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辺境で静かに暮らしたい小市民、うっかり「神殺しの魔王」と誤解され、全人類の王に担ぎ上げられる 〜ただのくしゃみが戦略魔法だと思われている件~  作者: 蒼井テンマ


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第8話:隣国スパイの受難

――私は、限界まで追い詰められていた。


 先日の「お化け(シルヴィア)」の侵入以来、私の家はもはや安全な場所ではなくなった。

 いつ、どこから、どんな恐ろしい奴が飛び出してくるか分からない。

 窓の外を見れば、黄金の雲が渦巻き、聖女様が「主を称えよ!」と物騒な歌を歌いながら巡礼路を整備している。


(……もう嫌だ。ここ、全然『隠居先』じゃない。テーマパークの真ん中で寝てるようなもんだよぉ!)


 私は、震える手で温かいお茶(例の紫色の草を薄めたもの)を飲んだ。

 落ち着け。パニックになったら負けだ。

 外から誰も入れないようにすればいい。そう、強固な「柵」を作るんだ。


(……ちょうど、床下に重くて頑丈そうな『レンガ』が転がってたな。あれを積んで、家の周りを囲もう。ついでに、あの暖炉で燃え残った『黒い紙(機密文書)』も、接着剤代わりに練り込んでしまおう)


 私は、鼻水をすすりながら作業を開始した。

 床下から引っ張り出したのは、かつて古代文明が「結界の核」として使用していた、一塊で一国の魔力を賄えるという『神代の充填石』だったが、私には「ちょっと角張って積みやすそうな石」にしか見えなかった。


(……よいしょ。……ひぃ、重い! でも、これを積まないと私の命が危ないんだ!)


 私は必死に石を積み上げ、隙間に「燃えカス」を詰め込んでいった。

 恐怖のあまり、私の指先からは制御不能な魔力が奔流となって溢れ出し、石と紙を「概念レベル」で結合させていく。

 私が一歩動くたびに、地面が地鳴りを立てて震えていたが、私は「あー、私の足音が響く。やっぱりこの家、欠陥住宅なのかな」と心配するだけだった。


        †


(……信じられない。私は、歴史の転換点を見ているの……!?)


 小屋の影から、シルヴィアは息を呑んでその光景を監視していた。

 彼女は、アルスに「命を拾われた(と勘違いした)」あの日から、忠実な影として彼を護衛することを決意していた。

 だが、目の前で行われている作業は、彼女の想像を絶する次元だった。


(……あのお方は、素手で『神代の遺物』を弄んでいる……。それどころか、私が献上した『他国の機密文書』を、文字通り『世界のいしずえ』として壁の中に埋め込んでおられるわ……!)


 シルヴィアは震えた。

 あれは、ただの壁ではない。

 あそこに埋め込まれた情報は、隣国がひた隠しにしてきた弱点や、軍事配置のすべて。

 アルスはそれを「建材」として扱うことで、『お前の国の運命は、私の家の壁程度に過ぎない』という圧倒的な傲慢と力を示しているのだ。


(……しかも、あの石。一つ積むたびに、空間の法則が書き換えられていく。……見て、あの積み方を! 物理法則を無視した『黄金比の要塞構造』だわ!)


 実際には、アルスが「手が滑って変な角度で置いた」だけなのだが、極限まで圧縮された魔力のせいで、石は空中に固定され、幾何学的に美しい――そして見る者が発狂しそうなほど複雑な――魔力回路を形成していた。


(……あのお方は、数時間で『絶対防御の聖域』を完成させようとしている。……これでは、私のような隠密が入り込む余地など、分子一つ分すら残らない……!)


        †


「……ふぅ。これで、半分くらいかな」


 私は、額の汗を拭った。

 家の周りには、いつの間にか高さ二メートルほどの、禍々しい蒼い光を放つ「塀」が出来上がっていた。

 自分で作ったはずなのに、近寄るだけで肌がピリピリして怖い。


(……よし、次は入り口だ。あ、そうだ。あのお化けがまた来ないように、玄関の前に『鏡』を置いておこう。自分の顔を見れば、恥ずかしくて帰ってくれるかもしれないし)


