94 想えばこそ
「冷静に話をしたいです。良いですね?」
「あ、ああ」
「如何なる理由があろうと、人を傷付けて金銭を奪うようなことをしてはいけません。あなた達は人を傷付けることに慣れているようには見えませんでした。目的はなんですか?」
「……年の離れた弟がいる。何度も病院に通わなくてはならない大きな火傷を負ってしまった。すでに最低限の処置はされている。だが俺達に何度も医者代を払えるだけの金はない……!」
なるほど……嘘は吐いてなさそうですね。良いでしょう。
「守りたい人のためならば、尚更このようなことをしてはいけないわ。フェルリア公爵家がどこにあるかは分かりますね? これを持って行ってください」
懐から一通の書簡を取り出して内容を確認した後サインし、自分の爪で指先を切って書類の隅に指を押し付けた。一連の流れを見ていた彼らは唖然としているが、こちらとしては知ったことではない。一々細かいことを説明するのは面倒です。でも言ったでしょう、『助けてあげても良い』と。
「どうぞ。これを持っていけば治療費はかかりません。弟さんの治療が完了するまで通っていただいて構いませんよ」
「……は?」
わたしの体は怪我の治りが早い。止血されたことを確認し、再び彼らの方を見ると書簡とわたしとを何度も見比べて絶句していた。
「いつも同じ対応ができるわけではありません。ですがこうして出会ったのも何かの縁でしょう。今回は助けてあげられますが、次はないと思ってくださいね。早々に就職先を見つけることをおすすめします」
そう簡単に見つけられないからこその行動だったのでしょうけど。でも誰彼構わず助けていてはキリがないからね。わたしは決めてる。自分の手が届く範囲くらいは誰かの手助けをすると。敬愛する皇帝陛下の大切な国民ですしね。だから今回は特別です。
「い、良いのか?」
「ええ。ですが約束してください。わたしの情報は絶対に口外しないこと、そして今後同じようなことを繰り返さないと」
「……分かった。本当に申し訳なかった」
「ありがとうございます」
「ええ。……愛する人を想っての行動は誰にも止められません。そのことはわたしも良く理解しているつもりです。だからこそ……わたしのような人間にはならないで。取り返しがつかなくなるから。愛する人を想えばこそ、その人のためにした行動で悲しませてはいけませんよ」
わたしの場合はその人のためではなくて自己満足だけどね。わたしはもう止まれないし止まるつもりもないけれど、この人達にはわたしと同じようになってほしくない。
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