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辺境で静かに暮らしたい小市民、うっかり「神殺しの魔王」と誤解され、全人類の王に担ぎ上げられる 〜ただのくしゃみが戦略魔法だと思われている件~  作者: 蒼井テンマ


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第11話:くしゃみ一つで天変地異

――だるい。


 私は、豪華すぎる玉座の上で、毛布にくるまってガタガタと震えていた。

 数日前から続く「王様ごっこ(本人はそう思っている)」のストレスが限界を超えたのか、ついに風邪を引いてしまったらしい。

 頭はぼんやりするし、節々は痛いし、何より鼻がムズムズしてたまらない。


(……ひぃ、寒い。やっぱりこの城、無駄に広すぎて冷えるんだ。ボロ小屋の方がまだ暖かかったよぉ)


 私の前では、聖女エレオノーラが「新たなる法典の第382条」について熱弁を振るっていたが、私の耳には全く入っていなかった。

 視界がチカチカする。これは熱のせいか、それとも現実逃避のせいか。


(……あ。くる。鼻が……鼻がムズムズする……!)


 私は必死に堪えようとした。

 今、こんな厳かな(狂信的な)空気の中でくしゃみなんてしたら、また「不敬だ」とか何とか言われて、ややこしいことになるに決まっている。


(……だめだ、止まらない! くる、くるぞ……!)


 私は、漏れ出しそうなくしゃみを押し殺すために、全力で全身に力を込めた。

 恐怖と熱による興奮で、私の体内にある「圧縮された魔力(欠陥品)」が、かつてない密度で臨界点に達しようとしていた。


        †


 その時、アヴァロン王国の国境付近。

 魔導大国ソルシュテインの誇る移動要塞『黄金の太陽』が、静かに進軍を開始していた。


「ふん、救世主だか神だか知らぬが、所詮は野蛮な森の住人よ」


 要塞の司令官は、不敵に笑いながら、究極の魔導兵器『太陽の咆哮ソーラー・フレア』の充填を確認した。

 これは、神代の魔術を再現した、一撃で都市を蒸発させる大陸最強の兵器である。


「最大出力で放て! 偽りの神の城ごと、塵に変えてくれるわ!」


 要塞が黄金色の輝きを放ち、空間が熱で歪み始めた、その瞬間――。


        †


(……は、はっ、はっ……!)


 アルスは、限界だった。

 あまりのムズムズに、もはや思考は真っ白。

 彼は、溜まりに溜まったエネルギー(と鼻水)を、前方に向かって一気に解放した。


「――っ、はっくしゅんっ!!!!!」


 ズゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥン!!!!!


 アルスの口から放たれたのは、ただのくしゃみではなかった。

 極限まで圧縮された純粋魔力が、音速を超えた振動波となって『言霊』へと昇華された、究極の物理破壊魔法――『神の息吹ジェネシス・ブレス』。


 衝撃波は、謁見の間の重厚な扉を紙細工のように吹き飛ばし、そのまま一直線に国境へと突き抜けていった。


        †


「な、なんだ!? 前方に高エネルギー反応――っ、ぎゃあああああああ!!!」


 ソルシュテインの移動要塞『黄金の太陽』は、まさに『太陽の咆哮』を放とうとした瞬間に、その「くしゃみの余波」を正面から浴びた。


 大陸最強の魔導バリア? ――一瞬で粉砕。

 伝説の魔導合金の装甲? ――消しゴムで消されたかのように蒸発。

 要塞の主砲に充填されていた莫大な魔力は、アルスのくしゃみのエネルギーに共鳴し、内部から誘爆。


 ソルシュテインが数百年かけて築き上げた軍事力の結晶は、アルスのくしゃみ一発によって、文字通り「塵」となって空に舞った。


        †


「……あ。……あー、すっきりした」


 アルスは、鼻をすすりながら、呆然とした。

 目の前の大きな扉が消滅し、はるか遠くの雲が真っ二つに割れている。

 さらに、遠くの空で黄金色の花火のような爆発が見えるが、彼は「風邪のせいで幻覚が見えるのかな」としか思わなかった。


(……あ、鼻水出ちゃった。拭かなきゃ)


 アルスがポケットから取り出したのは、例の「聖女に授けたシャツ」の端切れ(洗濯した時に出たボロ布)だった。


        †


「……あ、ああ……!!」


 謁見の間で、エレオノーラをはじめとする神官たちは、その場に平伏し、激しくむせび泣いていた。


(……今のは、ただのくしゃみではない。あのお方は……我々の無駄話(法典の議論)に呆れ、たった一息で、不敬なる侵略者の軍勢を『浄化』されたのだわ……!)


 エレオノーラは、遠方で爆散したソルシュテインの要塞を魔力感知で捉えていた。

 大陸最強の武威が、あのお方の「軽い一息」で消滅した。

 それは、言葉よりも雄弁な、神の力の証明。


「主よ……! 貴方様にとって、大陸最強の軍勢すら『鼻につく塵』に等しいということなのですね……! なんという、なんという圧倒的な……!!」


 影からその様子を見ていたシルヴィアも、戦慄を禁じ得なかった。


(……あのお方は今、鼻を拭うジェスチャーをされた。……そうか。あれは『これ以上の不敬は、私が鼻をかむ程度の手間で、国ごと握り潰すぞ』という、周辺諸国への最終警告……!)


        †


(……あー、やっぱり熱がある。みんながまた変な声出してるし、世界が揺れてる気がするし……)


 アルスは、フラフラと立ち上がり、玉座を降りた。


「……もう、寝る。……何も見たくない(=病気だから休ませて。怖いことは聞きたくない)」


 彼はそのまま、奥の寝室へと消えていった。


(「何も見たくない」……!)


 エレオノーラは、その言葉を胸に刻んだ。

 それは、『私の視界に、これ以上不浄なものを入れるな』という、世界への大いなる命令!


「聞きなさい! 主は、汚れきったこの世界に愛想を尽かされました! 我々の使命は一つ! 主が目覚めるまでに、この地上からすべての『不浄(敵対勢力)』を排除することです!!」


「おぉぉぉぉぉー!!!」


 アヴァロン王国の軍勢(勝手に組織された)が、熱狂の渦の中で一斉に出撃を開始した。


 アルスが、布団の中で「……なんか、外がさらにうるさくなった気がするけど、気のせいだよね……」と、自分に言い聞かせて震えながら眠りにつくのは、その数分後のことだった。

くしゃみ一発で、最強の魔導要塞が消し飛びました。

アルスの「すっきりした」が、敵国にとっては「絶望の終焉」に。

さて、次回は第1章の最終回(第12話)!

アルスが目覚めたとき、世界はどうなっているのか!?

「アルスの鼻、最強w」「聖女の翻訳がもはや凶器ww」と思った方は、

ぜひ評価とブックマークをよろしくお願いします!

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