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#04 追いはぎ

 ちゃんと日曜日投稿だy(殴


 遅くなりましたが、今回はバトルシーンでございます。

「――来るぞ」

「な、――!?」


 物陰から何かが飛び出す。マリはヒヒンといななき、ルミナは驚いたように俺に身を寄せた。


「かーっ、アツいねぇ御両人。仲良くくっつき合って、見せつけてくださいますこと」

「な、なな、何!?」

「落ち着け」


 一人が口を開くと、数人が道の両脇からぞろぞろと出てくる。もしかしなくともこの男の仲間だろう。驚くべきは、その中に女性が混じっている事か。


「おう、兄ちゃん。悪い事は言わねえ、その馬車さえ置いてってくれりゃあ、命までは取らねえぜ」

「追いはぎか……」


 ふ、と鼻で笑う。『命までは取らない』など、俺が何者か理解していたら言えただろうか。


「安い台詞だな。そんな言葉にビビるとでも?」

「野郎……」


 顔をしかめた男を、ルミナが睨む。ただし、右手はしっかりと俺のシャツの裾を握っていた。


「……まあいい、俺様は寛大だからな。強がりだと思って許してやる。

 ただ……」


 突っ掛かる事なく納得すると、男は下品な笑みを顔に浮かべて、ちらりとルミナを見る。


「……そっちの嬢ちゃんは上玉だなぁ? ソイツをいただいていこうか」

「ば、馬鹿にしないでよ!」


 多少怯えながらも噛み付く所は、さすがと言うべきか。


「『嬢ちゃん』じゃないわ!」


 ……続いた台詞に盛大にずっこけたが。


「そこは争うべき所か!?」

「大事よ! 一応気にしてるんだからね!?」

「「「痴話喧嘩すんじゃねえ!!」」」

「「痴話喧嘩じゃねえ!!」」


 思わず突っ込むと突っ込みが返ってくる。さらに、追いはぎ共の突っ込みが重なるが、俺とルミナで声を合わせて同じ台詞で突っ込みを返すと、妙な雰囲気が漂った。

 ……もしこの瞬間だけを目撃した人がいたなら、なんて混沌とした場面だと思った事だろう。俺ならそう思う、確実に。


「……あー、ルミナ。どこまでならOKだ?」

「ど、どこま……ッ、まさか私を売る気!?」

「違うと言ってるだろう!!」


 本気で痴女疑惑でも持ってやろうか!?


