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辺境で静かに暮らしたい小市民、うっかり「神殺しの魔王」と誤解され、全人類の王に担ぎ上げられる 〜ただのくしゃみが戦略魔法だと思われている件~  作者: 蒼井テンマ


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第20話:退位宣言、しかし世界は震撼した

――もう、これ以上は一分も持たない。


 私は、学園の最上階にある「皇帝専用執務室」で、胃を押さえながら震えていた。

 入学試験で魔力計を粉砕し、試験官を膝つかせたあの日から、私の「普通の学生生活」という夢は塵となって消えた。

 今や、廊下を歩けば全校生徒が道を開けて最敬礼し、食堂に行けば「皇帝の食べ残し(聖遺物)」を巡って決闘が起きる始末だ。


(……怖い。この学園、おかしいよ! 勉強なんて誰もしてないじゃないか! みんな私の挙動をメモして『神の呼吸法』とか分析してるだけだ!)


 私は、決意を固めた。

 このままでは、いつか「本物の天才」に正体がバレて、詐欺罪で首をはねられる。

 その前に、潔く(震えながら)辞めさせてもらおう。


(……よし。辞表だ。……でも、『辞めます』だけじゃ引き止められるかもしれない。……もっと突き放した、冷たい言葉で、彼らの熱を冷まさせなきゃ)


 私は、震える手で羊皮紙に、魂の叫びを書き殴った。


『――私は、もうここにいたくない。すべてを白紙に戻すべきだ。……あとは、勝手にしろ(=もう関わらないで、放っておいて。さよなら!)』


 あまりの恐怖で筆圧が強くなりすぎて、紙には魔力の奔流が焼き付き、文字の周りから不気味な黒い煙が立ち上っていたが、パニックの私は「あ、インクの質が悪いのかな」と思うだけだった。


        †


(……ついに、この時が来たか)


 執務室の外では、学園長マクシミリアン、聖女エレオノーラ、魔王令嬢ベルフェの三人が、扉から漏れ出る「絶望的な魔圧」に戦慄していた。

 アルスがペンを置いた瞬間、学園全体を覆う魔素がピタリと停止し、因果の糸が複雑に絡み合う音が聞こえた(彼らにはそう聞こえた)。


「主が……何かを書き上げられたわ。……あれは、福音ではない。……もっと、峻烈な何かよ」


 アルスがフラフラと部屋から出てきて、無造作にその紙を学園長の手に押し付けた。


「……これ。……読んで。……私は、もう……(=もう限界だから、帰るね)」


 アルスはそのまま、虚ろな目で自室(王城直結のワープゲートがある)へと去っていった。


        †


(「私は、もうここにいたくない。すべてを白紙に戻すべきだ。……あとは、勝手にしろ」……!?)


 学園長はその紙を読んだ瞬間、その場に崩れ落ちた。

 紙から放たれる圧倒的な「虚無」のエネルギー。それは、既存の魔法体系、既存の社会秩序、そして自分たちの「甘え」をすべて否定する、神の断罪。


「……な、なんということだ……! 主は……この腐敗した学園の教育システムを、一度すべて『破壊(白紙)』せよと仰っている……!」


「……そうか。分かったわ」


 ベルフェが大剣を抜き放ち、ぎらついた瞳で宣言した。


「主は、『形だけの平和に甘んじ、牙を忘れた今の学園など、アルスがいる価値もないゴミ溜めだ』と仰っているのだ! ……『あとは勝手にしろ』……。つまり、我らだけで既存の勢力を蹂躙し、ゼロから主のための帝国を再編せよという最終通告!!」


「いいえ、ベルフェ。主の真意はもっと深淵ですわ」


 エレオノーラが涙を流しながら、その「辞表」を高く掲げた。


「これは『辞職』ではありません。……『神による世界再構築リブート』の預言書です! 旧来の価値観ここにいたくないを捨て、真理に基づいた新たな人間(白紙)へと生まれ変われ……。主は、全人類に『自立』を促しておられるのです!!」


        †


(……よし。今頃、学園長は『残念ですが受理します』って泣いてるかな。……やっと、自由だ……!)


 アルスは、城の自室でようやく安堵の溜息をついていた。

 これで明日からは、ただの無職。

 誰にも注目されず、誰にも崇められない、最高の日々が始まるはずだ。


 だが。

 翌朝、彼が目を覚ますと――。


 ズゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥン!!!!!


 城全体が、凄まじい歓声と振動で揺れ動いていた。

 バルコニーへ駆け寄ったアルスの目に飛び込んできたのは、学園の制服を脱ぎ捨て、「アヴァロン教導騎士団」として重装甲に身を包んだ数万の学生たち。

 そして、その中心で学園長がマイク代わりの拡声魔法で絶叫していた。


「――主の御心のままに!! 学園は本日をもって解体! 我らはこれより、大陸全土を白紙に戻し、主の足元に捧げるための『聖戦』を開始する!!」


「「「「「アルス様に、絶対の忠誠を!!!」」」」」


        †


(……なんでぇぇぇぇぇぇぇ!!!)


 アルスは、王冠(置いてあったもの)を投げ捨てて頭を抱えた。

 辞めたはずなのに、組織が拡大した。

 解散したはずなのに、軍隊になった。

 そして何より、世界が今、私の「一言」のせいで滅亡(再編)の危機に瀕している。


「……もう、死にたい……(=頼むから、時を戻して……)」


 彼のその呟きは、影から見守るシルヴィアによってこう記録された。

『――主は、旧世界を終わらせる痛み(死)を自ら背負われた。これぞ、新世界創造への不退転の決意である』


 アルスの平穏な隠居生活は、もはや銀河系の果てまで吹き飛んでいた。

「……くくく、最高だよ、アルスくん!

君が『逃げたい』と言えば言うほど、世界が君のために『敵(だと思っているもの)』を殲滅し、君を唯一神に祭り上げていく。


これで第20話が終了。第2章の最大級の『ズレ』が完成したね。

次は第21話、『地球管理者アルスの誕生(?)』。


大陸全土が『白紙』にされるのを防ぐため、各国の王や魔王が『アルス様の部下(一地方官)でいいから、国を消さないで!』と泣きついてくる。

結果、アルスは望まぬまま『全種族・全大陸の最高管理責任者』へと就任させられる……という、第2章の大団円だ!

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