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辺境で静かに暮らしたい小市民、うっかり「神殺しの魔王」と誤解され、全人類の王に担ぎ上げられる 〜ただのくしゃみが戦略魔法だと思われている件~  作者: 蒼井テンマ


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第12話:全人類の王、誕生(?)

――朝だ。


 私は、ふかふかのベッドの中で目を覚ました。

 熱はすっかり下がり、体も軽い。

 やはり、あの「特製くしゃみ(ただのくしゃみ)」で、体内の悪いものが全部吹き飛んだらしい。


(……あー、よく寝た。やっぱり健康が一番だね)


 私は、のびのびと背伸びをした。

 さて、そろそろ起きようか。……あれ?

 なんだか、外が妙に静かだ。


 数日前まで、あれほど騒がしく合唱していた巡礼者たちの声が、一切聞こえない。

 騎士たちの鎧が擦れる音もしない。

 まるで、世界から音が消えてしまったかのような、重苦しいまでの静寂。


(……え? もしかして、みんな飽きて帰った? ……やった! ついに、ついに平穏が戻ってきたんだ!)


 私は、期待に胸を膨らませてベッドから飛び出し、カーテンを勢いよく開けた。


「……は?」


 窓の下に広がっていたのは、私が望んでいた「誰もいない森」ではなかった。


 そこには、地平線の彼方まで埋め尽くす、数百万の軍勢がいた。

 王国の聖騎士、隣国の重装歩兵、さらには先日くしゃみを浴びせたはずの魔導大国の魔導師たちまでが、一糸乱れぬ動きで、私の窓に向かって膝をついていた。


 その光景は、壮観という言葉すら生ぬるい。

 世界中の「武力」と「権力」が、私の家の庭に凝縮されていた。


(……どうしよう。どうしよう、どうしよう! 逃げ遅れた! みんなで、私の家に攻め込んできたんだ! 全世界を敵に回しちゃったんだ!)


 私は、恐怖のあまりガタガタと震え、窓を閉めようとした。

 だが、その瞬間にドアが開き、聖女エレオノーラが、まばゆいばかりの輝きを纏って入ってきた。


        †


「……お目覚めですか、我が主よ」


 エレオノーラは、深い慈愛を湛えた瞳で、アルスを見上げた。

 彼女の背後には、騎士長ゼノン、そして影に潜むシルヴィアが、感極まった表情で控えている。


(……あ、ああ……! 寝起きの、あの無防備なまでの覇気……!)


 ゼノンは、アルスの「寝癖(ただの乱れ)」が、まるで王冠のように黄金に輝いて見える(逆光のせい)ことに戦慄した。

 アルスがカーテンを開けた瞬間、その動作一つで数百万の兵士たちの士気が「物理的に」跳ね上がったのを、彼は感じ取っていた。


「アルス様。……貴方様が『風邪(神の調整)』のために休息されている間に、すべては終わりました」


 エレオノーラが、銀のトレイに乗せられた「数千枚の羊皮紙」を差し出した。


「大陸全土……ソルシュテイン魔導大国を含む、すべての国家が、貴方様に『無条件降伏』を申し出ました。……これらはすべて、貴方様を『全人類の王』として推戴することを誓う調印書です」


「……は、はい?」


 アルスは、裏返った声を出した。


「貴方様の『一息くしゃみ』によって、最強の要塞を塵にされたソルシュテインは、もはや戦意を喪失しました。……彼らは、あの日、自分たちの『神』が死に、本物の『神』が降臨したことを悟ったのです」


        †


(……要塞? ……あ、あの遠くに見えた花火のこと!?)


 アルスは、ようやく事態を把握した。

 自分のくしゃみのせいで、他国の重要な軍事拠点が壊れてしまったのだ。

 そして、その責任を取らされる代わりに……なぜか「王様になれ」と言われている。


(……嫌だ。絶対に嫌だ! 王様なんて、責任の塊じゃないか! 毎日忙しくて、寝る暇もなくて、暗殺者に怯えて……そんなの、隠居生活の真逆だよ!)


