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辺境で静かに暮らしたい小市民、うっかり「神殺しの魔王」と誤解され、全人類の王に担ぎ上げられる 〜ただのくしゃみが戦略魔法だと思われている件~  作者: 蒼井テンマ


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第21話:地球管理者アルスの誕生(?)

――終わった。今度こそ、世界が私のせいで終わる。


 私は、アヴァロン城の最上階で、眼下に広がる「地獄のような絶景」を見て震えていた。

 私の「辞表(第20話参照)」を読み違えた聖女様と魔王令嬢が、連名で全世界に『旧世界の解体と再編』を宣言してしまった。

 今や大陸中の軍勢が、私の「一言」を合図に、既存の国境線を物理的に引き抜き、地図を白紙に戻そうと進軍を開始している。


(……ひぃぃぃぃ! 止めて! 誰か止めて! 私はただ、辞めたかっただけなんだよぉ!)


 私は、死の恐怖と良心の呵責に突き動かされた。

 このままでは、私は「世界を滅ぼした史上最悪の暴君」として歴史に刻まれてしまう。

 せめて、今すぐ各国の王たちに直接謝り、この「白紙化」を撤回してもらわなければ!


(……そうだ。全種族首脳会談だ。……そこで土下座して、『あれは冗談でした、私はただの無能です』と告白するんだ。そうすれば、みんな呆れて帰ってくれるはず……!)


 私は、パニックで涙目になりながら、城の全放送設備(魔導放送)を起動させた。

 そして、世界中の王、魔王、賢者たちに向けて、魂の謝罪を……もとい、最後の演説を開始した。


        †


(……来た。ついに、主の『最終宣告』が……!)


 アヴァロンの会議場に集結した各国首脳たちは、空中に浮かび上がるアルスの巨大な幻影を見て、一斉に平伏した。

 彼らの手元には、例の「白紙に戻すべきだ」という辞表の写しがある。

 彼らにとって、この演説は「どの国から順に消されるか」の死刑宣告に他ならなかった。


「……あ、あの……みなさん、聞いてください(=本当、すみませんでした!)」


 アルスの声は、極度の緊張と胃痛のせいで、天から降り注ぐ審判の雷鳴のように響き渡った。


「……私は、この大きな世界を……背負うには、あまりに……小さすぎました(=私みたいな無能が王様なんて無理なんです、ごめんなさい!)」


        †


(「世界を背負うには、小さすぎる」……だと!?)


 隣国の老王は、その一言を聞いた瞬間、心臓が止まるかと思った。


(……そうか! 主にとって、この大陸、この星など……箱庭(小さすぎる)に過ぎないのだ! 彼はもっと高次元の、宇宙の理を司る存在……。この星の王という地位すら、彼にとっては『小さすぎる枷』だったというのか……!)


「……だから、もう……すべて、返したいんです(=王冠も権力も、全部返上します。元の引きこもりに戻らせてください!)」


 アルスは、泣き出しそうな顔で訴えた。


        †


(「すべてを返したい」……!!?)


 魔導大国の賢者も、魔界の重鎮たちも、絶望のあまり泡を吹いて倒れそうになった。


(……拒絶だ! 主は、この汚れきった世界を管理することすら『汚らわしい』と仰っている! 『すべてを無(返したい)』に戻し、我々という存在ごと消去されるつもりなのだ……!!)


「ひ、ひぃぃぃ! お待ちください、アルス様!!」


 老王が、カメラ(魔導投影機)に向かって、必死に土下座した。


「分かっております! 我々が愚かすぎたのです! 貴方様に『王』などという矮小な肩書きを押し付け、瑣末な雑務でその神聖な時間を奪ってしまった……! 我々は、貴方様の『足拭きマット』で構いません! 国の運営は我々(部下)がすべて行います! だから……だから世界を消さないでください!!」


「そうだ! 貴方様はただ、そこに座っておられるだけでいい! 貴方様は『王』などではない、この世界の法則そのもの……『地球管理者』として、ただ我らを見守ってくださればいいのです!!」


        †


(……え? ……管理者? ……え、働かなくていいの? 座ってるだけでいいの?)


 アルスは、予想外の展開に呆然とした。

 彼は「辞めたい」と言ったのだが、どうやら相手は「お前は偉すぎるから、現場仕事(王)は引退して、最高顧問(神)になれ」と言っているらしい。


(……それって、実質……究極の隠居生活じゃないか!?)


 アルスは、パニックの中で一筋の希望を見出した。

 責任は部下(各国)が取り、自分は城の奥で震えていればいい。それこそが、彼の夢見た「平穏」ではないか。


 彼は、安心感から表情を和らげ(冷徹な仮面が解け)、今日一番の「慈悲深い微笑み」を見せた。


「……なら、……好きにしろ(=あー良かった、お任せします)」


        †


(「好きにしろ」……あ、あああああ……!!!)


 エレオノーラも、ベルフェも、各国の王たちも、その「全知全能の許し」に、大地を叩いて号泣した。


「赦された……! 我々は、アルスに存在を許されたのだ……!!」


「見なさい! これが新たなる世界の夜明けよ!! 救世主アルス様は、本日をもって『全人類の王』を辞し、全宇宙を統べる『地球管理者』に就任されました!!」


        †


(……あ。なんか、肩書きがさらに凄くなってる気がするけど……。……まあ、働かなくていいなら、いいよね……)


 アルスは、ふかふかの椅子に沈み込み、ようやく一息ついた。


 だが、彼が知らないことが一つだけあった。

 彼が「好きにしろ」と言った瞬間、各国が競い合って「主を喜ばせるための世界改造」を開始したこと。

 そして、彼の家の周りには、今やフェンリルだけでなく、世界中から集まった「管理者の護衛(狂信者)」たちが、蟻一匹通さない鉄壁の布陣を敷いていることを。


「……さあ、寝よう。……明日はきっと、静かになるはずだ……」


 アルスの平穏な隠居生活は、世界を統一し、種族を統合し、ついに「神の領域」へと到達してしまった。

 彼の明日は、もっと騒がしく、もっと不本意な崇拝に満ちている。


 ――第2章【魔界・外交編】 完。

最後までお付き合いいただき、本当にありがとうございました。


 本当は、アルスが学園でさらなる無双(勘違い)を繰り広げ、魔界や天界を完全に掌握するまでの長い道のりを予定しておりました。しかし、執筆を進めるうちに気づいてしまったのです。


 アルスの「不本意な強運」と「圧倒的な魔圧」が、この物語の枠組み(文字数)すらも歪め始めてしまったことに。


 彼が「もう帰りたい」と切に願った結果、物語という因果律そのものが彼を「物語の束縛」から解放し、平穏な隠居生活(完結)へと導いてしまった……。そう、これもまた、彼の「神がかった幸運」の一環だったのかもしれません。


 読者の皆様には、突然の幕引きとなってしまったことを深くお詫び申し上げます。

 ですが、アルスは今、この世界のどこかで、誰にも邪魔されない深い穴の中で、ようやく安らかな眠りについているはずです。


 彼を「救世主」や「神」として担ぎ上げる物語はここで終わりますが、皆様の想像の中で、彼の勘違い伝説が続いていくことを願っています。


 これまで応援してくださった稀有な読者の皆様に、心からの感謝を。

 また、別の世界(新作)でお会いしましょう。


 蒼井テンマ

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