願い
……長い眠りから、 ほんの少し意識が目覚めた。
苦しんでいると知りました。
悲しんでいると知りました
それが、 私の為なのだと……分かりました。
私は、 此処から何が出来るだろうか。
閉じ込められたこの場所で、 ……何が。
『……すまない』
声が聞こえた。
悲しげだった。
抵抗して、 抵抗して。
もがいている事は知っていたのに……。
氷りついたこの中で、 貴方の姿を朧げに感じた。
動けない私は、 意識を取り戻すのにもかなりの時間を要してしまった。
動く事は、 もう暫く叶わない。
……出ることは、 果たして出来るだろうか。
苦しんでいる貴方達の気配だけが、 分かる。
どうして、 私はあの時、 捕らわれてしまったのだろうか……。
気がついた時には全てが遅かった。
ああ、 誰か。
彼等を助けて欲しい。
私の代わりに、 ……苦しむ彼等を救って欲しい……。
今の私に出来るのは、 願うことだけ。
だけど。
ある日、 知ったのです。
貴方の意識が弱って、 もう、 消えようとしている事を……。
朝の日の光は、 今日も変わりなく世に降り注ぐ。
壊滅した己の国を想って涙し夜を明かした少女にも、 また、 等しく降り注いでいた。
泣きつかれて眠っていたハーティは、 窓から射し込む日の眩しさに目を細めながら起床した。
辺りを見回すが、 いつも生活していた場所では無いと思い出すと重く溜息を吐く。
それから、 ぱしん、 と自らの頬を両手で叩いた。
叱咤激励するように一度。
じんじんと痛む両手の平を組み合わせ、 祈った。
「……今日も生きている事に感謝いたします。 生の喜びを噛み締め、 本日もまた歩んでまいります」
小さな声で、 けれど、 しっかりとした口調で言う。
生きている事に感謝を。
この言葉を、 いつもよりも深く、 強く噛み締めてハーティは祈った。
祈りが終わると、 ベッドから抜け出し鏡台の前へ。
櫛を通し、 身なりを整える。
逃げ出した時に汚れてしまったローブを少し叩いて、 整えた。
そして、 はた、 と思い出す。
昨晩、 アジェルが突然現れ一緒に泣いてくれた事。
かつて見たことが無いほど、 優しい彼女の言葉と動作に不安と安心がおり混ざって更に泣いてしまった事を。
思い出すと、 一人顔を赤らめ俯いた。
「ああ……また私ったら、 ……ご迷惑を掛けてしまった」
ハーティはアジェルに対して好意的に思っていたのだが、 同時に彼女に良く思われていない事は薄々感じていた。
その為に、 心中では今「また、 嫌われてしまったのでは」なんていう不安が渦巻いている。
ハーティは幼くして力を覚醒させ、 巫女として祭り上げられた。
大人しか居ない場所で生活していたせいか、 年齢よりも幾分しっかりした言動ではあるのだが。
周りは皆、 ハーティと距離を置いて接してきた為に、 どの様に距離を計れば良いのかわからないのである。
頭を抱えまた泣きそうになりながら、 目を閉じる。
『かわりに。 たすけて』
強制的に、 彼女の意識は奪われた。
開いた瞳は焦点が合わないままに虚空をさ迷い、 何処か別の景色を見ている。
耳には声が聞こえている。
女の切願する声だった。
『悲しい。
届かない。
助けたい。
愛しい、 あなた……、 を』
余りに必死で、 余りに悲しい声にハーティは涙する。
彼女の目に見えるのは、 氷の中に居るような、 そんな世界。
聞こえてくるのは、 互いに悲しげな女と男の声。
『たすけて』
『すまない』
『ごめんなさい』
『……ごめん』
涙を流しても、 視界が歪む事は無かった。
ハーティは尚も見続ける。
雪原に立つ黒髪のエルフと、 赤い髪の女。
雨が降る中で突如現れた強い光。
崩れていく、 光景。
