85 趣味が悪い旦那様
『殺し合いは見ていて気持ちの良いものではない』。旦那様のおっしゃる通りだと思います。わたしだって任務以外で見たくないですし、任務だからやっていることです。決して自分の欲によるものではありません。
「だが、君の場合は正当な理由があるだろう。人を殺すことに正当も何もないかもしれないが、それこそがロードの任務だ。ロードのやっている任務に正当性なんて求められていない。それに自分自身の気持ちがどうであれ、私達は皇帝陛下の命令には逆らえないだろう? 少なくとも私は、任務であっても人の命を奪うことに心を痛めているであろう人間を批判するつもりはない」
「……批判はしなくても、面倒ではありません?」
一瞬だけ立ち止まり、真っ直ぐにわたしの目を見ながらそんなことを言う旦那様。こうして目を合わせているからこそ、旦那様の言葉が嘘偽りではないのだと伝わってくる。人の扱いがお上手な方ですね。『目は口ほどに物を言う』という言葉がありますが、逆に目を見れば言葉の真偽を確かめることだってできるんですよね。そしてそれを無意識にしている人は多い。旦那様は人間の心理を良く理解しておられる。
「前にも言ったが、巻き込むことになるかもしれないのは私も同じだ。それに離婚するなら最初に決めた契約はどうなる?」
それはそうですね……わたしの目的は達成されましたけど、旦那様は『他国の王女からの縁談を断るため』というのが結婚を申し込んだ理由の一つだとおっしゃっていましたし。
「今更ですが、なぜその方との結婚が嫌だったのですか?」
「王女との結婚など面倒でしかない。ロードの任務もあるしな。それから、残念ながら私の好みではなかった」
うわ……失礼なことを言うんですね。どこの国の王女殿下か知りませんが、周辺諸国に残念な感じの王族はいなかったと思いますけど。まあ旦那様の好みがどんな女性か知らない以上、残念かどうかなんて分かりませんけれど。
旦那様のお好みの女性って、どうせ従順とか仕事の邪魔をしないとか、そんな人ですよね? 偏見でしかないけど、旦那様と約一ヶ月の結婚生活を送ってきたわたしが言うのだから、決して大間違いということはないはず!
「ではわたしは好みだったのですか?」
「そうだな」
「ですよね。はい、分かっていま……え?」
聞き間違い……ですよね。でも麗しく聞き心地の良い旦那様の声で『そう』という肯定の言葉が聞こえたような……き、気のせいです!
「いくら契約とはいえ、さすがに好みからかけ離れた人間と結婚しようとは思わないな。どうしても関わることになるのだから」
「嘘ですよね?」
「良く思い出してみろ。『三年限定』という条件を取り付けてきたのは君の方だ。私は期間など考えていなかった。むしろ余程のことがない限り離婚なんてするつもりはなかったぞ。生涯を共にすることになる相手を適当に決めたりするか?」
「……分かりません。それが自分にとって利となるなら、わたしは好みなど気にしませんし」
現にそうしていますよ。旦那様は別にわたしの好みではありませんけど、わたしにとって利益があったのでこうして結婚して一緒にいます。三年だけではありますが。『三年限定』って、重要ですから何度でも言いますよ!
「君はそうだったな」
「だとしても旦那様、女性の趣味悪くないですか?」
「失礼なことを言うな」
だって……ね? もし本当にわたしのような女性が好みだったのなら、本当にすっごく趣味が悪いと思いますよ。自分で言っていて悲しくなってしまうけど。性格は素直じゃない自覚がありますし、役割が役割なのでそれなりに好戦的でしょう。お淑やかで物静かな女性とは程遠いです。まあこれは仕方のないことかもしれないですね。
だから性格は置いておくとして、結婚当初のわたしはお世辞にも綺麗とは言えませんでした。つまり旦那様、どこを取ってもやっぱり趣味が悪いと思うんですよ。女性の趣味が悪いのも個性だと思いますが、自覚はしておくべきだと思いますよ!
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