86 大事故
「君は私に対して色々と思うところがあるようだが、ナチュラルに失礼な発言をできるのは才能だな」
「ありがとうございます」
「褒めてないぞ」
「知ってます」
完全に呆れ顔ですし。でも旦那様に言われると誉め言葉なんですよね。だって嫌味と皮肉が恋人の旦那様ですよ? その旦那様を皮肉と同時に呆れさせることもできるんですから、喜んで正解だと思います! でも安心してください。旦那様には負けます。
「あの男はどうなった?」
「あの男、とは……? 誰のことでしょうか」
「継承式の日に君を狙って侵入してきた奴だ。君が持ち帰ると物のような言い方をしていた」
ああ、彼のことですか。どうしようかな……旦那様は実験体にすると知っているから、言っても大丈夫な気がするけど……
「彼は用済みなので持ち主に返しました。けしかけてきたのは向こうの方ですし、こうなることは予想していたと思います。お返しした後で彼がどうなったのかは分かりません」
実験は成功だった。解毒剤を飲ませたから生きているけど、しばらくは新薬を作る予定もないし捕らえていても使い道がないんだよね。用済みのゴミをいつまでも所有している人なんて普通はいないはずです。なのでお返ししました。
「あまり深堀りしても意味がなさそうだな。それならリーシャ、君は自分の魅力をどの程度理解している?」
「魅力? 急に話題が変わりましたね。自分の魅力を理解とは、具体的にどのような?」
「全般だ」
「うーん、自分の魅力ですか……」
なんでこの話題を選んだのか、意図が読めませんね。ですがこうして改めて言われてみると、わたしの魅力って何なのでしょう?
他人の魅力は語りやすいけど、自分のこととなると意外に難しかったりする。旦那様のように自信満々な方は別かもしれないけど。
「強いて言うなら、」
良く分からないので適当に言っておこうと口を開きかけたその時、フェルリアの屋敷へと帰るために乗っていた馬車がふわりと一瞬浮いて傾いた。御者の悲鳴のような声が聞こえてくる。
瞬時に異変を察したわたし達はそれぞれ動き出す。旦那様はわたしを抱き寄せて庇ってくださり、わたしはこのまま勢いで馬車が崖から落下したり横転することがないよう、能力の一つである『結界』を使って地面と馬車を固定した。馬車の車輪を鎖で地面に縫い付けているような感覚だ。同時に御者にも結界を張り、怪我をしないように守った。
危うく大事故になるところだったのでこう言っては何だが、ここが山の中で良かった。幸か不幸かフェルリア公爵家に帰るには小さな山を越えなければならない。皇都にある屋敷とはいえ、帝国の広大な土地にある一番大きな街だ。国の大部分を占めるこの皇都だと、同じ街の中でも小さな山や川はいくつか存在する。
山の中ということは人通りが少ない。そのため、わたしが能力を使うところは恐らく誰にも見られていないだろう。────この場にいた旦那様と御者を除けば。
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