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第7話:夢じゃなかった

「…………夢じゃなかったか」


 一度睡眠を取った俺は、これが夢だったんじゃないかと思っていた。

 しかし、目を覚ましてみれば昨日初めて目にした部屋の中で、声もシャドウのものだ。

 ベッドから下りて鏡の前に立ってみると、やはりシャドウの姿のまま。


「……やっぱり俺、隠者黒子じゃなくて、シャドウになっちゃったんだな」


 一度深呼吸をしてから、もう一度鏡に映った自分の姿を見る。


「……王国軍がなんだ。勇者がなんだ。勇ボコのストーリーがなんだ!」


 俺はもう、この世界で生きていくしかない。


「俺がシャドウを守ってやる。アリスディアを守ってやる。仲間もみんな、守ってやる!」


 自分を鼓舞するつもりで、声に出して思いの丈を吐き出していく。


「俺はシャドウだ! アリスディアの参謀だ! 参謀は参謀らしく、裏から暗躍してやろうじゃないか!」


 シャドウの記憶から、俺は彼の能力を把握していた。


「……影魔法の使い手、シャドウ。今日から隠者黒子のゲーム知識をフルに活かして、魔王軍を勝利に導いてやる!」


 決意を新たにした俺は、シャドウの力を借り、早速影魔法を使い移動を開始した。


 ◆◇◆◇


 ……さて、ここが二日後、戦場になる場所か。


「剣士の墓場、大荒野イボルコープス」


 どこまでも広がる、木が一本も生えていない大荒野。

 魔族側からは剣士の墓場と呼ばれており、人間側からはイボルコープスと呼ばれている。


「イボエルが死体の山を築く場所、か」


 ここは領境になっており、最も王国領に近い場所になっている。

 そして、最前線に出たがるイボエルが管理している魔族領にもなっていた。

 王国軍と魔王軍は何度もこの地で激突しており、大量の人間の死体を山を築き上げたことから、人間側はそう呼んでいた。


「お互いに隠れる場所はなく、真正面から激突するしかない大荒野。だからこそ、イボエルの真価が発揮されて連戦連勝を繰り返してきた」


 一騎当千のイボエルと、彼が鍛えた屈強な魔王軍だからこそ成し得ることができた偉業だ。

 だが、それも前回までの話になってしまう。

 何故なら次の戦争には、王国軍にも一騎当千の相手が現れるからだ。


「勇者と、三人の英雄たち」


 勇者たちは今頃、レベル上げの真っ最中だろう。シナリオ通りなら、早くても二日は侵攻に時間が掛かるはずだ。


「さて、やれることをやるとしますか」


 俺はそう口にすると、地道に歩きながら、イボエルを助けるための策を講じていく。

 本当はイボエルを鍛えて、勇者たちに負けないようにできたらいいんだけど、そう簡単に強く成る術なんてないんだよな。……魔王軍には。


「本当に勇ボコは、勇者たちを優遇しているシステムなんだよな!」


 勇者たちのレベル上げはあっという間に終わってしまう。

 魔王軍がレベルと一つ上げるのに一週間かかるところを、彼らは数時間で終わらせることができてしまう。

 勇者の加護? 英雄の加護? そんなシステムが、勇者たちを後押ししているのだ。


「……はぁ。だから俺が、こんなことをしているんだけどな」


 大荒野には影がなく、頭上からは太陽の光が常に差している。

 大粒の汗が全身から噴き出す中でも、俺は作業を続けていく。

 こんなこと、参謀がやることではないのかもしれないが、誰かに助けを借りようにもどのように説明したらいいのか分からない。

 もっと時間的猶予があればそれでもよかったが、今は説明をする時間が勿体ないし、それなら俺自身が動いた方が明らかに早い。


「……まったく。なんで俺はお前に転生なんてしたんだろうな、シャドウ?」


 誰もいない大荒野のど真ん中で、俺はそんなことを呟いてしまう。

 昨日と同じで答えは返ってこないが、今日はそれでもいいと思えてならない。

 これが、決意を新たにした結果なのだろうか。

 ゲームをする以外にはなんの取り柄もないただの大学生だった俺が、まさかゲーム世界に転生して魔王を助けることになるなんてな。

 これがラノベだったら、絶対に勇者に転生して主人公やってるだろうよ。


「俺は主人公にはなれない、そんな人間ってことか? ……まあ、確かにそうだけどさ」


 誰かに誇れるようなことをした記憶もないし、記録に残るようなこともしていない。

 自分のために生きることに精いっぱいで、周りに目を向ける余裕なんてなかった気がする。

 ……そう考えると、魔王のために、仲間のために行動している今の俺は、ある意味で有意義な生き方をしているんじゃないだろうか。

 もちろん、俺自身のためでもあるんだけど、それだけに動いているわけじゃないんだよな。


「……頑張ろう。みんなのためなら、まだ頑張れる気がする」


 誰かのために頑張るのって、案外いいものなんだな。

 これならもっと、隠者黒子が死ぬ前にも誰かのために行動したらよかったかもしれない。


「いや、過ぎたことを考えても仕方がないか。どうにも女々しいよな、俺って」


 性格なのだから仕方がないが、今は目の前のことに集中するべきだ。


「頑張れ。……頑張れ、俺」


 ぶつぶつと自分を鼓舞しながら、俺は太陽が照り付ける大荒野で何時間も作業を続けていたのだった。

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