1 出会い
今日は転校初日。私は中学三年生の春に、この学校に転校してきた。
お父さんのお仕事の都合で、転校。転校なんて今まで縁が無かったから、話を聞かされた時は驚いた。十四年間過ごした場所を離れるのは辛かったけど、ここでまた新しい生活を送るのは、楽しみでもある。
どうせだったら昨日の始業式にも参加したかったけど、引っ越しの都合で一日遅れる形になってしまった。今日は新年度二日目。この学校での新生活がこの日から始まる。
今、私は教室の前で待機中。教室では朝の会が始まっている。先生が転校してきた私の説明を皆にしてくれているのだと思う。呼ばれるまでここで待機してるように言われた。
新年度二日目でまさかの転校生。皆、どう思ってるかな。これから私、このクラスの人達と仲良くできるかな。着慣れていない制服、リボンとか曲がってないかな。初めて転校生という立場になって、ずっと緊張が治まらない。
そんなことを考えていると、教室の扉が開かれた。
「じゃあ長谷部さん、入って」
先生に案内され、私は教室の中へ入る。
教室を見回して皆の顔を見ると、心臓の鼓動の速さが更に加速したように感じられた。
まずは、自己紹介。最初の一歩は、失敗できない。
「東京から来ました。長谷部千佳です。これからよろしくお願いします」
無難な挨拶だったけど、噛むこともなく言えた。クラス中から拍手が沸き起こった。その瞬間、皆が私を認めてくれたように感じられた。
「じゃあ長谷部さん、あなたの席は用意してあるから。あそこの席に座って」
先生に指示された場所に向かう。私の席は、一番後ろだった。
この位置からでも黒板は見える。授業に支障は無さそうだ。
「長谷部さんの周りの人は、困ったことがあったら助けてあげてね」
先生がそう言ってくれた。若いけれど、生徒を気遣うことのできる優しい先生なんだろうな、って気がした。
朝の会が終わって、一時間目の授業が始まるまでの休み時間を過ごすことになった。
転校生だから、皆が私のところに集まるのかなと思いきや、そんなことはなかった。新しい学年になって二日目、皆が私のことを相手にするほど余裕がある訳じゃないのかもしれない。でも、助かった。質問攻めとかされても、ちゃんと応じる自信が無い。
私は人付き合いが得意な方ではないから、囲まれるような状況は遠慮したい。
「ねぇねぇ、長谷部千佳ちゃん、だったよね?」
突然、隣の女の子が話しかけてくれた。凄く可愛い子だった。長い髪、吸い込まれそうな大きな瞳。街を歩けば周りの皆の注目を集めてしまいそうな、そんな美少女。彼女は私に笑顔を向けていた。
「私、長瀬怜。クラス替えで、仲良い友達とか皆離れちゃって。まだこのクラスで友達もいないんだぁ。これからよろしくね」
とても愛想の良い子だと思った。長瀬怜。気軽に話しかけてくれて、誰とでも分け隔てなく接してくれそうな人柄。すぐに友達もいっぱい作って、クラスの中心になりそうな可愛い女の子。
こんな子が私の隣の席にいてくれて、良かったと思った。すぐにでも友達になれそうで、一気に緊張がとけた。
「うん、こちらこそよろしくね。えっと……長瀬さん」
「怜でいいよ。だから私も、千佳ちゃん、って呼んで良いかな?」
「う、うん。大丈夫。じゃあ……よろしくね、怜ちゃん」
そして二人で微笑み合う。早速クラスに、名前で呼び合う仲の友達ができて、凄く嬉しかった。
これが、私と怜の出会い。一生忘れることのできない、出会いだった。