始まりと終わり
全ての物事には「始まりと終わり」がある。
終わらなくては始まらないし、 始まらなくては終わらない。
今から来る終わりから始まる何かを 私は待っている。
……待つのはおかしいかな。
始めて貰う日が来るのを 待っている。
その為に、 今 終わりが来るのだから。
雨が降っていた。
暗雲が立ち込め、 雷が鳴り響き。
全身雨でずぶ濡れになりながら、 私は貴方に向き合いました。
世界に嫌われてしまった貴方は、 凄く悲しい目をしていたわね。
世界は、 とてもとても綺麗なのに。
それを知らずに、 辛い面ばかりをずっとずっと見ている。
助けたい。
貴方の世界は、 ほんとはとても小さい事を教えてあげたい。
あぁ。 それなのに。
――――それなのに。
「ライア様!!」
頭がぼんやりする中でも、 ちゃんと聞こえた。
私が大切にしている子達の一人。
実の子供ではないけれど、 とっても大切。
「……アジェルちゃん」
「しっかりしてください……!」
「……いいの、 …………いいの」
そう、 これでいい。
私では力不足だっただけだから。
こうなると、 知っていたのだから。
「良くないです!どうして、 彼等は助けてくれないのですか……。 どうして……っ」
雨が降る中、 暖かな涙が降ってくる。
泣かないで欲しい。 ……お願い。
「アジェルちゃん。 お願いが、 あります」
もうすぐ、 動けなくなる。
お願い。
もう少しだけ、 無理を言わせて。
もう少しでいい。
私のお願いをアジェルちゃんは泣きながら聞いてくれた。
いくつかしたお願いは、 この子ならちゃんと、 守ってくれるから。
あと、 一つだけ。
いえるかな……。
「あと、 最後に」
「はい」
「……十年後、 キラちゃんに会いに行ってくれる……?一緒に、 ここに来てほしい」
「…………」
「頼んだわね……?」
……これで、 全部。
雨に流れる自分の血が、 もうかすんで見えない。
頷いてくれたのが、 見えた……気がした。
最期なのに、 抱きしめてあげられなくてごめんね……?
私の子供達と、 今まで支えてくれた沢山に。
「…………ありがと……」
雨が、 血を流していく。
とまらない。 とまらない。
冷たくなって。
どんどん、 冷たくなって。
「……ライア様ぁあああああ!!!!」
雷鳴が轟く中。
私が一人、 絶叫していた。
雨が上がると、 其処が如何に悲惨な戦場かわかる。
辺り一面には何も、 なくなっていた。
敵はそんなに居なかったはずなのに。
……それほど強敵だったと言う事なの?
唇を噛むと、 鉄の味がした。
悔しい。 ……悔しい。
そう思うと、 またぼろぼろと涙が溢れた。
「…………っ」
亡骸の真っ白な手に縋っても、 もう、 撫でては貰えない。
どうして、 ライア様が亡くなるのか。
私には理解出来なかった。
「アジェル」
暫く泣いていたら、 私を呼ぶ声がして振り返る。
「……お前は……」
金色の髪の少年は、 見たことがあった。
確か……。
ライア様と契約していた、 精霊だ。
「………………お前……、 なぜ今頃」
「契約者との約束です」
「約束?」
「そう。 ‘彼’との戦い前に契約を破棄し、 終わりを迎えた時に来るようにと」
それで、 ……現れなかったと言う訳か。
でも、 今居るじゃない。
「召喚してないのに、 今、 此処に居るじゃない……」
「……えぇ」
「じゃあ!破棄されても、 出てこれたでしょう!?」
「それは……」
「何よ!!!」
「決められた事ですから」
「ライア様が死ぬのが決められた事?……何よそれ!」
「……正確には、 契約者の交代がですけれど」
「………………何よ」
訳が分からなかった。
でもどれだけ叫んであたっても、 彼は私が落ち着くまでずっと相手をしてくれた。
その間にゆっくりを説明をしてくれた。
「……大丈夫ですか?」
「……えぇ」
「……それで、 どうしますか?」
ライア様は、 彼に言ったそうだ。
自分の次に彼らと契約する者に私を指名したと。
だから、 彼はライア様が亡くなった後に現れたと。
ただし、 彼や彼と同等の者と契約を交わすにはそれなりに力が必要となる。
ライア様は沢山の精霊を契約をしていたけれど。
今の私に同等の力はない。
「……今の私の力だと、 どれだけの者と契約できるの」
「全員は無理ですよ」
「わかってる」
「今の貴女なら、 一人、 でしょうね」
「一人……。 ……それなら、 貴方が良いわ。 最初に会ったから」
「僕と契約すると、 他の誰とも契約できませんけど、 良いですか?」
「それだけ魔力を喰うって事でしょう。 良いわよ。 上等じゃない」
「それでは、 契約を交わします。 お手を」
差し出した手は、 血と傷で汚れていた。
彼はそんな私の手を自分の手で包んで、 目を閉じる。
ぱっと手が光ると、 オレンジ色の透明で綺麗な石が現れた。
「これ……何?」
「僕の核を具現化したものです」
「核……?」
「えぇ。 それを通して、 魔力を頂きます」
説明しながら、 私の額に指先が触れる。
ついでその、 核とやらが弾けて消えた。
「……消えちゃった……」
「貴女の中にはもう存在しています。 大丈夫」
「……ふぅん」
「さ、 では契約のスペルを。 ……自然と言葉が浮かんでくると思うので、 そのまま言ってください」
目を閉じる。
段々とクリアになる頭の中に、 ぼんやりとした言葉が浮かんできて。
それは徐々に、 文章となっていく。
「全ての命の誕生を司る者よ。 私、 アジェル・ディーティと契りを交わし、 共に道を歩め」
光りが、 どんどん溢れていく。
真っ白な光り。
眩しいほどの光の中で、 彼は言った。
「……承知致しました。 貴女を我が契約者と認めます」
発案は、1997年。子供の頃に発案し書き出して、大人になってから完結させました。
物語自体は自サイトにて2009年に完結しております。
典型的ファンタジーを目指して右往左往している物語で、私自身も未熟ではございますがお付き合い頂けましたら幸いです。