「俺が言ってるのは始末の事だ!!」

「そっち!?」


 むしろ『そっち』ってどっちだ。

 落ち着こうと一つ息を吐き、再度確認する。


「色々あるだろ、殺しは駄目とか、怪我させるなとか」

「ああ、なるほど」


 納得したように、ポンと掌を打つルミナ。どことなく芝居がかった仕種というのが彼女の癖らしい。


「……って、ええい、いつまで話していやがる!? 殺るぞお前ら!!」

「おう!!」


 呆気にとられていた様子の追いはぎ一味だったが、リーダーらしき男の一言に呼応して掛かってくる。小さく息を飲むルミナを抱き抱え、御者台から飛び降りる。

 当然、両脇から迫ってきていた男達は相互に額をぶつけ合った。低く呻いて後ろに下がると、今度は味方を巻き込んで転ぶ。


「あ……貴方、結構すごい人だったのね」

「そりゃどうも」


 素直に驚かれ、苦笑しながら彼女を地面に降ろす。ポケットからダガーを取り出すと、ルミナも後ろに隠れた。


「じゃあ、シオン。殺すのと、生涯に渡って支障が残るような傷をつけるのはナシにして。気絶させるくらいなら、まあ、大丈夫だと思うけど」

「オーライ」


 気絶させるのが大丈夫なら、この手の相手は楽だ。

 なんせ、武器を持っているとはいえ、戦闘に関してはアマチュアだから。


「やりやがったな!」

「アンタらが勝手にぶつかったんだろう? それから、馬車だけは壊さないように頼むぜ」


 前半は挑発、後半は半分本気だ。御者台が壊れでもしたら、一体何時間歩かなければならなくなるだろう。考えるだけで嫌になる。


「さて……ま、手をだしてきたのはそっちだから、ここで攻撃しても正当防衛になるわけだ」


 目つきに鋭さを持たせる。雑魚とはいえ、人数が人数な上に、ルミナを庇わなければいけない。攻撃できる隙は大いにあるが、下手にも動けないか。


「余裕ぶっこいてんじゃねえぞクソガキが! テメエは地獄に送ってやるッ!!」


 またも『クソガキ』呼ばわりしながら、下っ端らしき男が突っ込んでくる。


「おッと」


 願ったり叶ったりといったところか。向こうからかかってきてくれるのであれば、必要最小限の動きさえすれば済む。


「おらァ!!」


 威勢のいい掛け声をあげながら拳を突き出す男。その拳をいなし、足を払って派手に転ばす。


「がッ!?」

「まず一人……」


 転ぶ瞬間にわざと手を離した為、男は後頭部をしたたかに打ち付けた。痛みと気分の悪さで、しばらくは動けないだろう。


「野郎ッ!」


 単体では歩が悪いと判断したか、今度は三方向から一人ずつ、まとめて掛かってきた。いずれも棒状の武器を持っている。刃は、ない。

 ルミナに指示を出す。


「伏せろ」

「うんっ」


 一度で理解し、しゃがみ込む音が聞こえる。上々だと内心で語りかけながら、俺も上体を低くする。


「馬鹿が! バッチリ間合いだぜ!!」

「分かってるっつーの」


 小さく罵倒しながら、正面の男が振り下ろした棒――木刀のようだ――を受け流しつつ掴み、勢いがついたままの男の腹部を思い切り蹴り上げる。当然、男は華麗に宙を舞う。


「ぐ……ぁ!」

「きゃあ!?」


 すぐ側で男が落下したのだろう、ルミナが小さく叫んで抱き着いてきた。


「あ、悪い」

「こンの!!」


 思わず謝っていると、左右から走ってきた男達もそれぞれ武器を振りかぶる。振り下ろされるより早く、木刀で思い切り右の男の脛を殴る。


「〜〜〜ッ!!」

「!?」


 大きく身を震わせ、声にならない叫びを上げる男を見て、反対側にいた男が動きを止めた。さしずめ、予想外の展開に驚いたのだろう。

 ビッ、と音を鳴らして木刀を突き出すと、こちらもビクリと反応する。ニヤリとほくそ笑み、やはり足を掛けて転ばせる。


「ぎっ!?」

「残りは、……!」


 立ち上がろうとしたところで、腰に違和感を感じる。刹那ばかり緊張したが、そういえばと思い出して軽く手を触れる。


「……怖いか?」

「……え、あ、ごめんなさいっ!」


 ぱっと手を離すルミナ。声が上ずっていたのは、俺の気のせいだろう。


「……行け!!」

「!」


 聞こえたのは女の声だ。声のした方を向くと、あろう事か炎が飛んできた。


「嘘だろッ」


 咄嗟に木刀で叩くと、炎はふわりと揺れて消えた。


「何だ……!?」


 一体、どんな仕掛けで……?


