76 なんだか厄介そうな案件
「あら……旦那様、言った傍から頭の弱い方の登場かもしれないです」
怪訝そうな顔をしている旦那様に一言離れることを告げ、かなり遠い場所にいる皇帝陛下の方へ少し急いで向かう。公的な場でなければ走れるのに、このような大勢の人がいる状況でそんなことをするわけにはいかない。フェルリアとユリウス、どちらの家名にも傷が付いてしまう。
大きな国の皇族だから狙われるのは何の不思議もありませんけど、だとしてもやっぱり狙われすぎではありません? これだけ頻度が高いと逆に不自然に思えてきます。
「リサちゃん」
「……皇女殿下、公の場でそのように呼ばれるのは……」
「別に後ろめたいことがあるわけでもないのだし構わないでしょう。皇家と公爵夫人が親しくしているのは良いことじゃない。あなたもいつも通りに話しなさいな」
「……ではお言葉に甘えて。レタお姉様、どうなさいました?」
いつも通りに話しなさい、じゃないんですよね。レタお姉様は気にされないかもしれませんが、わたしは周囲の方の視線が気になるんですよ。『公爵夫人とはいえ皇族と親しすぎないか』『皇女殿下とはどういう関係なんだ』と、周囲の方々が言いたいであろうことが声に出さなくても伝わってくる。
旦那様もわたしの方を見ているのは分かるけど、遠くから面白そうに見ているだけで助けてくださる気配はない。旦那様、そういうところが好感度マイナスの原因なんですよ? 何をするにも優秀でいらっしゃる旦那様ならそれくらい分かってますよね……?
「あなたがこちらに向かっていた理由、ロードの任務に関係しているのではなくて?」
「良くお分かりになりましたね?」
会話が聞かれないよう口元を扇で隠し、さらに耳元で囁かれる。まさかレタお姉様に気付かれるとは思っていなかったから驚いた。
「陛下に『夜会の途中にリーシャがこちらに来た時は任務に関わっているだろうから、緊急ではなさそうならヴィオレッタが話を聞きに行ってほしい』、と言付かっていたの。皆様が陛下にご挨拶されている時は近付き辛いでしょう?」
「感謝致します。どうやって陛下の元に行くか悩んでいるところでしたから」
そう、今日のような大規模な社交で一番困るのがこれなんですよね。もちろん緊急なら正体がバレること覚悟で向かいますが、確信がない状態だと騒がれたくないですからね……
普通に護衛を任されていたなら夜会を欠席して任務をすることになっていたでしょうし、その場合は楽だったんですけれども。
「それで、何があったの?」
「確信しているわけではありませんが……拳銃を所持している人がいると思います。どうやって持ち込んだのかが分からないため絶対とは言えませんが、この場にいる誰かに使おうとしているのは間違いないと思います。会場入りの前にあえて捕らえなかったのかもしれませんが、このような場に持ち込んでいるのを無視するにはいくら何でも危険すぎます」
誰が持っているのかは確認済みだから、動きが見られたらすぐにでも対処することができる。でも普通は危険物を所持していないか、会場に入る前に確認されます。旦那様のように地位が高かったり、特別な理由があれば帯剣など武器の所持を許される人も一部いますが、許可なく危険物を所持していれば即刻連行されるのが普通です。
ちなみに、わたしは許可を出していただける理由が表向きはないので無断で隠し持っていますが、そのことを皇族の方々は知っていて黙認されていますし、取り上げたとしてもわたし自身が武器のようなものなので無駄なんですよね。
まあそれは良いとして、そうなると武器を持つことができている理由として考えられる可能性は主に三つ。事前に会場のどこかに隠していたか、協力者がいて合流したのか、あるいはプロを雇って忍び込ませたのか。最後のパターンだと、わたしの見つけた人物がそのプロということになる。
でも三つ目の可能性は低いと思う。プロなら気配で分かる……というか、私の場合は相手が強ければ強いほど気配に敏感になる。だとしたら消去法で最初の二つになるんだよね。もちろんそのプロが弱いだけだったり、他の方法を探し出した可能性だって捨て切れない。
「皇帝陛下にお伝えいただけますか? 危険人物を確認したので動きが見られた際には対処する許可がほしいです、と」
「分かったわ。少し待っていて」
「ありがとうございます」
ご覧頂きありがとうございます。よろしければブックマークや広告下の☆☆☆☆☆で評価して頂けると嬉しいです。




