エピソード・ワン 研究室 2
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「ところで松風くん・・・それはいったいなに?」
手に持っている祖父の日記を不思議そうに陸が眺める。新たに青いカバーをしてはいるが、もう随分古いのでページはかなり抜けていた。紙独特のにおいが、祖父の仕事場だったあの書斎を思い出させる。
「書斎で見つけた祖父の日記だよ。ここに書かれていることで、後ろのページ・・・ここ、気になる言葉があるんだ。陸。読んでくれないか」
「なになに・・・日付・・・西暦2105年12月28日、9年前だね。タイトル・・・イキワカレビト・・・?」
「続けてくれ」
「・・・・『夏野、わたしの人生はいったいなんだったのだろうか。おまえたち二人にわたしがしたことは決して償いきれることではない。直幸はもう14になった。あれからもう14年が過ぎるのか・・・。夏野、教えてくれ。またわたしは、わたしが犯したアヤマチをもう一度くりかえそうとしているのだろうか』・・・」
「ちょっと待った。おい松風。夏野って誰だ?じいさんの知り合いなのか?」
「いや・・・」
「トナカイ静かに。いいからつづき読むよ。・・・『もうこの日記も終わりだ。誰にも知られてはならない。イキワカレビトのこともなにもかも。向こうから持ち込んだ偽・共鳴作業に関しての研究データはこの手ですべて処分した。あの悲劇が二度と起こってはならない。それが、わたしがおまえたちカリビトにできる唯一の償いだろう。夏野、儚、そして直幸よ。どうかわたしをゆるしておくれ。ゆるしておくれ。・・わたしの人生を、親愛なる夏野と儚にささげる。』」
「・・・・・・。」
日記を最後まで読み終えると部屋がしんとした。