「――終わりだッ!!」

「ッ!!」


 気を取られている隙に接近されていたらしい。後ろから声が聞こえる。振り返ると、リーダーらしかった男が襲ってきていた。手には、鈍く光る刀が確認できる。


「ぁ……!!」


 このままでは、ルミナが危ない。


「――くそっ!」


 考えるより先に、体が動いた。

 竦んでしまった様子の彼女を抱き寄せ、抱えるように庇いながら、男の顔面を強く蹴り上げる。


「あぐっ」

()るッ」


 今日はどうやら足を酷使する日らしい。まあ、腕よりも脚の力の方が強いのは確かだから構わないが。


「ありがとう……っ」

「どういたしまして」


 いつまでも接近しているのも気まずいので、男を蹴り飛ばすついでに体を離す。ぐるりと視線を回すと、どうやら残りは先程の女性一人だけらしかった。


「さて……」


 ルミナの体勢を立て直させてから彼女に向くと、ビクッと、怯えたように後退りする。


「よ……よくも、みんなを!」


 それでもなお突っ掛かるのは、仲間思いというべきか、無謀というべきか。


「安心しな、殺しちゃあいないさ。

 だが……」


 じり、と詰め寄ると、彼女も一歩下がる。警戒しているようだが、逆にありがたい。


「残りはアンタ一人だ」

「……っ」

「どうする? まだやるか?」


 俺としてはもうやめたいんだが、と付け加える。それでもなお構えを解かない辺りは、用心深いと言うべきだろうか。

 軽くため息をついて肩を竦める。


「……別にアンタをどうこうしたいわけじゃない。俺達はここを通して欲しいだけ……

 で、いいのか?」

「……う、うん。あと、比較的安全に」


 さすがにルミナも警戒しているようだ。しっかり俺の後ろに隠れている。


「……信用はできないな」

「本当に用心深いな」


 その心掛けはいい事だが。


「ねえ、お願いよ。貴女達にとっても悪い話じゃないはずでしょう?」


 同じ女性という事もあってか、ルミナが声をかける。

 ……俺の後ろからというのが、なかなか締まらないが。


「しかし……」

「ちょっとの食料くらいだったら渡すから!」

「いいのかよ」


 折角戦闘までしたのにか。

 げんなりとした俺には気付いてか気付かずか、対峙する女性は答える。


「……いいだろう、その話乗ってやる」

「……ありがとう!」


 なんだか偉そうだが、この際仕方がないか。


「――ただし」

「!」


 語気を荒げた事に対して構えなおすと、先程と同じく炎が飛んできた。


「またか!!」

「その男には死んでもらう!!」


 防御するためのものはない。咄嗟に素手で叩き落としたところで、大きな違和感を覚えた。


「何だ……?」


 おかしい。

 それが炎であれば感じるはずの、感じなければならないはずの感覚がない。


「シオン!!」

「!?」


 ルミナに呼ばれ、ハッと我を取り戻すと、すぐ目の前にあの女が迫ってきていた。


「これで、終わりだ!!」

「――!」


 手元には、寸鉄のようなものが握られている。

 彼女がそれを俺の喉元目掛けて突き上げようとしているのを確認して、

 彼女が女性だという思考はどこかに飛び、


 俺は、思い切り肘を振り下ろした。


「……か……、ぁ」


 ガギリと、嫌な感触が俺を襲う。寸鉄はすんでの所で止まり、女性はドサリと力無く崩れ落ちた。


「あ……っぶねー……」


 もしも反応が遅れていたらと思うとゾッとする。いつでも死ぬ覚悟など出来ていると思っていたのだが。


「気絶……してるの?」

「ああ。殺すまでの威力はない……はずだ」


 ルミナに問われ、横たわる女性を見ながらそうは言ったものの、さすがに確認の為にしゃがみ込む。

 そっと首に手を触れると、とく、とくという刺激が伝わってきた。


「……うん、大丈夫だ、大事ない」

「本当? 貴方は?」

「間一髪だよ」


 そう、比喩ではなく間一髪だった。強引に振り下ろしたのが肘でなければ、今頃どうなっていたか。


「そう……よかったぁう!」

「うん?」