悲鳴を挙げる間も無く、 捕まえられた。
首に掛かる、 冷たい手。
にたりと笑う顔。
―キミは良いエサになる―
閃光が、 血が、 辺りに撒かれた。
ハーティが息を呑む。
「……何です……今の」
意識が体に帰ると、 かたかたと震える己を抱き締めハーティは目を閉じた。
怖い。 けれど、 思い返す。
確かに、 誰かの救いを求める声を拾った。
「此れを拾ったという事は……。 私に役目が与えられたという事、 ……ですね」
震える手をぎゅっと握り、 目を開く。
鏡の中に写る彼女は、 決意をその漆黒色の瞳に宿していた。
彼の体の右側半分に浮き出た文様は、 意識を侵食して魔力を奪い続けていた。
「……っ、 ……く」
クリスタルの柱の傍らで、 床に座り込んで彼は痛みに耐えていた。
怪我をしている訳では無いのに、 確かに、 痛い。
発狂しそうになり、 それを自制する。
意識を失いそうになると、 痛みを持って、 保っていた。
冷静さを幾分欠いていると自身で分かる程度には、 理性は保っていた。
「……すま、 ない…………」
唐突に、 呟いた。
観念したようにも取れる弱い声で言うと、 彼は唇を噛んだ。
「ドレインを掛けられたと分かった時点で、 こうなる事はわかっていた筈だったのにな。 情けない……」
悔しげに呟きながら、 けれども彼には従うしか術がないのも事実だった。
彼女を助ける、 今のところの唯一の方法。
どうしても助けたいと願う彼は、 それでも我慢していた。
けれど、 懸念材料が出てきた。
自分が意識を失うだけならいいが、 それで済む程甘くは無いだろう。
神だって、 代償無くして願いを叶えてくれたりしない。
それが悪魔だと言うならば、 代償を払うくらいでは済まないと言うことだ。
「……くそっ」
思い立って彼はクリスタルに、 印を結んだ。
時間がかかってしまったが、 ほんの少しばかりの魔力を其処に込める。
‘反撃’を意味するその印は、 彼の体が他の意識に奪われ何をしても、 彼女には手を出せないようにする為の物だ。
悪意ある攻撃には全て有効となる。
彼は、 もう間も無く訪れるであろう未来を見据えていた。
意識が無くなっても自分に魔力が残る内は、 利用され続けるだろうと言うことを。
根こそぎ奪うまで、 契約は続くと予想していた。
意識が戻るかどうか。 ……それは彼の主人であるイリアスの意識も含まれるが。
それらが問題なく覚醒するかどうか、 賭けようとしていた。
「……必ず、 チャンスは来る。 俺がそれに掛けても、 良いよな……」
呟きながら、 疲れて床に座り込む。
見上げると、 彼の視線の先には眠るように穏やかな彼女の顔。
「これで、 ……い い。 ……あとは、 運次第。 …………覚えてろよ、 あの野郎」
そうして彼はクリスタルの柱の下で、 意識を失った。
「……リアクト……?」
「はーい。 起きた?」
目の前に居たのは、 リアクトだった。
ベッドに乗り上げ、 にこにこしながらオレの鼻先に顔を近づけていた。
灰色の瞳に自分の顔を見た気がした。
「もう大丈夫?」
「……確認するのに、 どうしてそんな登場を」
「驚かせるのは趣味なの」
「……」
誰かを彷彿とさせる台詞だけど、 想い出に浸る猶予は与えられなかった。
リアクトが更に更にと顔を近づける。
「ああ、 でも……ほんとに変わっちゃうんだね」
「……な、 何が?」
「目の色」
「……目?」
「瑠璃色が、 殆ど黒になっちゃった……。 よく見たら青いけど……デスターが悲しみそう。 でもライアと同じ色だね」
きらきらした目で覗き込まれて、 どう対処したものかと困っていた。
取り敢えず、 近い。