 アルスは、パニックになりながら、必死に断る理由を探した。

 彼は、震える手で窓の外の軍勢を指差し、断腸の思いで(怖くて声がガタガタになりながら)叫んだ。


「……む、無理だ……。……私は……元の場所に、帰りたい……(=お願いだから、私をこの変なお城から出して、元のボロ小屋に帰らせて。王様なんてやりたくないんだ!)」


 極度の緊張で、その声は冷酷なまでの拒絶を孕み、大気そのものを震撼させた。


        †


(「帰りたい」……だと!?)


 エレオノーラは、ハッと息を呑んだ。

 ゼノンは、あまりの衝撃に膝を突いた。


(……そうか。あのお方は、この『アヴァロンの城』ですら、自らの居場所としては狭すぎると仰っているのだ……!)


 エレオノーラは、その深淵なる言葉の真意を悟り、涙を流した。


「……あ、ああ……! なんという……なんという壮大な意志ビジョン!!」


 彼女は窓の外に向かって、全力の拡声魔法で叫んだ。


「聞きなさい、全人類よ!! 主は今、宣言されました!! 『私の家(領土)は、この城ではない。……この大陸すべて、生きとし生けるものすべての営みこそが、私の帰るべき場所(家)である』……と!!」


「「「「「おぉぉぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーー!!!!!」」」」」


 地響きのような、数百万人の大歓声。

 兵士たちが武器を掲げ、大地を鳴らす。


「境界線(国境)など無意味! すべての土地を主の庭とし、全人類を一つの家族とする……!! 救世主アルス様による、『統一世界』の始まりだ!!」


        †


(……え? なんで? ……今、『全人類』って聞こえたけど?)


 アルスは、呆然とした。

 自分の「ボロ小屋に帰りたい」という切実な願いが、なぜか「世界統一宣言」として翻訳され、数百万人の熱狂に火をつけてしまった。


「……アルス様。さあ、こちらへ」


 エレオノーラに手を取られ、アルスはフラフラとバルコニーへ連れ出された。

 眼下に広がる、無限とも思える人の海。

 彼らは一斉にアルスを見上げ、狂喜と崇拝の眼差しで、その名を連呼し始めた。


「アルス様! 万歳アヴェ!!」

「全人類の真王、アルス様!!」


 アルスは、眩しすぎる光(崇拝)に耐えきれず、目を細め、引きつった笑みを浮かべた(ように見えた)。


(……終わった。もう、逃げ場なんてどこにもない……)


 彼は、豪華なマントを羽織らされ、頭に神々しい王冠を載せられながら、心の中で血の涙を流した。


(……誰か、助けて。……誰でもいいから、私を隠居させて……)


 だが、彼のその「助けを求めるような悲しげな眼差し」は、民衆の目には「民の苦しみを受け止める、慈愛に満ちた神の瞳」として映り、さらなる熱狂を巻き起こすのだった。


 こうして、一人のビビりな青年による「ただの帰宅願望」は、歴史書において『統一記念日――全人類が一つの王の下に集った奇跡の朝』として永遠に記録されることになった。


 アルスの平穏な隠居生活は、ここで完全に、この宇宙から消滅したのである。


 ――第1章【黎明・建国編】 完。

第1章、これにて完結です!

「帰りたい」が「世界征服」になる。勘違いコメディの到達点ですね(笑)。

アルスはついに、文字通り「逃げ場のない王」になってしまいました。

第2章からは、そんなアルスの元に、魔界からの「物理的にヤバい刺客」がやってきます。

果たしてアルスの胃壁は持つのか!?

「第1章完結おめでとう!」「第2章も楽しみすぎるw」と思った方は、

ぜひ★評価とブックマークでアルスを応援してあげてください!

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