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4 見えない気持ち

 修学旅行が少しずつ近いづいてきて、予定もだんだんと固まってきた。

 今日は修学旅行二日目にある班別自主研修の班編成を決める日。各班で男子三人、女子三人の構成をしなければならない。

「それでは、男子は男子、女子は女子で自由にグループを作ってください。その後に男子と女子のグループを適当に組み合わせます」

 先生の指示が出て、一斉に動き出す皆。私と怜ちゃんも同じように動き出す。

 私と怜ちゃんは、何をするか事前に打ち合わせをしていた。二人で顔を見合わせ、頷き合い、行動に出る。

 目指すは上条さんの席だ。


「聖香! 私たちと組もうよ!」

 怜ちゃんが明るく上条さんに接する。しかし、上条さんは表情を全く変えず、怜ちゃんへ視線を向けたものの、無言のままだ。そんな反応をされても、怜ちゃんは折れずに話しかけ続けた。

 人数が三人でなければならない以上、私と怜ちゃんだけではグループを作ることができない。上条さんもどこかには必ず入らなければいけないので、私たち三人にとってちょうど良い話だと思う。

 口を開かない上条さんに対して、怜ちゃんはテンションを変えずに話し続ける。

「私さ、聖香と一緒にいろいろ見たいんだよ! 聖香は行きたい場所とかある? 私はいっぱいあるよ! 東京なんて初めてだもん!」

 口を挟むことすらできないようなスピードで話し続ける怜ちゃん。そしてそれをまるで聞こえていないかのように無反応の状態を保ち続ける上条さん。

 怜ちゃんも、上条さんも、最初から表情を全く変えていない。


「……分かりました、組みます。だからもうこれ以上話しかけないでください」

 数分後。周りのグループがほとんど固まってきたこともあり、ついに上条さんが折れた。素っ気ない言葉だったけれども、口を開いてもらえた。

 怜ちゃんが小さくガッツポーズをした。ずっと喋りっぱなしで辛かっただろうけど、目標を達成できた喜びの方が大きいんだと思う。これで、私たちはグループを組むことができた。

 私たちはクラスのとある男子三人と組むことになり、その日のうちに大体の行き先を決めた。上条さんは話す気は無さそうだったし、私も東京で行きたいところなんてなかったから、ほとんど怜ちゃんや男子で予定を決めてしまった。

 心配なことは多いけれど、怜ちゃんと一緒なら安心できる。私も、怜ちゃんみたいに周りから頼られる人になりたい。会ってから間もないけれど、私の中で怜ちゃんは憧れの存在だった。


「怜ちゃんは、修学旅行で何が一番楽しみなの?」

 いつもの帰り道で、私は怜ちゃんに聞いてみた。怜ちゃんは心から修学旅行を楽しみにしている素振りだけれども、一番楽しみにしているものは見てるだけでは分からない。

「うーん……全部楽しみだけど……やっぱり一番楽しみなのは……」

 少し間が空いてから、答えが出た。


「ミュージカル……かな」


 怜ちゃんが一番楽しみにしているもの。それは一日目の夜にある芸術鑑賞、ミュージカルだった。

 何故か、怜ちゃんの一言から、重みが感じられた。単純にミュージカルが楽しみっていう気持ちはあるんだろうけれど、それ以上の思いがある。根拠はないけれど、そんな気がした。普段は見せない寂しげな表情が印象的だった。

「怜ちゃん、お芝居とか好きなの?」

「ふふふ、それは秘密ー!」

 いつもの笑顔に戻った怜ちゃんは意地悪そうにそう言って、歩くスピードを速めた。

「えぇ、言ってくれても……」

「いつか話してあげるよ、だから今は秘密!」

 一人で先に進んでしまう怜ちゃん。慌てて私も歩くスピードを速める。

 怜ちゃんの特別な思い、それが気になって仕方なかった。


 そして、待ちに待った修学旅行当日がやってきた。

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