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3 難しい女の子

 転校してから数日。怜ちゃんのおかげもあって、私はこの学校に早くも馴染むことができた。クラスにも多くの友達ができた。

 今日も朝から気分が良い。学校へ行くのが楽しみだ。

 通学路では桜が満開で、春を感じさせる。朝、ここを通る度に桜を見るのが最近の楽しみだ。

 都会というわけではないけれども、小さな花屋さんやケーキ屋さん、美容院、コンビニ、スーパー、病院など、多くのお店や施設が立ち並んでいる。


 途中の十字路で、待つこと二分。

 怜ちゃんがやってきた。

「おはよー! 何分待った?」

「おはよ、怜ちゃん。さっき来たばかりだから、大丈夫だよ」

 ここで待ち合わせをして、一緒に登校するのがお決まりになった。

 いろいろな話をするが、最近は修学旅行の話で盛り上がることが多い。

「今日さ、ホテルの部屋割り決めるじゃん? 楽しみだね~」

「そうだね、一緒の部屋になれるかな?」

「自由にペア組めれば良いのにね。そしたら千佳ちゃんと一緒に過ごせるのに」

 私も、怜ちゃんと組めれば楽しい夜になると思う。夜更かしして、友達と語り明かすというのにも憧れる。

 きっと、そういう場ではいつも話せないようなことまで話せちゃうんだろうな。


「それではこれから部屋割りを決めます」

 先生の一言に、教室に緊張が走ったような気がした。私もずっとどきどきしている。

「えっと、基本的に全員二人部屋になります。では男子と女子に分かれて、自由に部屋割りを決めてください。先生は関与しません」

 その瞬間、皆から緊張が抜けた。私も同じ。くじ引きとかではなく、自由に部屋割りを決めていいと言われて安心した。

 皆が動き出した瞬間に、怜ちゃんに手を掴まれる。

「千佳ちゃん! 組もう!」

 もちろん、答えは決まっている。

「うん、よろしくね。怜ちゃん」

 早速私たちはやることがなくなってしまった。


 基本的に部屋決めはテンポ良く進んでいたけれど、途中である問題が起こってしまった。

 いつも三人でいる女の子たちが、二人組を作るのに困っている。

 そして、このクラスで一人、浮いている女の子がいて、誰ともペアを組めていない状況。

 他の皆は既にペアを決めていて、その四人だけがペアを組めずにいた。


 浮いてる女の子は、上条かみじょう聖香せいかさん。私は話をしたことがない。

 人を避けているような感じで、誰も寄せつけない。言ってしまえば近づきにくい人だった。誰かと会話しているところも見たことがない。科学部に入ってるみたいだけれど、そこでも一人でいるみたい。

 私みたいに引っ込み思案な子ではなさそうで、ただツンツンしてる感じ。さっきから、ずっと黙っている。

 顔立ちは綺麗だが、笑顔を見せたりすることはない。そんな人だった。

 三人組の子たちはグループ内で決めたかっただろうし、上条さんと一緒の部屋になるのは少し躊躇いがあるのかもしれない。

 私や怜ちゃんは、ただ黙って話が進むのを待つしかなかった。


 これ以上話が進まないと判断してか、女の子たちの中のリーダー格の子が、一歩前に出た。

「じゃあ、私が上条さんと組むよ。二人は二人で組んで」

 その女の子、新田にったさんは他の二人にそう促した。二人は不満そうではあったけれど、渋々納得したようだった。

 新田さんは陸上部に入っていて、髪型はショートカット、そして男勝りな一面のある女の子。怜ちゃんとはまた違った形で人を惹きつける人だった。だからこそ、グループの子たちからも慕われていて、なかなか話が進まなかった。

 新田さんは差別とかはしない人だろうから、上条さんとペアになっても自分のペースを崩さずに上手くやっていけると思う。

「よろしくね、上条さん」

 新田さんは上条さんに声をかけたけれど、上条さんの反応はなかった。

 周りからの上条さんへの印象も悪くなる一方で、この先が不安になった。


「聖香はね、小学校の頃はいい子だったんだよ」

 休み時間になって、誰も通らない廊下まで移動して怜ちゃんと語り合う。

 私は上条さんの話を聞きたかった。せっかく知り合えたのだから、もっと仲良くしたいと思った。

「なんだかよくわかんないんだけど、中学に入ってから、夢中になったことがあるみたい。それで他の人と関わりたがらなくなって、あんな感じ。私もさ、嫌いじゃないんだけど、あんな状態だと話もできないし。難しいよね」

 言い終えてから軽く溜息を吐く怜ちゃん。怜ちゃんも、上条さんのことが気にかかってるようだった。

 上条さんを変えたのはなんだろう。私は、上条さんのことが放っておけなくなってしまった。

「千佳ちゃん、聖香のこと、気にかけてるの?」

「え、えっと、うん。クラスの子たち、皆と仲良くなりたいから」

「私も同じ。聖香は無視できないんだよね。ねぇねぇ、今度さ、声かけたりしてみる?」

 いい提案だと感じた。怜ちゃんも、私と同じように考えてくれていることが嬉しかった。一人では駄目でも、二人なら。怜ちゃんと一緒なら、上条さんと仲良くなれるかもしれない。

「うん、怜ちゃん、二人で頑張ってみようか」

「よーし、じゃあやってやりますか!」

 こうして私と怜ちゃんは、上条さんと距離を縮めるための第一歩を踏み出した。

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