93 二人の男
「一人で行くのか?」
「ええ」
お墓参り自体は丸一日もかからないけど……お母様が亡くなってから今まで、この日だけは毎年一人で過ごしているんですよ。最初の頃は一日中何も言わずどこに行っているのかと、お父様達に色々言われていました。お母様の本当の命日を知りませんからね。仕事はちゃんとやっていたので、近年は口を出すのを諦めたようでしたが。
「……リーシャ様」
「なに?」
「僕、リーシャ様のお母君と少しだけ関わったことがあるんだよね。僕の素性に関わるからあまり詳しくは話せないんだけど。だから一人で行くのなら、僕の分もお花を供えておいてくれませんか?」
「良いわよ。ルヴィとお母様ってちょっと意外な組み合わせだけど……」
まあお母様にはどこで知り合ったの? って疑問に思うような知り合いがたくさんいたから、その中にルヴィがいたとしてもおかしくないよね。彼の素性をわたしは知らないけど、この感じだとお母様はご存知だったのでしょうね。気にならないと言ったら嘘になるけど、ルヴィも訳アリのようだから本人の口から話されるのを待つつもり。
少しだけしんみりとした空気になったが、すぐに普段通りに戻った。妙に気を遣われるのはこちらが気まずくなると分かっているんだろうね。
いつものように世間話をしながら公爵家らしい豪華な食事をいただいて、お腹がいっぱいになったところで各自解散した。
「いってらっしゃいませ、リーシャ様。危険なことはしないでくださいね」
「そんなことしないよ。行ってくるわ」
「はい」
今日は生憎の雨だけど、馬車に乗るのではなく傘を差して皇都を歩く。雨の日は体調を崩しがちで、実を言うと今日も怪しい感じがするけれど静かだから好き。でも晴れた日の賑わった街も、主である皇帝陛下が守る国民の笑顔が見れて好き。だけど──貴族女性が一人で薄暗い雨の日の街を歩いているからといって、狙いを定めてくる輩はあまり好きじゃない。
仕方のないことではある。豊かで治安も良いウェルロード帝国だけど、全ての人が安定した生活を送れているのかと言われると、全然そんなことはないですからね。
親切に路地裏に入って差し上げると案の定わたしの前に姿を見せた。
「大人しくしていてくださるのなら助けてあげても良いわよ」
「そんなの、お前を捕まえる方が早いに決まってるだろ」
「あら残念」
残念という割には楽しそうに笑っているようにも見えるが、その瞳の奥は冷酷な光を灯している。懐からナイフを取り出した二人の男はリーシャに向かって走り出そうとするが、その瞳を見た途端に足を止めた。
いくら生活に困って人を襲うような連中も、ロードの証であるオッドアイを見ては戦う気もなくすようだ。当然だろう。役割関係なく、ロードは何かしら特殊能力を持っているのだから、何をされるか分かったものではない。
「わたし、今日だけはどうしても戦いたくないの。なぜだと思います? 今日はわたしの母が亡くなった日だからですよ。お気付きの通りわたしはロードですが、愛する人が亡くなった日に誰かを殺めるような行為はしたくありません。どうしますか、今その手に持っているものを捨てたのなら見逃してあげられますけど」
わたしだっていつもは軽率に瞳を見せたりはしない。だけど今日だけは争いたくない。もちろん任務なら仕方ないけど、必要以上に争いたくない気持ちは分かってほしい。
そんな想いを込めて言うと、彼らは少し迷った末にその場にナイフを捨てた。他に何の武器も持っていないことを確認した上で近付くと怯えたように一歩後退った。
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