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辺境で静かに暮らしたい小市民、うっかり「神殺しの魔王」と誤解され、全人類の王に担ぎ上げられる 〜ただのくしゃみが戦略魔法だと思われている件~  作者: 蒼井テンマ


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第16話:賢者集結、知恵比べという名の拷問

――知恵熱が出そうだ。


 私は、広すぎる会議室の、無駄に重厚な椅子に座って震えていた。

 私の前には、大陸中から集まったという「大賢者」や「魔導院長」といった、いかにも「私は賢いです」という顔をした老人や美女たちが、ずらりと並んでいる。

 彼らの視線は鋭く、まるで私の脳味噌の中身をスキャンしようとしているかのようだ。


(……怖い。怖すぎる。なんでこんな知識の塊みたいな人たちが、私を囲んでるんだ)


 理由は分かっている。

 聖女エレオノーラが、「主の深淵なる知恵を世界に共有すべきです!」と勝手に号令をかけたからだ。

 彼女たちの後ろには、魔王令嬢ベルフェが「主の知略を理解できぬ愚か者は私が斬る!」と大剣を構えて立っている。


(……無理。何か喋ったら、一秒で『こいつ、中身空っぽだ』ってバレる。バレたら最後、ベルフェに斬られるか、賢者たちに実験体にされるかだ!)


 私は、極度の緊張と沈黙に耐えきれなくなり、手元の机に置いてあった高級そうな紙とペンを握りしめた。

 何か難しいことを考えているフリをしなければ。

 私は、震える手で紙に「今の正直な気持ち」を書き殴った。


『もう、お腹痛い。早く帰って寝たい。……無理』


 だが、あまりに手が震えていたせいで、文字はぐちゃぐちゃに重なり、まるで見たこともない「幾何学模様」のようになってしまった。


        †


(……な、なんだ、あの術式は……!?)


 大陸最高の魔導研究者であるマクシミリアン院長は、アルスの手元を見て、目を見開いた。

 アルスは一言も発さず、ただ無造作に、極めて高速でペンを走らせている。


(我々が数百年かけても解明できなかった『魔素の流転法則』を、あのお方は……今、即興で書き換えているというのか!?)


 賢者たちは、その「模様」に釘付けになった。

 アルスが書いた『お腹痛い(Onaka Itai)』の『O』と『I』が重なった部分は、魔力の循環ループを。

『早く(Hayaku)』の筆致の乱れは、空間跳躍の理論を。

 そして最後の『無理(Muri)』という一文字は、物理法則そのものを拒絶する「絶対零度」の概念を、完璧に描き出していた。


(……凄まじい。一見すると絶望(無理)を説いているようで、その裏には宇宙の誕生と終焉が内包されている……!)


「あ、あの……アルス様……。その、今お書きになられた……『真理の縮図』について、解説を頂いても……?」


 マクシミリアンが、震える声で尋ねた。


        †


(……え? 解説? ……やばい。なんて言えばいい?)


 アルスは、冷や汗を滝のように流しながら、自分の書いた「愚痴」を見つめた。

 解説なんてできるはずがない。これは単なる「胃痛の告白」なのだ。

 彼は、なんとかこの場をやり過ごそうと、もっともらしい(?)一言を口にした。


「……見た、まま……だ(=文字通り、お腹痛いから無理だって書いてるだろ!)」


 極度の緊張で、声は低く、深淵から響く神託のように重厚に響いた。


        †


(「見たまま」……!)


 賢者たちに、電流のような衝撃が走った。


(……そうか! 言葉など不要。この図形そのものが、世界のあり方そのものなのだ! 意味を考えること自体が、あのお方にとっては『浅知恵』なのだわ……!!)


「おお……!! 見えます、見えますぞ! 重力が、熱力が、すべてこの一点に収束していく様が……!!」


 一人の賢者が、感極まって図面に指を触れた。


 その瞬間。

 アルスの「震え」によって紙に込められた莫大な余剰魔力が、賢者の指を通じて起動した。


 キィィィィィィィン!!


 会議室全体が、柔らかな蒼い光に包まれた。

 次の瞬間、集まった賢者たちの頭上に、光り輝く「輪(知恵の環)」が出現。彼らの脳内に、今まで解けなかった数式や理論の答えが、濁流のように流れ込んでいった。


「こ、これは……!? 私の魔力回路が、最適化されていく……!?」

「失われた第十階梯魔法の構成が……分かる、全部分かるぞ!!」


        †


(……え? なんでみんな、頭に光る輪っかがついてるの? ……天国? ここ、天国なの!?)


 アルスは、目の前の異様な光景に、完全に思考が停止した。

 自分が「お腹痛い」と書いた紙を賢者が触った途端、みんなが「悟り」を開いたような顔で号泣し始めている。


(……怖い。やっぱり、賢い人たちは考えることが違うんだな。……あ、お腹痛いのが治った気がする。……光の加減かな?)


「……主よ。貴方様は、知識を独占するのではなく、こうして我ら愚か者に『直接共有』してくださったのですね……」


 マクシミリアンが、地面に頭を擦り付けて泣いていた。


「この『アヴァロンの落書き』は、これより大陸魔法学会の最高聖典として、金文字で全図書館に刻ませていただきます!!」


「いや、あの、ただの落書きだし……」


「『ただの落書き(神の戯れ)』……! 左様でございますな! 主にとっては、宇宙の真理も、子供の遊びに等しいということ……!!」


「………………」


 アルスは、もはや反論する気力も失い、ただ遠い目をして窓の外を眺めた。

 彼の「胃痛のメモ」は、この日を境に、世界中の魔法使いが一生をかけて研究する「究極の魔導術式」として、歴史に永遠に刻まれることになった。


 アルスの平穏な隠居生活は、知力の頂点においても、完全に崩壊したのである。

「お腹痛い」が「宇宙の真理」に!

賢者たちの脳が、アルスの魔力で勝手にアップデートされました。

これぞ、なろうにおける「叡智の勘違い」の極みですね!

さて、次回は第17話!

アルスが「不味い」と言って捨てたパンが、なぜか「奇跡の作物」として

農業革命を引き起こす!?

「アルスの落書き、グッズ化希望w」「賢者たちのチョロさも異常ww」と思った方は、

ぜひ評価とブックマークをよろしくお願いします!

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