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辺境で静かに暮らしたい小市民、うっかり「神殺しの魔王」と誤解され、全人類の王に担ぎ上げられる 〜ただのくしゃみが戦略魔法だと思われている件~  作者: 蒼井テンマ


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第14話:聖女の剣、魔王の牙

――地獄だ。


 私は、さっき掘りかけた穴の中に、そのまま顔を埋めてしまいたかった。

 右には、私のパジャマの裾を掴んで「主に一生付いていく!」と目を輝かせている赤髪のツノっベルフェ

 左には、「不浄な魔族が主に触れるなど万死に値します!」と剣を抜かんばかりに睨みつける聖女様エレオノーラ


(……怖い。どっちも怖い。なんで私の庭で、核戦争前夜みたいな空気になってるの!?)


 私は、ガタガタと震えながら、なんとか場を収めようとした。

 でも、恐怖で声が震えて、まともな言葉が出てこない。

 私は、隣で鼻息を荒くしているベルフェを、そっと押し返そうと手を伸ばした。


「……あ、あの……離れて……(=お願いだから、怖いからあっち行って!)」


 極度の緊張で、声は低く、まるでおぞましい呪詛のような響きを纏ってしまった。


        †


(「離れて」……だと!?)


 ベルフェは、全身に電撃が走ったような衝撃を受けた。

 アルスは今、自分を拒絶したのではない。

 『未熟な貴様が私の領域に触れるには、まだ魂の練度が足りない』と、そう仰っているのだ!


「くっ……! す、すまない、アルス! 私はあまりの感動に、つい分相応な振る舞いをしてしまった……! だが、貴様のその厳格さ、ますます惚れ直したぞ!!」


 ベルフェは、頬を赤らめて数歩下がった。


「なっ……! 調子に乗らないで、この蛮族の娘!」


 エレオノーラが、聖剣を突きつけるように一歩前に出た。


「主が仰っているのは、『穢れた魔界の気配をこの聖域に持ち込むな』ということですわ! 貴女のような破壊の化身は、主の慈愛に満ちた世界には不要なのです!」


「ふん、おめでたい女だな、聖女!」


 ベルフェが不敵に笑い返し、背中の大剣の柄に手をかけた。


「主のあの瞳を見ろ。あれは、弱者を救う生ぬるい瞳ではない。……この世のすべてを『静寂(死)』で塗りつぶそうとする、真の支配者の瞳だ! 私こそが、その覇道の先陣を切るに相応しい!」


「いいえ! 主は救済を望まれているのです!」

「支配だ!」

「救済ですわ!」


        †


(……うわああああ、喧嘩しないでぇぇぇ!!)


 アルスは、板挟みになって絶叫しそうだった。

 二人の美少女が、自分を巡って火花を散らしている。

 普通ならハーレム展開で喜ぶ場面かもしれないが、アルスにとっては「猛獣二頭の餌場に放り込まれたウサギ」の気分でしかない。


(……そうだ。二人とも、仲良くしてほしい。そう言えば、きっと落ち着いてくれるはずだ。……でも、なんて言えばいい? 『仲良くして』なんて、子供っぽくて笑われるかな。……あ、そうだ。適当な言葉で誤魔化そう)


 アルスは、ひどい腹痛に耐えながら、うめくように呟いた。


「……もう、どっちでも、いい(=喧嘩さえしなければ、何でもいいから静かにして……)」


        †


(「どっちでもいい」……!!?)


 エレオノーラとベルフェ、二人の動きがピタリと止まった。


(……そ、そうか……。主にとっては、救済も支配も、表裏一体……。どちらか一方に偏るような小さな器ではない。この世界そのものを、ありのままに受け入れるという、神の如き全能の意思……!)


 エレオノーラは、自分の視点の狭さに恥じ入り、剣を収めた。


(……クッ、やはりか……。救うも殺すも、主の指先一つ。私がどちらに転ぼうと、主の絶対的な強さは揺るがない。……『好きに暴れろ、すべては私の掌の上だ』……と、そう仰っているのか……!!)


 ベルフェは、その圧倒的な「格」の差に、再び恍惚とした。


「……失礼いたしました、アルス様。貴方様の深淵なる御心、また一つ学ばせていただきました」

「ああ、アルス! 貴様のその、すべてを諦観したような冷めた態度……最高だ! 私のすべてを貴様に預けるぞ!!」


        †


(……え? なんで二人とも、そんなにスッキリした顔してるの? 解決したの?)


 アルスは困惑した。

 でも、とりあえず嵐は去ったらしい。

 彼は、安心感から大きな溜息をつき、手に持っていたスコップ(神代の魔導具)を地面に突き刺した。


 ――その瞬間。


 ピキィィィィィィィン!!


 スコップから放たれた余剰魔力が、アヴァロン城を囲む「絶対防御の壁」に接続。

 城の周囲数キロメートルに、虹色の極光オーロラが立ち昇った。


「……あ」


        †


「見なさい……! 主が、私とベルフェの和解を祝して、新たなる『祝祭の結界』を張ってくださいましたわ!」


「おぉ……なんと美しい……! これぞ、魔界と人間界が一つに溶け合う、新時代の幕開けだな!!」


 巡礼者たちが、その光を見て一斉に跪き、大地を揺らすような歓声を上げる。


「「「救世主アルス様に、永遠の栄光あれ!!!」」」


        †


(……ただ、スコップを置いただけなのに。……なんで、お空が光ってるの?)


 アルスは、自分の手のひらを虚無感に満ちた目で見つめた。

 彼はただ、庭仕事の続きをしたかっただけなのだ。

 それなのに、今や彼は「魔界の王女を従え、世界に平和の光を灯した、伝説の統一王」として、歴史にその名を刻まれてしまった。


「……お腹、痛い……」


 彼のその呟きは、聖女によってこう記録された。

『――主は、平和の代償として、世界の歪みをすべて自らの身に引き受け、悶絶されている。その聖なる痛みこそが、我らの救いである』


 アルスの平穏な隠居生活は、もはや概念レベルで粉砕されていた。

聖女と魔王令嬢、まさかの共同戦線(勘違い)が張られました。

アルスの腹痛は、もはや「世界の痛みの肩代わり」という宗教的解釈に!

さて、次回は第15話!

「その背中、貫かせていただきます」

ベルフェがアルスの「護衛」として、文字通り一歩も離れず付きまとう!?

「アルスのプライバシー、死亡w」「スコップが万能すぎるww」と思った方は、

ぜひ評価とブックマークをよろしくお願いします!

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