けれど、 直ぐ様扉が乱暴に開く音がして、 リアクトが離れて行った。
「……人の部屋に勝手に入るなって、 言ってんだろ!」
「良いじゃない~。 キラが居るだけなんだから」
「余計悪いだろ」
「悪くない。 女の子同士なんだし、 問題ないでしょ?デスターがいきなり帰ってくる方が問題よ」
「……此処は俺の部屋だぞ」
「でも、 男でしょ。 キラに何かあったら、 大変だし」
「発言がアジェルに感化されてるな……」
「多分、 似たような思考ですから」
にっこりと笑ったリアクトと、 若干俯き加減のデスターと。
ぶち、 と何か切れる音がした気がしたのは、 そのすぐ後だ。
猫でも捕まえるように素早い動作で、 リアクトの襟首を掴かみ強制退室させた。
暫くどんどんと扉を叩く音が聞こえたが、 次第に聞こえなくなった。
代わりに何かに凄い勢いで謝っている声が聞こえる。
「ちょっ、 ごめん。 ご免なさい~!ちゃんとお仕事するから、 怒っちゃやだ!」
何が起きたのかオレですら分かるけれど、 どう言ったものか迷っていたらデスターと目があった。
取り敢えず、 笑ってみる。
「……ええと」
「すまん。 ……お前が居ると嬉しいらしくてな」
「別に良いけど」
「……」
多少驚いただけだし、 と付け加えると、 デスターは小さく息を吐く。
その後、 オレの顔をじっと見て、 目を伏せた。
「何」
「いや。 ……ほんとに、 色が変わるんだなと思って」
「そう言えば、 さっき、 デスターが悲しみそうってリアクトが言ってたけど」
「……なっ」
「なんで?」
珍しく動揺して、 珍しく、 ……僅かにだけど赤面している。
あれ、 こんな顔もするのか?
全然変化無いのかと思ったけど、 気のせいだったみたいだな。
「……」
「あ、 でも別に言いたく無いなら良いよ」
「……」
「?」
「……いや、 ……じゃあ、 また気が向いたら」
ふい、 と顔を逸らされる。
多分、 これは触れちゃいけない話題なんだろうなと思った。
しかし、 見た目一番年上に見えたけれど、 意外といじられキャラなのかも知れない。
「ところで」
「?」
「もう、 大丈夫なのか?」
「ん?ああ、 お陰様で。 身体ももう良いし、 落ち着いてる」
「……ふぅん」
ベッドに座るオレの頭に、 ぽんっと手を置かれる。
何か温かいモノが溶けて体に入ってくる感覚。
心地好さを感じて目を閉じると、 デスターが手をどけた。
「確かに、 魔力も馴染んだみたいだな。 これならもう大丈夫だろう」
「じゃあ、 アジェルのところに戻れるかな……」
アジェルが向こうに行く時に、 霞んで見えた背中がまだ気に掛かっていた。
あの光景を思い出すと、 妙に心臓が早鐘を打つ。
不安で胸がいっぱいになるようだ。
早く帰りたい。 そればかりを、 思っていた。
「まだ本調子じゃないだろ。 いきなり実戦に放り込んで死なれたら困るからな。 調整するぞ」
「出来るのか……?」
「万全の調子で返すようにと言われている。 ……訓練相手になるから、 ちょっと来い」
くるりと背を向け、 扉の向こうに歩き出すデスターについて、 部屋を後にした。
「……今、 なんと?」
「ですから。 アルミス国のお世話にはなりません。 私は、 アジェル様達と行動を共に致します」
このままでは危険だと身柄をアルミスに移す事をハーティに提案した回答が、 これだった。
泣いて腫れた瞼が痛々しく思えたが……どうも雰囲気が違うように見える。
昨晩感じた子供らしさが影を潜め、 外交の席で見た年不相応な態度で其処に居た。
「……ハーティ様。 今、 私達と行動を共にするのは危険です。 お分かりでしょう?」
「分かります。 でも、 ……今は多分、 何処に居ても危険ではないですか?」
