第36話:レイド逃亡戦④
ルミナとリンディアから離れることはできた。
ただ……傷も増え、魔力量も底を尽きかけている。
レイドに渡したのと同じマジックポーションを飲んである程度は回復したけど、まだまだ万全には程遠いな。
だが、そのおかげというわけではないが、レイドは戦争の最終決戦地になるだろう火山に逃げ込んでくれたようだ。
しかし、そこにはおそらく勇者と聖女シルクがいるだろう。
それだけではなく、多くの王国軍がいるだろうし、レイディスもきっとそこにいるはずだ。
だからというわけでもないが、レイドが俺のことを裏切り者だと思っていなければいんだけどな。
「急がないと……」
呼吸が段々と荒くなっていく中、俺は火山に入ってから火口付近では影から出て、慎重な足取りで進んでいく。すると――
「ようやくだ……ようやく、シナリオ通りにてめぇをぶっ殺せるぜ!」
「ルミナとリンディアも、少しは役に立ってくれているみたいですね、勇者様~!」
……なんだろう。ものすごくイラっとする感じの声が聞こえてきたわ。
いやまあ、声の主が誰かなんて明らかなんだが。
「はぁ、はぁ……魔法が、上手く使えない……これは、減魔鋼ね」
火口近くへ顔を覗かせると、そこには苦しそうなレイドと、ニタニタと気持ちの悪い笑みを浮かべた勇者とシルクの姿があり、その周囲を王国軍が取り囲んでいる。
レイドは魔王軍の兵士たちと共に行動していたはずだが、この場には彼女しかいない。
もしかすると、王国軍が潜んでいるのを感じ取り、別の場所へ逃がしたのかもしれない。
「……もしかして、シャドウに騙された?」
うぐっ!?
……そういうわけじゃないんだが、そう思われても仕方がないんだよな、この状況は。
俺が指定した場所に移動したら王国軍だけではなく、勇者と聖女が待ち構えており、さらにレイドを弱体化させる減魔鋼が設置されていた。
……うん。この状況なら、俺でも裏切られたと思っちゃうよ。
しかし、敵を騙すにはまず味方からと言うし、あとでレイドに怒られるだろうけど、今だけは我慢してほしいと思う。
「てめぇもバカだよなぁ。モブを逃がして、てめぇが殺されることになるなんてよ!」
「部下を逃がすのは上官の役目よ。まあ、あなたには一生分からないでしょうけどね」
「分からねぇなあ! 俺は俺が一番だからよ! ぎゃはははは!」
「勇者様~? さっさと殺して、早くお城に帰りましょうよ~」
…………マジでイラついてきたわ。
何がハーレムだよ。そんな要素勇ボコにはなかったはずなのに、変な展開を加えやがって。
確かに、シルクが……というか、英雄たちが勇者に恋心を抱いていたのは分かる。
だがそれは、純粋な恋心だったはず。
それなのに、女性を侍らせるようなハーレムだなんて……そんな要素、マジでいらねぇっての!
……しかもシルク、なんかビッチっぽい感じになってるし。そういう性格だったのか?
「へへ、そうだな。どうせ殺すんだから、それならさっさと殺して早く帰るか!」
「くっ!」
勇者が剣を握ると、金色の光が剣身から放たれ始める。
どうやら勇者は、前回の戦争から成長しているようで、自らの魔力をある程度は制御できるようになったみたいだ。
とはいえ、そんなことに感心している場合ではない。
俺もそろそろ動かなければ、本当にレイドが危ないからな。
「……いや。私はレイドを信じる、魔王様を信じるとしよう」
そう口にしたレイドは、減魔鋼のせいで弱体化された魔法を展開していく。
「ぎゃはははは! そんな魔法で俺様に勝てるわけがないだろうが!」
「やっちゃって~! 勇者様~!」
レイドが耐えられるのも数分が限度だろう。
その間に俺は火口間際まで移動し、とあるものを投げ込む。
……よし、成功だ。
「おい、てめぇ。どうせなら俺様の奴隷にならねぇか? いい体してるし、どうだぁ?」
「ふざけるな! 人間の奴隷になるくらいなら、このまま火口に飛び込んで死んでやるわ!」
「ったく、もったいねぇなぁ。そんじゃまあ、ぶっ殺してやるよおおおお!!」
剣身からさらに金色の魔力が放出され、勇者が渾身の一撃を放とうとした――その時だった。
――ドゴオオオオオオオオンッ!
火口から何かが飛び出し、この場にいる全員の視線が注がれた。
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