朽ち果てる
夜の街に雨が降っている。
雨が降り始めてから今日で5日目。
梅雨の時期とはいえ此れほどの長雨は、天候不順が続く此処数年では珍しい。
海に面してる此の街は地球温暖化による海面上昇の影響で、平屋建ての家や2階建て以上の建築物の1階部分は水没していた。
そんな湿気の籠もるジメジメとした2階建ての住居の2階の窓から、高齢の男が降り続く雨の向こうを透かし見るように夜の街並みを眺めている。
街の住民は海面が上昇して堤防を乗り越えた辺りで皆街から退去。
残っているのは行く当てが無い高齢者や、引きこもりだった中高年の僅かな者たち。
水没した自治体の支援より、高地に移住せざるを得なくなった人たちの支援を国は優先している。
そのため街を維持していた自治体は自然に消滅。
街に残っている僅かな者たちはボランティアの人たちが運んでくる食料で、なんとか生きのびている状況。
だから夜の街の中は真っ暗な闇が広がっている、かって言うとそうでも無い。
殆ど着の身着のまま街から出ていった人たちが残して行った家財道具などを略奪しようと、幾つかの反社グループの面々が、街の中の住民が退去したマンションやビルを不法占拠して居座っていた。
それらのマンションやビルは、発電機やソーラー発電などにより煌々と明かりが灯されている。
夜の水没した街の中は危険でけたたましい。
広がった海で餌を探すサメや、地球温暖化で気温の上昇と共に熱帯地方から進出してきたワニや大蛇が互いを餌にしようとする争い、反社グループが自分たちが定めた縄張りを守り広げるための銃撃戦が、そこかしこで起きていたからだった。
そんな街の中の建造物は木製の物から次々と朽ち果てて行く。
幼少の頃から街に住み続け海面が上昇して堤防を越えた頃に孤独死した高齢の男は、何時か自分の魂も朽ち果てて消滅する事を願いながら、朽ちて行く街を見続けているのだった。