第六章 竹筒の怪 3
「ああ、言われてみれば!」
藤七郎が納得の声をあげる。「平吉のところでこんなのを見たな。舶来品の緑だ」
「異人が束にして飾ったり冠を編んで被ったりするのですよね。あら? でも、先月のお客の異人はみんな殿方ですわよね? 異人は男でも頭に花を飾るのかしら?」
「いや、そんなことはないと思うぞ。御新造への贈り物ではないか?」
真葛と藤七郎が額を突き合わせるようにして緑の葉を検分している。
二人の言葉を聞きながら記憶を巡らせているうちに、櫻花は唐突に、鮮やかな緑の人造の葉を摘む平吉の手のあちこちが赤く爛れていたことを思い出した。
同時に、ついさっき聞いた真葛の言葉が思い浮かぶ。
――死んだおマサは、あの洋館に炭を運んで、異人の酒の相手をしたのですよね?
――そのとき異人から菓子でも貰ったのでは?
そう。青木マサは人に好かれる可愛らしい娘だった。
異人は彼女に何かを贈ったかもしれない。
贈り物。
緑の葉。
平吉の指の爛れ。
頭のなかでいくつかの映像が閃きながら消える。
櫻花は考えこんだ。
「墨染どの?」
藤七郎が訝しそうに呼ぶ。「どうなされた。……よもや、何か見えるのか?」
「あらまあ、すっかり御心を御入れ換えですのね!」
真葛が親しみを込めて揶揄い、小声でそっと教える。「何か考えているんですわよ。この人ボーッとしているようでとても賢いのです」
わが愛犬を誇るがごとく得意そうに言う。
「櫻花どの、何か思いつきました?」
「いや、まだ確とは」
櫻花は慎重に答え、改めて藤七郎に向き直った。
「猪口どの、我らの――というより、探索にあたっての真葛どのの力の有用性は分かって貰えただろう。私は物の怪が見えるだけだが、それなりに武の腕があるため、旧幕時代、我々はよく二人で組んで御上の密かな御用を務めることがあったのだ」
「つまりお調べに関してはずぶの素人でもないってことですわ。原宿村の青木家を調べさせていただけます?」
「無論だ」
藤七郎は潔く頷き、何を思ったかがばりと頭を下げてきた。「すまない御女中がた。あなたがたを見くびっていた」
「分かればよろしいんですのよ」と、真葛が軽く顎をあげて応える。
櫻花は思わず声を立てて笑った。
藤七郎が意外そうに瞬きをする。
「どうなされた?」
「いや」と、若い邏卒は目を逸らしてはにかんだ。「あなたも御笑いになるのだな」
「当たり前ですよ」と、真葛が呆れる。「この人を何だと思っているんです? ついでに一つ確かめておきたいのですけれど」
「何だろうか?」
「娘が変死した後、青木家はもちろんお医者を呼んだのですよね? そちらのお見立ては何と? やはり石見銀山《*ヒ素》ですか?」
真葛が斬りこむように訊ねるなり、藤七郎は黙り込んだ。
真葛の眉がきっと吊り上がる。
「まさかお調べになっていない?」
「いやまさか。勿論調べている!」と、若い邏卒は反射的に答え、そのあとで眉を寄せ、困った秋田犬みたいな表情を浮かべた。
「よほど言いにくいのか?」
「いや、何というか、その――青木マサの両親は確かに医者は呼んだのだが、それが遠縁の素人医者でな、見ていたものの話では、躯の服も脱がさず、ただちょっと手首の脈を確かめただけで、なぜ死んだのかは分からんとしか言わなかったのだそうだ。俺も当人に確かめに赴いたが、ただただ分からんと繰り返すばかりで埒が明かなかった」
「要するに、青木マサの両親は娘の躯を本職の医者に仔細に検めさせたくなかった――ということですわね?」と、真葛が小首を傾げ、どことなく挑発的な口調で櫻花に訊ねてくる。
「その心はいかに?」
櫻花は短く考えてから答えた。
「変死した若い娘の躯を身内が検めさせたくない場合、よくあるのは娘が身ごもっていたという事例だな」
「賛成です。あなたもそのように御推測を?」
「ああ」
藤七郎が諦めたように頷く。
「あまり当たってほしくない推測ですねえ」と、真葛がため息をつく。
櫻花も同感だった。