確かに言う通りなのだけど。
アルミスならば、 私も安心して預ける事が出来るというものだ。
勿論、 この国にお願いするのは何の問題も無いのだけど。
いかんせん、 今はどの国も自分の事で手が一杯だと思われる。
当然と言えば、 当然か。
いきなり魔物が現れて、 いきなり国が一つ壊滅させられたのだ。
‘攻撃を受けた’と言う点ではアルミスも同じだが、 安心する理由はただ一つ。
我らが女王陛下はハーティと個人的に交流があった。
最重要警護対象として守ってくれるだろう。
そんな私の思惑を知らず、 ハーティは思いつめた様に言葉を続けた。
「それに。 私は、 お二人と行動しなければいけないと思うのです」
「……それは、 何故ですか?」
「私には、 役目があるのです」
「……役目?」
「はい。 それは、 今回、 お二人と行動を共にすることにより果たせるモノなのです」
ユーダの巫女には、 世界中で唯一人だけ持つ事の出来る力がある。
確定された神の夢を聞く語り部になれると言うこと。
‘神託’として授かり、 伝え広める役目を担っている。
……役目があると言うのはそれに関連しての物なのか。
それとも、 別の何かかしら。
「……ハーティ様。 これ以上怖い思いをしてでも成すべき価値が、 そのお役目にはあるのですか?」
ユーダのユフィリア大聖堂の中で。
ザラトのあの街で。
のんびりと平和に過ごして来た少女が体験するには、 もう十分な出来事を既に体験したはずだ。
この上、 何を自ら受けようと言うのか。
だけど、 ハーティは一度力強く頷いた。
「……アジェル。 行きたいというなら、 連れて行こう?」
そんな彼女の助け舟となる形で、 キールが初めて言葉を発した。
「宜しいんですか?キール様」
「ええ。 ただし、 無茶は禁物ですよ?」
「……良いの?」
「ハーティ殿は、 君と一緒みたいだからね」
「……一緒?」
「私が、 アジェル様と、 ですか?」
私達が、 はて、 と顔を見合わせると。
キールはお茶なんぞ飲みながら、 そ知らぬ顔で言う。
「一度決めたら梃子でも動かないタイプって事」
アジェル達と同行を決めたハーティが、 ティスラティアから更に南下して暫く。
同時刻、 キラはデスターの元、 剣術と魔術の修行に明け暮れていた。
そして、 世界には……確実に悪夢が拡がっていく。
悪魔ビィが仕掛けた使い魔達は、 時折世界の何処かに出没しては生き物を傷つけた。
多くの血が流れ、 多くの命が無作為に奪われていく。
そんな日々が、 アルミス襲撃。 そして、 ユーダ壊滅からもう二ヶ月になろうとするところだった。
アルミス国が自衛に入ったと聞いた他国は、 お互いの様子を伺うように門を閉ざし、 領土を護る事に専念する。
かつて連合軍が組まれたと言えど、 結束力が強いと言う訳では無かった。
人々の希望であり‘英雄’と祭り上げられた誰かももう居ない。
あれから、 十年。
再び訪れた大きな不安は、 人々を飲み込んだ。
他国の侵略では無いかと疑う声が出始め、 かつての様に便乗して暴れまわる者も出現する。
世界は、 確かに混乱への道を歩んでいた。
そして、 ある日。
「……」
悪魔ビィの使い魔を引きつれ、 漆黒色の髪と目を持つエルフの青年。
俗に、 ダークエルフと言われる彼が、 戦場に姿を見せた。
燃え盛る炎を背に、 彼は虚ろな目をして立っていた。
かつての様に、 血を滴らせた剣を片手にして。
まだ、 独りで居たあの時代の様に。
「漸く、 落ちたネ」
彼の傍には、 大きな猫の様な黒い影。
それが、 漆黒色の鎧を纏うダークグレーの髪の男に姿を変える。
ビィは彼ににこりと笑い掛けると、 そのまま彼の右頬を撫でた。