 なんだか不思議な呪文が聞こえたので後ろを向いてみれば、ルミナが尻餅をついていた。


「……何やってんだ?」

「あはは、ほっとしたら、腰抜けちゃった」


 笑い声にも力がない。直に死の危険に曝されたのだ、当然かもしれない。


「全く……ホラ、手ぇ出せ」

「う、うん」


 おずおずと差し延べられた手を取り、ぐいっと引っ張りあげてから立たせるが、どうも足元がおぼついていない。


「……大丈夫か? 怖かっただろう」

「へ……平気だよ? シオンの方がもっと大変な思いしたし」


 しっかりしなくちゃ、と声をかけながら胸を張るルミナ。苦笑しながら御者台に乗り込む。それを見て、彼女も慌てて乗り込んできた。


「早く行きましょ、いつ起きてくるかわかったもんじゃないわ」

「オーライ。んじゃ、飛ばすぜ」


 パシン、パシッ、と、二度程手綱を打つと、マリもそれに反応してヒヒンといななく。先程までとは違う、軽快な音が、夜の森に響き渡った。


「……ねえ、シオン」


 マリが走り出してからしばらくして、ルミナが心配そうに俺の顔を覗き込んだ。


「うん?」

「その……手、大丈夫? 火傷とかしてない?」

「……ああ」


 先程、炎を素手でたたき落としたからだろう。あんな場面を見たら、誰だって心配するはずだ。

 もちろん、普通なら火傷は免れられないはずの行動だが、


「大丈夫だ、どこもどうにもなってない」


 軽い調子で答える。


 もちろん、全て事実だが。


「でも、さっき……?」


 訝しげに質問を重ねる彼女に、それはな、と説明する。


「あの炎、全く熱くなかったんだよ。もちろんそんな事有り得ないから、あれは偽物だったって話だな」

「偽物って、どういうこと?」


 今のルミナの様子を漫画で表すなら、さしずめ頭の上にクエスチョンマークがこれでもかと浮かんでいることだろう。まあ、一般的な知識からすればそうなるのも頷けるが。

 苦笑を漏らし、再び説明を始める。


「手品とかで、ボッと炎が出てくるの見たことあるか?」


 質問で返したところ、ちょこんと首を傾げられた。


「うん、ある。でも、それと今の話と、どう繋がるの?」

「憶測、だけどな」


 頷きつつ、あくまで確定した事実ではない事を伝える。


「さっきの炎と、手品の炎は、多分同じものだって事だ」

「……というと、手品の炎は偽物って事? 熱くないの?」


 そういう事だ、と頷いてみせると、更にわけがわからないという顔をされた。


「ここからの説明は、俺もあまり詳しくないから正しいかどうかわからないが。

 手品には全てタネがある。人体切断なんてのにも、もちろん何か仕掛けがあるはずだ。……というのはともかく、炎の話だな。あれは、何かの薬品を使うと、熱くないものが作れるらしい」

「うそ、燃えてるのに熱くないなんて……」

「証拠が、俺のこの手だ」


 信じられないといった表情で首を振る彼女に、右手を開いて見せる。そこには、火傷はおろか焦げた跡すらついていない。


「熱があるなら、無傷なんて有り得ないだろう?」

「……うん、確かに、そう言われればそうね。」


 わざわざ俺の手をとり、しげしげと眺める彼女。


「……あ、生命線短い。気をつけなさいよ」

「余計なお世話だ」



 話が脱線した。


「で、だ。つまり、さっきの炎もソレと一緒なんじゃないかって話さ」

「ふぅん、なるほど。とりあえず、わからない事だけは解ったわ」

「……阿呆」


 どうやら、説明は全て無駄だったようだ。げんなりしていると、ふと、ルミナが顔をあげた。


「……あ、あそこ。あの小屋よ」

「オーライ。……全く、余計な時間をくったな」


 手綱を引き、マリを止める。隣に馬小屋があるから、とルミナに言われ、彼女を先に降ろしてから、馬小屋に向かった。

 今さっき見たらなんだか評価いただいててびっくりしました←

 ありがとうございます´`


 次回からも投稿スローペースかなぁ……(汗

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