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辺境で静かに暮らしたい小市民、うっかり「神殺しの魔王」と誤解され、全人類の王に担ぎ上げられる 〜ただのくしゃみが戦略魔法だと思われている件~  作者: 蒼井テンマ


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第13話:魔界の刺客は、ツノが生えていた

――人間ごときが、調子に乗るな。


 魔界の空は、常に濁った紫色の雲に覆われている。

 その最奥、鋭く切り立った岩山の頂で、一人の少女が不遜に笑っていた。

 燃えるような赤髪、額から突き出した一対の黒いツノ。そして、背負った大剣は、彼女の身長ほどもある。

 魔王の血を引き、魔界最強の武闘派として恐れられる令嬢――ベルフェである。


「聞いたか? 人間界に『アヴァロン』なる国が建ち、アルスという男が全人類の王を名乗ったそうだ」

「クク……片腹痛いわ。古龍を倒しただの、山を穿っただの、どうせ人間どもが身内を神格化するために流したデマに決まっている」


 ベルフェは、愛剣の柄を力強く握りしめた。

 彼女にとって、強さとは暴力。強さとは、敵のむくろを積み上げた高さのことだ。

 言葉や宗教で人を従えるなど、卑怯なペテン師のやることだと断じている。


「私が直々に、その『救世主』とやらの首を獲ってきてやろう。……真の王とは何か、その体に刻み込んでやるわ!」


 彼女は、一足いっそくで空を駆け、境界を越えた。

 目指すは、人間たちの聖域――アヴァロン王城。


        †


(……ひぃ、お腹痛い。もう、一歩も動きたくないよぉ……)


 アヴァロン王城、その豪華すぎる寝室。

 アルスは、シルクのシーツにくるまりながら、絶望の淵にいた。

 全人類の王になってからというもの、彼のプライバシーはゼロになった。

 朝起きれば聖女が「神のお目覚めです!」と叫び、顔を洗えば騎士たちが「聖なる水飛沫だ!」と跪く。


(……もう嫌だ。ここ、全然『隠居先』じゃない。……あ、そうだ。裏庭の、あの茂みなら誰も来ないはずだ。あそこに穴を掘って、一時間だけ現実逃避しよう……)


 アルスは、パジャマ姿のまま、愛用のスコップ(実は古代の魔導具)を手に取った。

 隠密スキル(ただのコソ泥のような動き)を駆使し、彼は城の裏手にある、深い森に繋がる庭園へと逃げ出した。


(……よし、誰もいない。ここで……ここなら、私はただの穴掘り大好き青年に戻れるんだ……!)


 アルスが、一心不乱に地面を掘り始めた、その時だった。


 ドォォォォォォォォン!!!!!


 空から、紅い流星が降り注いだ。

 爆煙と共に現れたのは、凶悪な殺気を放つ、ツノの生えた美少女。


(……え? なに? 特撮の撮影中……? じゃないよね、本物だよね、あのツノ!)


 アルスは、恐怖のあまりスコップを握ったまま、石像のように固まった。


        †


「……貴様が、アルスか」


 ベルフェは、目の前の男を睨みつけた。

 ……拍子抜けだ。

 金糸のパジャマに身を包み、泥まみれで穴を掘っている男。

 体からは威圧感どころか、小動物のような怯えすら感じる。


(……クク、やはりな。ただの幸運な小市民か。こんな男に、我が同胞たちが怯えていたとは)


 ベルフェは、背中の大剣をゆっくりと引き抜いた。

 大剣が放つ魔圧だけで、周囲の草木が枯れ、大地が悲鳴を上げる。


「無礼な人間よ。我が名はベルフェ。魔王が娘にして、貴様の命を刈り取る者だ。……死ぬ前に、言い残すことはあるか?」


(……ひぃぃぃぃぃ!! 殺される! 殺される殺される殺される!!)


 アルスの内面は、今まさに噴火寸前の火山だった。

 目の前の少女から放たれる殺気は、今まで出会った誰よりも濃く、重い。

 あまりの恐怖に、アルスの「欠陥魔力」が暴走を始めた。


(……どうしよう、どうしよう! 謝らなきゃ! 『穴掘っててすみませんでした』って言わなきゃ! でも、声が出ない! 足が……足が震えて、地面が揺れてる気がする!)


        †


「……ほう? 逃げも隠れもしないか」


 ベルフェは、微かに眉を動かした。

 自分の殺気を真っ向から浴びながら、この男は微塵も動じない(怖すぎて固まっているだけ)。

 それどころか、彼の足元から、大地を揺るがすほどの凄まじい「振動(ただの貧乏ゆすり)」が伝わってくる。


(……なるほど。あえて無防備な格好で、私を誘っているというのか。……面白い。その余裕、いつまで持つかな!)


