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街では警察に、一般市民に車が追いかけ回される。
月は大混乱だ。
「私の婚約者、大丈夫か。」
車に備え付けられている通信機から、心配するような声がした。
どうやら、姉の婚約者のようだ。
「だ、だいじょうぶ。でも、はやく助けて」
切羽詰まったような声を出して助けを求めるふりをする。
すると周りが余計パニックな状態になった。
ハッキングで周りにも聞こえるような状態にしたおかげで、私こそ姫を助けようとする輩も現れて大混乱だ。
「私の婚約者、そっち車多い危ないぶつかる。気をつけて」
さらに車に備え付けられていたナビゲーションシステムのおかげで、誰とも事故にならず快適な運転ができた。
捕まりそうになった時、レーザービームが出てきたのには驚いた。
一台を除いて巻くことができてとうとう、月の表だった裏側に来てしまった。
体がほぼロボットだから宇宙の活動は問題ない。
姉の手術が終わったという通知が頭に来た。
よかったあとは、地球に上がるだけだ。
「私の婚約者、月の裏は寒い。なぜ逃げ続ける。」
気落ちした声が通信機越しに聞こえた。
「私は、あなたの婚約者のアギロじゃない」
私は車に備え付けの通信機越しに本当を吐く。
姉の手術が終わった。
私は車の外にいるであろう存在、姉の政略婚約の相手を睨みつける。
どこにいるのかわからない。
けれど確実に私の行動を知っていて何か言ってくる。
「そうだったのか。なら今から君を婚約者にする。いい加減ゆっくり話さないか」
通信機越しの相手は嬉しそうだ。
「あなたが私を捕まえたらいくらでも話しましょう」
もうあとは姉を連れて地球に上がるだけだ。
振動を確認した。
サイドミラーに映る車を確認する。
カーフィルで、運転席が見えない青い車だ。
運転している姉の婚約者は相当運転に腕があるようだ。
私は強くアクセルを踏み込んで月の表面を走った。
目指すはカルメン谷、そこで身を投げて死んだことにして姉を迎えに行く。
そうして、フルスピードで月面を駆け抜ける。
あっという間に谷だ。
深い暗い渓谷が見える。
私は車から降りてそこに飛び降りようとした。
あの車の姉の婚約者に捕まる前に。
「え?」
車から手錠のようなものが伸びて、わたしの手足の動きを封じていた。
硬そうな金属でできた銀色の三又の手が伸びてきて私のベールを払う。
「やっと捕まえた。じっくり話そうか?なんなら、機械になった君の姉と一緒に」
「なんで、嘘でしょ」
私は混乱する。
「月では車は身近な機械だろう。だから、車に化けた。やっと月まで迎えに来ましたよ。カグヤいや『なよたけ』」
婚約者は私の地球での名前をつげた。