エピソード・ツー 紛失 1
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「ありかとうございましたー」
コンビニで期間限定商品がずらりと並んでいるのを横目に、僕は必要な夕食だけを買って家に向かった。
一人暮らしを始めてから、9年。いろんなことにもう慣れたが、料理の方はさっぱりだった。
研究室に所属してまだ2年ほどだが、仲間ともうまくやってるし、研究の手がかりになりそうな祖父の日記も発見した。
きっと、これから楽しくなるだろう。
「イキワカレビト・・・か・・・」
部屋に入ると、すぐにエアコンをつけた。
直幸という名前は、祖父につけてもらった。
そして僕と祖父に、血縁関係はない。
幼少期の記憶はあまりなかった。それでも、記憶があるころにはすでに祖父はいつも僕のことを本当の孫のように扱ってくれていた。何一つ不自由だと感じたことなどなかった。他の子どもよりも大切にしてもらった気持ちさえするほどだ。
幼稚舎から一貫の祖父と同じ学校に大学生まで通った。留学もさせてもらった。祖父は有名な大学教授でもあったこともあって、学問を学ぶということに誰よりも妥協のできない人であった。
『いいかい直幸。学びとはただ知識を頭に詰め込むだけの単純な作業じゃないんだよ。おまえが学んだことで、そこからまた新しい学問の扉が開かれるのだ』
このマンションの一室も、祖父が自分がいなくなったときの為にと僕に遺してくれたものだった。都心に位置している上に広くて綺麗な造りで、周りにはどこかの企業のお偉いさんだとか、大学教授がごろごろ住んでいるようなマンションだ。新米研究員が一人で住むにはもったいないような気もする・・・。