75 知らぬが仏
「そうか。では私がもらおう」
「弱くないです! でもどうぞ、お返しします!」
「ふっ」
笑わないでください! 弱くないのに返すのか、なんて思っているのでしょう。それくらいは分かりますよ。わたしも自分でそう思いました!
今日は護衛の任務がありますけど、これは遠くから見守るだけで大丈夫そうなので、この状況で飲むと恐らく酔います。酒豪になりたかった。そうしたら旦那様を酔い潰して弱みを探るのに。
「ところでリーシャ。いつまでそうしているつもりだ?」
「帰るまでです」
あっ……今思ったんだけど、護衛の任務があるから早めに帰ることはできない……よね。怪しい人物を捕らえたとか、そんな理由がない限り途中で抜けることは許されないであろうことに気付いた。
「怪しさ満点だぞ」
「この姿を見られるより良いじゃないですか」
旦那様がおっしゃっているのはわたしの手。皇族の方々への挨拶が終わり、会場の端の方に移動してきてからずっと片目を隠して能力を使っているから、苦笑する旦那様にこんなことを言われている。わたしの《《眼》》は普通の人間に見えないことまで見える。たとえば壁の向こうや飲み物に混入された毒物とかね。元々視力は良いけど、毒が入っているかどうかは視力でどうにかなるものじゃない。
となると、能力を使うしかないから怪しまれてもこうするしかないんですよ。だけど大丈夫です、こちらを見ている人はあまりいません。見ている人も、その視線は旦那様に向けていますので。
「君は能力を使う姿を私に見られても良いのか?」
「良くはないけど仕方ないです。どんな能力なのかまでは分からないでしょう?」
「ああ」
「それなら問題ありません。旦那様が能力を使うところは見たことがありませんけど、わたしはこれからも見られることになると思います。夫婦であり、同じ時間を共有することが多いのだから、完璧に隠し通せるとは最初から思っていません」
旦那様の瞳の色は最初に見せていただいた。でも能力や役割までは知らない。旦那様がやっていたように、わたしもこっそり調べてみても良いんだよ? 調査しているのがバレていることを分かっていて、駄目元で行っていた旦那様と違い、わたしはバレることなく確実に情報を引き出せる。別に気にしてないから調べられたことには怒らないけど。
でも安心してください。必要がないのに素性を調べるなんて面倒なこと、わたしは絶対にしません。
「私の場合、能力を使わなければならないようなことが起こる前に、それを阻止するのが役割だからな。使わないに越したことはない」
「それはわたしだって同じですよ。それでも頭の弱い方はいくらでもいますからね」
他国の人も、この国にロードという存在がいることは知っていても、どんな役割を持つ者がいるのかまでは分からない。役割を知っているのは本人と皇族のみ。
まさか皇族の影、なんてものがあの方々の背後にいるとは思ってもみないでしょうね。わたしの存在を知った時、それは同時にわたしのターゲットになった時だよ。
わたし正体に関しては偶然知ってしまったのだとしても、わたしが自ら話した場合を除けば待っているのは『死』だけ。世の中知らない方が幸せなこともあるのです。
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