 私は、物置にあった「ひび割れた姿見(実は古代の『真実を映す魔鏡』)」を持ち出し、門の前に設置した。

 これで完璧だ。

 誰か来ても、鏡を見て「あ、私って変な格好してるな」と気づいて、回れ右してくれるはずだ。


(……よし。これで、やっと安心してトイレに行ける……)


 私は、達成感と極度の緊張による腹痛で、家の中に駆け込んだ。


        †


 その直後のことである。

 森の奥から、さらなる「不敬な者」たちが現れた。

 隣国スピア王国の最強騎士団――『白銀の槍』。

 彼らは、将軍バイロンの敗北を「まやかし」だと断じ、アルスの首を獲るために進軍してきた。


「おい、あれか! あの奇妙な壁が、噂の拠点だな!」


「ふん、石を積んだだけの粗末な塀ではないか。我らの一斉突撃で、瓦礫の山にしてくれるわ!」


 騎士団長が剣を掲げ、突撃の号令をかけようとした、その時。

 彼らの視界に、門の前に置かれた『鏡』が映った。


「…………なっ!!?」


 鏡を見た瞬間、騎士団長は悲鳴を上げた。

 そこに映っていたのは、彼の「現在の姿」ではなかった。

 彼が過去に犯した罪、心の奥底に隠した醜い野心、そして「アルスに挑んだ結果、無惨に滅ぼされる未来」の姿が、鮮明に、残酷に映し出されていた。


「ひ、ひぃぃぃぃ!! 許してくれ! 私は、私はそんなつもりじゃ……!!」


 団長だけではない。

 鏡を直視した騎士たちは、次々と自分の「本性」を突きつけられ、精神を崩壊させてその場にのたうち回った。


(……あ、ああ……! 『真実の鏡』……!)


 影から見ていたシルヴィアは、感涙にむせんだ。

 主は、戦うまでもないと仰っているのだ。

 己の醜さに気づかぬ愚か者は、鏡に映る自分自身の闇に食われて死ね、と。


(……なんて無慈悲。なんて合理的な粛清……!!)


        †


(……あ、なんか外で『ぎゃああああ!』って聞こえた!?)


 トイレの中で、私は飛び上がった。

 やっぱり来た! 暗殺者だ!

 鏡作戦、失敗したんだ!


(……どうしよう、どうしよう! 怖い! きっと、鏡を割って入ってくるんだ。あ、鏡が割れたら七年不幸になるって言うし、私の不幸はもう確定なんだ……!)


 私は、震えながらトイレの個室に閉じこもった。

 お願いだから、壁を壊さないで。お願いだから、鏡を見ないで帰って。


 だが、外の叫び声はすぐに収まり、代わりに「ジャリ……ジャリ……」という、大勢が膝をついて這いずるような音が聞こえてきた。


「……ま、参りました……。我らの負けです……。どうか、どうか魂だけは……助けて……」


        †


 翌朝。

 アルスが恐る恐る外へ出ると、そこには誰もいなかった。

 ただ、彼の作った「レンガの塀」の前に、山のように積み上げられた『白い銀の鎧(騎士団が脱ぎ捨てていったもの)』と、血で書かれた「降伏の誓約書」が残されていた。


「……あれ? 鎧が落ちてる。……洗濯物かな? でも、こんなにたくさん……。あ、分かった。昨日の人たち、服を汚しちゃって、洗ってほしいのかな?」


 アルスは、親切心(と、拒否したら殺されるという恐怖)から、その『最強の防具』たちを一箇所に集め、洗剤をぶっかけて豪快に洗い始めた。


 その様子を遠くから見た巡礼者たちは、再び号泣した。

「……見ろ! アルス様が、敵国の武威を『汚れ』として洗い流しておられる! なんという、なんという広大な慈愛の御心だ……!!」


 アルスの「ただの恐怖の引きこもり対策」は、隣国の最強戦力を一夜で無力化し、その誇りを洗濯機に放り込むという、最悪の屈辱(福音)へと変わった。


 アルスの平穏な隠居生活は、また一歩、深淵へと沈んでいった。

「鏡を見て精神崩壊」は、なろう系コメディの華ですね!

アルスが洗っているのは、ただの服ではなく「国の誇り」でした。

シルヴィアのストーカー……じゃなかった、隠密活動も絶好調!

「アルス、もはや災害レベルw」「洗濯されてる騎士団かわいそう」と思った方は、

ぜひ評価とブックマークをよろしくお願いします!

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