めている。


「失敗しないと、 学べない。 成長できない。 ……最初から完璧なものなんてない。 それは、 神だって一緒じゃないのか?」

「戯言ダネ」

「……じゃあ、 お前の望む素敵な世界って、 なんなんだよ。 この世界に生きる者、 命ある物を犠牲にしても、 それでも価値があるものなのか?!」

「どちらかと言うト、 この世界のモノ達に、 価値が無さ過ギルんだよ。 己だけの為に、 何を殺す事も、 壊す事も厭ワナイ。 失敗しては‘悲しい、 嫌だ’と嘆きナガラ、 それでも頑なに守ろうとする神も意味がワカラナイし。 君の言う事もちょっと理解出来ないナ。 何処が良いんダイ。 こんな世界」

「皆が居るから」

「は?」

「失敗しても、 皆で少しずつ成長できる。 衝突する事もあるけれど、 笑い合える時だってある。 生きているなら、 いろんな変化がある。 だから、 この世界は愛しい。 どうして、 変わっていけると思えない? どうして投げ出すんだよ!」


「煩いぞ、 人間如きが!!!!」






 かっと目を見開いたビィは、 そうして怒鳴った。

 びりびりとする耳を押さえたい衝動に駆られたが、 我慢した。

 代わりに、 斬りかかって来たその刃を受け止める。


「生れ落ちて、 マダ幾年月も経たぬモノが偉そうに! 神はずっと嘆き続けてイタ。 世界に生けるモノとて、 失敗ばかりを繰り返す。 いつ成長するのだ? いつ変わる? ワタシはモウ待つのは嫌なんだ!!」


 怒りを爆発させて、 そう怒鳴る。

 けれど、 オレにはこいつが泣いている様に見えた。

 がちん。

 受け止める剣の重みが、 限界に達しそうになる。

 やばい。 やられそう。


「くっ……」

「ならば、 代わりに滅ぼそう。 こんな世ナド。 餌を得て、 生きる価値も無い! ワタシが少し囁けば、 勝手に皆で破滅へ向かう! ちょっと人間の権力者を操作してヤレバ、 それで終わり。 火種ならいつも困りはしなかった。 ダークエルフなんて、 便利な種族がいたからネ!」


 あはは、 と狂ったように笑いながら、 ビィは切りつけて来る。


「終らせヨウ。 ……壊サなくては。 世界も、 君も、 全部!!!!!」


 旅に出た頃は、 いろんな嘆きを夢に見た。

 悲しいと、 嫌だと、 嘆きを繰り返す。

 その声に、 時にオレも共に涙した。

 そんな思いばかりは嫌だよな。

 こいつは、 何も出来ずに辛かったのかな。


 始めは、 悪戯に命を奪うものだとばかり思ってた。

 それは許せないと思ってた。

 だけど、 違うのかも知れない。


 神が嘆くのが嫌だから。 悲しいから、 ……壊してしまおうと願ったのだろうか。

 もう嘆く事が無いようにと、 自分で創ろうとしたのだろうか……。


 ほんとは、 こいつが一番悲しんでいたんじゃないだろうか。


「……壊れたいなら、 一人でやれ!!」


 でも、 引けない。

 反撃に出る。

 負けてやる気なんか毛頭無い。

 負けてしまったらそれで終わり。

 オレにだって、 譲れないモノが沢山ある。


 ……ねえ、 母さん。

 どうしたらいいのかな。

 出来るなら、 こいつも助けてやりたいって、 思ってしまったよ。


 何度目になるか分からない程、 剣を合わせた時。

 突然に、 タリスマンが光りだしたんだ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
閲覧有り難うございました。
ランキングに参加しております。宜しければ一押しお願い致します。

小説家になろう 勝手にランキング
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