「あの時から君がワタシのモノだったなら、 こんな面倒な事はしなくて良かったのにナ」
くすくすと笑いながら、 ビィは手を離しまたにやりと口角を上げる。
以前青年の腕に出ていた文様は侵食を進め、 もう彼の体右半分を侵していた。
現在は首から頬に伸び、 右目の下にまで文様は浮き出ている。
「もう、 意識は無いのカナ?共犯者殿?」
「……」
ぼんやりとした様子で目を伏せる彼を見ながら、 ビィはそれはそれは愉快そうに笑った。
「君の大切な彼女をあんなにしたのがワタシだと知られたら、 殺されちゃうトコロだった」
「……」
「でもやっぱり、 ダークエルフって言っても脆いんだネ。 人間よりは長く持ったけど、 こんなに早く侵食されてシマウなんて」
あはは、 と、 笑いながら空を仰ぐ。
もう彼は何も言わない。
「君の魔力が無くなったら、 せめて彼女と一緒に殺シテあげるからネ。 それまで、 頑張るんダよ?」
彼の目は虚ろなまま、 今は何を思っているのかわからない。
思考は、 もう、 無いのだろう。
そう確信して、 ビィは戦場から姿を消した。
ぱたり、 と、 本を閉じリアクトは溜息を吐く。
カウンターの後ろには沢山の本の山が出来、 それをうんざりしながら見る事暫く。
また視線を、 閉じた本に落とす。
「神託は告げられた」
ぽつり。 彼女の呟きは、 誰の耳に届く事は無い。
『黒き魂の意志により、 南の地で戦いが起こるでしょう。 避けられぬ争いは、 再び沢山の命を奪い、 悲しみを繰り返す結果となるでしょう。 この争いに立ち向かうのは、 一人の、 人間。 力を持つその者は、 皆と協力し、 黒き魂の意志に打ち勝ち、 平和へと導くでしょう』
ハーティが以前受けた言葉。
創造主、 ルディアの悪夢。
「悪夢を覆すのは、 私達の意思」
紡がれた夢は、 彼女等にとって絶対のモノ。
けれど、 主が悲しむならと彼女等は決意した。
黒き魂と呼ばれる黒幕の意思は強く、 南の地からすでに戦いは起きている。
争いに立ち向かう人間は、 夢の通り、 用意された。
「……ルディア様のお言葉通り、 平和へと戻す事を目的としている」
リアクトは思う。
始まりは、 幸せな夢だった。
けれど、 黒幕により干渉され覆されているようだ。
そうして夢は悪夢となり、 始まりの夢とは違う結果となっている。
では、 狙いはなんだろう?
何度も何度も、 主達の夢を邪魔していた。
何故? 何故?
彼女の頭の中で、 何度も問いが繰り返される。
「幸せな夢に戻す為にはどうしたら良い? 発端となった黒幕を倒す? それで終るの? でも、 勝つこと、 平和へと導く事は決められたこと。 結果的に今は、 夢の通りに進んでる。 ……だけど……、 打ち勝つ事と倒す事は、 違うんじゃあ……」
引っかかりを覚えリアクトは首を傾げる。
まるで言葉遊びをするようで、 少し考え、 その内止めた。
「……悪夢となった夢を正す。 それを持って覆すとする事で良いのよね。 結局、 結果がどうなるかは明確には分からない」
胸に溜まったもやもやとした気持ちを吐き出すように、 息を吐く。
リアクトは、 時を記録する観測者であり管理者である。
結局のところ、 手にする本に綴られるこの戦いの行く末を見守るしか出来ないのだ。
今までは夢の通りに事が運ぶように見守るのが仕事であったが、 もう彼女にもどう転んでいくのか判断がつきかねる。
「……直接干渉できないのは、 やっぱり辛いなぁ」
そう苦笑して、 リアクトは本を抱えて目を閉じる。
「まあでも。 主様達が気持ちよく夢見れる世界になれば、 それで私は良いんだけど」
呟く声は、 やはり図書館の静かに解けて消えていった。




