エピソード・ワン 研究室 1
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「つまりだ。僕らは不完全な存在であるカリビトで、この世界のどこかにいる自分自身のイキワカレビトの出現によって・・・」
「イキワカレビト?カリビト?なんだそりゃあ」
研究室の午後。同じEHP研究室の仲間たちは、真顔で語り終えた僕の前でクスクス笑った。
トナカイなんてゲラゲラ声を出して笑っている。
「お前らな・・・松風はわりと真面目な男だぞ。ほら見ろ、この顔・・・」
「絶対に関係してるんだよ」
「何と?」
「決まってるだろ、あのEHP構想とだ」
EVERLASTING HUMAN PROJECT、通称EHP。これが僕が所属している研究チームの名称であり、大学時代から日々自分のすべてを費やしている研究のテーマであった。永遠、人間、計画。
またの名を、カミサマ誕生プロジェクトと呼ばれていた。
EHPは国家機関と呼んで間違いはないのだがほとんど上は政府の天下りに等しく、研究のけの字も関わったことのない脂ぎったおっさんド素人たちが悠々とデカイ面をしているのであった。下っ端の僕らは大体がそいつらから“夢見るお子様”扱いをされているのは一目瞭然で、そんななかでも僕が所属しているEHP第4研究室はなにかにつけて目の敵にされている。
「やめとけ。上の奴等から研究費の無駄遣いだってぐっちぐち嫌味言われるのが落ちだ」
「じいさんの七光りも大概にしろって?そんなことどうってことない。EHPに繋がる手がかりかもしれないんだ」
「あら、珍しく引かないのね」
研究室リーダーの美那子はなにか考える素振りを見せながら呟いた。少しして、話をつづけて・・・とソファにくつろいだ。それを聞いたトナカイや陸たちも椅子を寄せ始める。
僕を取り囲むようにして、みんなは半信半疑ながらそれなりに興味を持っているように見えた。
「祖父が最後に言った言葉・・・どうしても気になるんだよ」
「生き別れの孫が実はもう一人いるってか」
「やめなさい」
美那子が茶化した近藤正哉、通称トナカイを睨みつけた。トナカイは僕よりもずっと研究も能力も優れているが、いささかおしゃべりであり空気が読めない。そしていつも酒をあおっているせいか鼻と耳が赤く、顔が長いことなどからトナカイとメンバー内では呼ばれている。