3話 人は間違うのに、裁きたがる
「わぁお!ということは君が、街で噂の憲兵さんなんだね!いつもお勤め、ご苦労さまでーすっ!」
ここはマギナ教会懺悔室――
今日は街で何かと話題になっている憲兵がやってきた。
「え、俺そんな噂に?一体どんな……?」
「まぁそうねぇ……」
話は少し遡る――
オルディがいつものように、猫の目を借りて街を散歩していると、
「またあの憲兵か……もう少し手心があっても良いんだがなぁ……」
「こないだなんて、ちょっと道に商品がはみ出てたくらいで営業停止になりそうで……」
「俺なんか、ちょっと法律の事で意見したら、それはこの法律に違反しています!っつって聞いちゃくれねぇ……」
そんな声を、あちこちで耳にするようになった。
懺悔室にも、そういった憲兵の抑圧に対しての相談がちらほらきていた。
「うーん、良くも悪くも的な?まぁまぁ、一生懸命仕事してたらそりゃそういう事もあるよね!憲兵だもの!それで?そんな真面目な憲兵さんはどんなお悩みがあるんだい?」
「最近、街の人とうまくいってなくて……」
「どううまくいっていないんだい?」
「どうも避けられているようなんです。確かに、憲兵なので厳しく指導することもあります。しかし他の憲兵はうまくやっていて」
「なるほどなるほど。君と、その他の憲兵は何が違うんだろうねぇ?」
「他の憲兵は、あまり口うるさく指導しないようなんです。でもそれは職務怠慢だと俺は思います。法律があるんですから、しっかりしてもらわないと!それが憲兵の仕事です!」
憲兵は力強くそう断言する。
「そうだねぇ……君は正義感が強いようだ!君のような憲兵がいれば、この街の悪事はきれいさっぱりなくなるだろうね!」
憲兵はそう言われ、少し照れていた。
「でも、その正義感がもしかしたら他人を寄せ付けないのかもしれないよ?」
「それは……いったい……」
「君は、相手の正義、について考えたことはあるかい?」
「…………他人の正義、ですか。正義は一つです。人によってあるものじゃない」
「なるほど……君はそう考えるんだね。どうだろう?少しこのことについて考えてみたら?もしかしたら、そこに君の悩みを解決する何かがあるかもよ?」
わかりました――と、釈然としない顔で憲兵は去っていった。
「正義って、自分の中にしかないんだけどね……」
オルディは猫を一撫でした。
数日経ち、再び憲兵が相談にやってきた。
「やっぱり、正義は一つだと思います。だっていくつもあったら、正しさを迷ってしまう」
「ほうほうそうくるかー!君は本当に真面目で良い人だ!そうだなー……では、一つ問題を出そっかな?」
憲兵は問題ときいて、固唾を飲みこむ。
「君はパン屋さんだ!美味しいパンを作る名人だ!その君の店に、なんとパン泥棒がやってきた!わーパン泥棒だ!パンを一つ盗まれた―!君はそれを追いかけてく!速い速い!さすが憲兵!鍛え方が違う!……ああ、君はパン屋だったね。でも君は追いついてパン泥棒を捕まえるんだ。しかしそのパン泥棒は、飢えた妹にパンを食べさせるために盗んだんだ。ああなんて可哀想な兄弟!……さぁここからが問題。正義は、これをどう裁くのかな?」
「決まっています。パン泥棒を裁きます、そうでなくては秩序が乱れてしまう!」
「そりゃそうだ!でも君がこの兄弟でも、やはり正義は同じかな?」
憲兵はすぐに答えようとしたが、思いとどまった。
「うん。このことを時間をかけてゆっくり考えてみるといいよ」
憲兵は小さく唸りながら出て行った。
そしてさらに数日後――
「俺はやっぱり裁かれるべきだと思いました。でも………」
憲兵は俯いた。
「実は昨日………同じようなことが起きまして……。泥棒を捕まえたんですが、その少年には弟が二人いて………俺は本当にこれが正しかったのか、ずっと考えてて……」
「なるほど……それは辛い経験だったね……」
「あの、正義って何なんでしょうか?盗みは悪い事です!でもそうしないと弟たちは……」
オルディは、少し間をもってゆっくり話した。
「正義っていうのはさ、人が作ったルールなんだよね。だから押し付けたり、押し付けられたりしちゃう。君は正義を実行した。それは決して悪い事ではないよ。そういう仕事だからね。でも、そうだな……シルド神教風に言えば……君は彼らに、何が出来ただろうね?」
憲兵は、はっとして懺悔室を出て行った。
「彼はきっと、正義を信仰しすぎていたんだろうね……」
数日後、幼い男の子二人が懺悔室にやってきた。
「おお!幼い少年たち!どうしたんだい?迷子?」
「ちがいます。お父さんとお母さんはいません……お兄ちゃんも捕まっちゃったので、いません」
「そうかー大変だね。隣の教会に行けば、助けてくれるから、いつでも言うといいよ!」
「だいじょうぶ、いまはけんぺいのお兄ちゃんがご飯くれるから。だから、今日はお兄ちゃんがはやくかえってくるように、あやまりにきました」
「そうかそうか!うん!赦そう!いい子にしていたら、きっとお兄ちゃんはちゃんと帰ってくるよ!」
ありがとう!と、男の子二人は帰っていった。
オルディは自室に視線を戻した。
「正義で人を裁くっていうのは、なんだか不思議だよね。人は間違うのに……」
オルディの足元で、猫同士がシャーシャーと喧嘩している。
それをオルディは抱きかかえ、大人しくさせる。
「でもそれを背負えたなら、それが人の強さなんだろうね」




