エピソード・ワン 研究室 3
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書斎でも、そのあとも何度も読み返したはずなのに嫌な感覚に襲われる。日記のことばは僕の胸をちくりちくりと刺した。
犯したアヤマチってなんなんだ?
あの悲劇ってなんだ?
それらが・・・僕といったいなんの関係がある?
「夏野・・・・・・ねぇ・・・」
「なんだよ美那子、知ってるのか。その夏なんとかのこと」
「いいえ。ただ、少し気になっただけ・・・。夏野・・・、この名前、どこかで・・・」
「松風くんは・・・おじいさんから、このことは?」陸が言う。
「日記のことならつい最近まで知らなかったよ。祖父の仕事場を整理してたら、本棚の隙間からこれが出てきたんだ。ただ、イキワカレビトっていうフレーズならさっきも言ったけど亡くなる間際に聞いたんだ・・・」
「この偽・共鳴作業ということばについては?」
「しらない。夏野って人間も、儚とかいうやつのこともなにも・・・」
日記の他のページもみんなで隅々目を通したが他に手がかりはなかった。残りのページには僕についての成長記録と、日々の些細な生活について、代表を務めていたこの研究所の記録など。
「まあ、手がかりがないんだ。こっからどうしようっての」
「でも、ちょっと僕も気になりますねぇ」
「祖父は、きっと大切なことを伝えたかったのかもしれない・・・今になって、なんにもわからないけど・・・なんか、あの言葉が気になってるんだ。イキワカレビトって・・・いったいなんなんだ」
まだ午後4時をまわったところだった。夏の空にとっては、暗闇が訪れるには早すぎる。美那子がソファから立ち上がって言った。
「とにかくこの話は今日は保留。さっきまでの残りの資料を、ここにいる全員で協力してまとめましょう。」
「美那子、でも」
「極秘資料、失くさないように預かるわ。いいわね?」
そう言って微笑んだ美那子はあの日記を、研究室の重要金庫にしまい込んだ。それを合図にみなが一斉に動き始める。
トナカイが肩に腕を置いて耳元で囁いてきた。
「まーなんだかんだで、俺も気にはなるし?・・・本当におまえの話とじいさんの日記がリンクしてるとすりゃあ、これは世紀の大発見かもしれねーぞ。とっとと作業終わらせようぜ」