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7 お参り

 修学旅行二日目。今日は班別自主研修。朝の九時ごろから班での活動が始まった。

 私たちの班のメンバーは私、怜、上条さん、そして男子三人。私はクラスの女子の人とはほとんど仲良くなったけど、男子とはまだ会話がほとんどできていない。この機会に少しでも仲良くなれたら良いな。

 でも、それ以上に気がかりだったことは上条さんのこと。

 上条さんはこの修学旅行でもいつもの調子で、ほとんど口を開かない。何にも興味を示していない。

 班の活動が始まってから、怜は上条さんに何度も話しかけているが、返事すらもらえない。班の雰囲気は悪くなる一方だった。


 ホテルから歩くこと十分、出発点である駅に到着した。

 しかし、早速ここで問題が発生した。

「……ねぇ千佳、電車でどこまで行けばいいんだっけ?」

「……え、分からないの?」

「……東京だったら千佳がなんでも知ってるんじゃないかなと思ってたんだけど」

 目的地がどこにあるか、分からない。

 この自主研修の話を進めていた怜や男子は、私が東京出身だったこともあり、私が何でも知ってると思い込んでいたらしい。何も調べてなかったみたい。

 でも、私はこれから行く予定の場所には行ったことがない。場所も文京区にあるということしか分からない。

 完全に準備不足だった。

 けれども、ここで誰も予想していなかった救いの手が差し伸べられた。


「……山手線を使うのであれば、御徒町駅まで行くのが最短ルートになります」


 上条さんはそう言い残して、改札口を通過していった。私たちが困惑している間に、切符を購入していたらしい。

「ちょ、ちょっと待って聖香!」

 怜はすぐに切符を購入し、早足で先に向かう上条さんを追って行ってしまった。この場には班の男子三人と私だけが取り残されてしまった。

 えっと、とりあえず私も切符を買わないと。それよりも、上条さん、ちゃんと調べててくれたんだ。なんだかちょっと嬉しかった。

「……感じ悪いな、上条。マジ白けるわ」

「全くだな。だから友達できねぇんだよ」

 班の男子の井場いば君と木田きだ君は小声で文句を言っている。班内での上条さんの言動に不満しか持てないみたい。助けてもらったのは、事実なんだけれども。

 上条さんも、いつかきっと分かってくれる。そう信じてはいるけれども、今の私じゃ何もできない。上条さんのフォローをすることも、できない。なんだか凄くもどかしかった。

 そんなことを考えていると、もう一人の男子の田代たしろ君が、

「とりあえず先を急ぎませんか? あまり時間もないですよ」

 と言って私たちを誘導してくれた。今は、先を急ごう。


 御徒町駅で下車して、歩くこと数分。神社に到着した。

 学問の神様がいることで有名な天満宮だったけれども、私は今まで来たことがなかった。

「早速参拝に行こうぜ!」

「おう!」

 井場君と木田君は走って行ってしまった。男子は田代君だけ取り残される。

「田代、あんたは行かないの?」

 怜が田代君を気遣ったみたいだけれども、田代君は何も気にしてなさそうな素振りを見せた。

「はい、僕は僕のペースで行きますから」

 何故か常に敬語を使う田代君。科学部で、成績が良くて、眼鏡をかけてて、周りに流されない。他の男子たちとはちょっと違ったイメージがある。

 話すときはいつも敬語で、周りに流されないっていう点は、上条さんにちょっと似ているかもしれない。

 田代君は自分のペースで、一人先に進んでいった。


 私、怜、そして上条さんの三人で並びながら歩く。上条さんが勝手に行ってしまわないように怜が適当な話をふったり、歩く速度を合わせたりしている。でも、上条さんはほとんど無口で、適当な返事ばかり。私は怜ともあまり話せてなくてちょっと寂しい。

 途中、参拝を済ませた井場君と木田君とすれ違った。

「俺たち、お土産見てるから!」

「お前らも早く来いよ!」

 とだけ言い残してすぐに去ってしまった。この二人もある意味周りに流されない面を持っている。


 参拝する場所に辿り着いた。ちょうど田代君がお参りを済ませたところだった。

「ここは、学問の神様で有名ですからね。神様にお願いするのも悪くないですよ」

 田代君は当たり前のことを言い残し、来た道を戻っていった。

「よし! 私たちもお参りしよう、千佳、聖香!」

「うん、そうだね」

 上条さんの顔を覗いてみる。……ここまで来ても本当に無表情だ。でも綺麗な顔をしている。

「それ!」

 怜が五円玉を賽銭箱に投げ入れ、鈴を鳴らして手を叩き、目をつむる。

 細かい礼儀作法はよく分からないけれども、私も知ってる限りのことをやってみよう。怜も適当な感じだったし。

 願いごとは、やっぱり受験のことかな。転校して、周りの高校のこともよく分からないけれど、入試本番までたくさん時間があるわけじゃないから。学問の神様に見守ってもらえるよう、お願いした。


 私がお参りを済ませても、上条さんはまだ何もしていないようだった。

「聖香、お参りしないの? 少し急いだほうが良いよ」

 上条さんは怜を無視して、一歩前へ出た。

 お賽銭を丁寧に入れ、鈴を鳴らす。

 二回深くお辞儀をして、胸の前で二回拍手。目をつむり、何かをお願いする。

 数秒後、再び一礼して神前から下がった。

「……」

 上条さんのお参りの仕方に言葉を失う私と怜。正しいやり方なんて分からないけれども、何かを間違っているようには見えなかった。それぐらい、上条さんの参拝の仕方は完璧だった。

「……どうかしましたか?」

「え、い、いやぁ、聖香の参拝の仕方凄いなぁって……」

「う、うん。上条さん、よく知ってるんだね」

「……このぐらいの作法、知っていて当然だと思いますが」

 そして見下すような目を向ける上条さん。何も言い返せない。

 上条さんの意外な一面を見ることができたお参りだった。

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