5 修学旅行の始まり
いよいよやってきた修学旅行初日。
新幹線で東京へ向かう。到着するまでは、周りの皆とトランプをしたり、お話したり、あっという間に時間が過ぎていった。
怜ちゃんと二人で何度か上条さんを輪に入れようとしたけれど、やっぱり会話が成り立たず、無駄に終わってしまった。
「着いたぁ!」
東京駅に到着して、怜ちゃんが大はしゃぎする。早くも興奮が絶頂を迎えているようだ。
私にとって、東京駅は見慣れた場所だった。東京は一か月前まで住んでいたところだし、ここは何度も利用した経験があった。
「怜ちゃん、はしゃぎ過ぎだよ」
「そりゃ千佳ちゃんにとっては珍しくないかもしれないけどさ、私にとっては憧れの街だもん!」
周りの皆もわくわくしてるみたいだったけれど、怜ちゃんは特に目立っていた。
そんな中、上条さんと部屋が同じになっている新田さんは、周りに比べれば落ち着いていた。
「新田さんは、東京に来たことあるの?」
「え? ううん、初めてだよ。確かに新鮮だけど、はしゃぐほどでもないかなぁ」
新田さんは大人びた雰囲気を持っている人だ。まるで皆の保護者みたい。
「長谷部さんは東京から転校してきたんでしょ? やっぱり慣れてるからかな、落ち着いてるよね」
「ちょっと前まで見慣れた光景だしね……。でも、皆と一緒だと、凄く楽しみかな、って」
「健気だね~。そのくらいがちょうどいいよ。長瀬もあんた見習ってくれればいいのに」
そう言って怜ちゃんに視線を向ける新田さん。軽くため息をつく。怜ちゃんは相変わらず落ち着きがない。
今日から二泊三日。どんなことが私たちを待っているのか、とっても楽しみ。
一日目は、クラス全体での研修が中心だった。班別行動は明日以降。今日は国際交流施設の訪問などで、自由な時間はほとんどなかった。
あっという間に時間は過ぎていって、もう夕方になった。
「疲れたぁ……。早くホテルに行きたいよ」
前半から飛ばし過ぎていた怜ちゃんは、もうお疲れのようだった。
「怜ちゃん、これからミュージカル鑑賞だよ? 一番楽しみにしていたことじゃなかったっけ?」
「はっ! そうだね! 元気出てきた!」
私の一言で、怜ちゃんは最初のテンションを取り戻したようだった。ちょっと単純だけど、そこが怜ちゃんのいいところでもあるんじゃないかな、って最近思うようになった。
私たちは会場に移動するためにバスに乗車する。今日の移動手段はバスが多かった。
バスでも怜ちゃんと隣になったので、いろいろと話を聞いてみることにした。
「怜ちゃんはさ、ミュージカルとか観に行ったことあるの?」
「うん、数は多くないけどね。今日これから観る公演の劇団は、日本でも規模が大きくてね。昔から一度行きたいって思ってたんだぁ」
怜ちゃんはそう言って目を輝かせた。やはり、特別な思い入れがあるようだ。
「千佳ちゃんもさ、終わった後は人生観が変わるはずだよ? 感動とか半端ないんだから」
言い過ぎのような気もしたけど、怜ちゃんにとってはそれほど大きなことなんだと思う。きっと、初めて観たときに怜ちゃんは人生観が変わったんだ。……根拠はないけれど。
私は東京にずっと住んでいたけれど、劇場公演などは一切観たことがなかった。どちらかというと、部屋で本を読んだりしているほうが好きだったから。
だからこそ、怜ちゃんがそこまで語ってくれると、楽しみに思う気持ちがだんだん強くなっていった。この見慣れた街で、新しい発見ができるかもしれない。そんな期待に胸をふくらませていた。