「果てろ!! 秘剣――『紅蓮・虚空断ち』!!」


 ベルフェが、光速の踏み込みを見せた。

 彼女の剣が、アルスの首筋を捉えようとした、その瞬間――。


「……あ」


 アルスは、あまりの恐怖に足がもつれ、盛大に後ろへひっくり返った。


        †


(……なっ!? 消えた!?)


 ベルフェの視界から、アルスの姿が消失した。

 彼女の放った渾身の一撃は、アルスが「転んだ」ことで、髪の毛一筋の差で頭上を通り過ぎていった。


 だが、事態はそれだけでは終わらない。

 アルスが転んだ拍子に、手に持っていたスコップが、ベルフェの足元の「岩」に突き刺さった。


 その岩は、実はアヴァロン城全体の魔力供給を司る「重要結界の結び目」だった。

 アルスの暴走した魔力がスコップを通じて岩に流れ込み、反動で凄まじい衝撃波が噴出した。


 ドォォォォォォォォォォォォン!!!!!


 ベルフェの背後の森が、一瞬で扇状に消失した。

 彼女自身も、その余波で数メートル吹き飛ばされ、地面に叩きつけられる。


「……がはっ!? な、なんだ……今の、反撃は……!?」


 彼女は、砂煙の中から必死に顔を上げた。

 そこには、倒れたまま(腰が抜けて立てないだけ)、冷徹な……底知れない闇を湛えた瞳で自分を見つめるアルスの姿があった。


 アルスは、震える手で、自分の首筋(剣がかすったかもしれない場所)を触りながら、絶望的に呟いた。


「……信じられない。……ここまで、やるなんて(=あんな大きな剣で、本気で殺しに来るなんて、ひどすぎる)」


        †


(「ここまでやるなんて」……だと……?)


 ベルフェは、衝撃に打ち震えた。

 彼女の「最強の秘剣」を、目をつぶって転ぶだけで回避し、その隙に「足元の石ころ(に見えた)」を突くことで、地形そのものを兵器に変えて反撃した。


 そして、彼は言ったのだ。

 『お前の全力など、この程度の工夫(石を突く)で終わるのだ』……と。


(……あ、ああ……。私は、なんて井の中の蛙だったんだ……。この男は、戦ってすらいない。……ただ、庭仕事をしながら、ついでに私をあしらっただけだというのか……!)


 ベルフェの胸に、かつて感じたことのない熱い感情が込み上げてきた。

 それは、敗北の悔しさではない。

 自分を圧倒し、なおかつ「パジャマ姿」という究極の侮辱……もとい、余裕を見せつけた強者への、魂を震わせるような「敬服」。


「……ハ、ハハハ……。見事だ、アルス。……私の負けだ」


 ベルフェは、よろよろと立ち上がり、大剣を地面に突き刺して、その場に跪いた。

 彼女の頬は、興奮で赤く染まっている。


「殺せ。……いや、貴様のような強者に殺されるなら、本望だ。……だが、もし許されるなら……その強さのそばで、私は……」


(……え? なに、今度は何? なんで笑いながら跪いてるの!? 怖い! この子、情緒が不安定すぎるよぉ!!)


 アルスは、半泣きになりながら、再び穴の中に逃げ込もうとした。

 しかし、その背後には、異変を察知して駆けつけた聖女エレオノーラと、数千人の騎士たちがいた。


「アルス様! ご無事ですか!? ……あら、そこにいるのは魔界の……」


「エレオノーラ! 邪魔をするな! このお方は、今、私の魂を『貫かれた』のだ!!」


 ベルフェが叫んだ。

 アルスは、自分の腹痛を抱えながら、遠い目をして天を仰いだ。


(……お願いだ。誰か、私の『平穏』の定義を教えてくれ……)


 こうして、魔界最強の刺客は、一回の「転倒」と「地盤沈下」によって、アルスの「重すぎる(物理的にも精神的にも)ストーカー」へと進化した。


 アルスの平穏な隠居生活は、種族の壁を超えて、さらなる混沌へと突き進んでいく。

魔王令嬢ベルフェ、最速でチョロイン化完了です!

アルスの「転倒」が「神回避」に、「スコップ」が「概念破壊」に見えました。

さて、次回は第14話!

聖女vs魔王令嬢の、アルスを巡る「勘違いマウント合戦」が勃発!?

「ベルフェのチョロさ、最高w」「アルス、穴掘りすら許されないのかw」と思った方は、

ぜひ評価とブックマークをよろしくお願いします!

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