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転生者は身バレしても平穏を求める  作者: 天原 重音
ドロシー編 とある転生伯爵令嬢の一日

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1/4

人外魔境なクラス(担任含む)

 自分(菊理)こと、ドロシー・グラントには、余人からは同情して貰えるかもしれないが、理解はして貰えない悩みを抱えている。

 それは入学して一年が経過しても慣れない、学年に一つしかない特別種族科(人族以外は特別種族と呼ばれる)クラスの顔ぶれはそのままに進級した、留学先のクラスメイトについてだ。

 教室に続く廊下を歩きながら、人外魔境なクラス(クラス担任含む)を思うと口からため息が漏れる。

  

 王侯貴族制の国しかないこの大陸で、自分の転生先は伯爵令嬢だった。

 身分が平民で無かっただけでも、十分な幸運と言いたいところだが、……いかんせん、他の様々な面での運が無かった。

 菊理としての記憶を取り戻す切っ掛けが、『王命による、不貞をした婚約者との復縁拒否による自殺』だったのだ。この一点だけでも、運の無さを察する事が出来る、見事な薄幸令嬢だった。

 その最期は『全ての責務を放棄して、伯爵令嬢として逝ける』と喜んでの自害だったから、何とも言えん。

 記憶を取り戻し、どこかで静かな暮らしを計画していた。けれど、既に目を付けられていたので、計画は消えた。

 ……ああ、あたしの、のんびりぐーたら生活はどこに消えた。

 

 憂鬱な気分を抱えたまま、教室のドアを開けた。直後、耳をつんざくような悲鳴が上がった。


「ぎゃあああああっ!? 焼ける! 融ける! 融けちゃうううううう!」

「この駄氷霊! 何度言えば解りますの!? 女と女の間に入る汚物は、徹底的に焼いて消毒すると、言ったでしょう!!」

「ハーマイオニー! いかに氷霊のアルヴィンでも、それ以上は死ぬって、何でもありません」


「シオボールド。もうすぐ先生が来るから、そろそろ制服を着た方が良いぞ」

「えー、もうそんな時間なの? 制服は窮屈だからまだこのままでいたいなー」

「せめてズボンだけでも穿くんだ。先生から拳骨を貰うぞ」

「う゛、それは、嫌だな。でも、まだ脱いでいたい」


「それでね。危うくイーノック(ルビ:ノック)が男を連れ込んだ瞬間に遅れるところだったの」

「それは確かに、ギリギリだったわね。イーニッド(ルビ:ニッド)、その瞬間は目に焼き付けたのでしょう? どんな状態でしたの? 当然! 絵に描きましたよね? ささ、見せて下さいまし! あ、ハーマイオニー(ルビ:イオ)! イーニッド(ルビ:ニッド)の力作絵がありますわよ!」

「何ですって!?」

「女の子同士で温めてぇ!」

「黙りなさい! 消毒、焼いて消毒ですわー!」

「ぎゃあああああ!!」

「ああ、羨ましい。頼んでも誰も踏んでくれないのに……」


「それでさぁ。良いところだったのに、イーニッド(ルビ:妹)が天井裏から眼鏡を光らせて覗いている事に気づいて、危うく悲鳴を上げそうになった……。本当に、どうして妹は兄が血を貰っているところを隠れて見たがるんだ? しかも、『腐腐腐腐腐腐……』って笑っていたから、別の意味で怖かった」

「それは誰であっても怖いだろう」


 自分は教室のドアをそっと閉めた。心に思う事は、ただ一つ。

 ……帰りてぇっ!!

 それは、叶わない願いだった。



「おや、今日もですか?」

「ん? あ、ウルフスタン先生。おはようございます」

 教室のドアの前で一人立ち尽くしていると、銀髪を撫でつけた担任の男性教諭がやって来た。担任の先生は自分の姿を確認するなり、吊り目気味の金の瞳を細めた。

 先生は『自分がクラスに馴染めていない』事を知っている。だから、始業ギリギリの時間に廊下にいても怒りはしない。

 入学当初、五日に一度のペースで何度も相談した。今でこそ、相談のペースは月に一度にまで落ちたが、相変わらずクラスに馴染めないでいる。久し振りに転生者である事に不満を抱いたわ。

「ええ、おはよう。もうすぐ始業の時間です。中に入りなさい」

「……はい」

 教師に促されては、教室に入らない訳にはいかない。憂鬱になるも我慢して、再度教室のドアを開けて中に入った。



 午前最後の授業の終了を知らせる鐘が鳴った。誰が発案して、誰が採用したか知らないけど、授業の終わりは憂鬱な気分を少しだけ和らげてくれる。

 鐘が鳴る直前に、担任教師の鉄拳が落ちて教室自体が揺れたけど、何時もの事なので誰も気にしない。

 何時もの事だから、鉄拳を受けた生徒が白目を剥いて倒れて、床の上で陸に打ち上げられた魚のようになっていても、皆目も向けない。

 空腹を満たす為に、一階の食堂へ行こう。

 食堂へ移動する道すがら過去を思い返す。何だか色々と失敗した気がするなぁ。


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