68 『違和感』
「この世に存在していないって、それはどういう意味ですか……?」
「そうだな……悪いが言語化するのは難しい。ただ、私は君がそこの男の首に短剣を突き付けている時、一瞬だがそう感じた」
「あら、わたしのことだったのですか? 見ての通りこの世に存在していますけど……気配や殺気がなかったというだけではないのですよね?」
「ああ。普通は殺す気がなくても、敵を制圧しようとしている時は僅かでも殺気が出るものだ。気配も殺気も完璧には消すことなどできない。……いや違うな。どんなに鍛えられた人間であっても気付くことができないくらい、他者の目を欺くことが得意な者も世界にはいる。だが私はそれが分かるんだ」
それは旦那様……序列第二位フェルリアのロードの能力なのでしょうか。だとしたら詳しいことは聞けないですね……
「言っておくが特殊能力ではないぞ。ただ大間違いというわけでもない。私の血筋は持っている役割のおかげで人が気配や殺気を消していても『違和感』として感じ取れる。どんなに隠すことに長けている者が相手でも、だ。我が家が生まれ持った才能と言えるだろうな」
「へぇ……興味深いですね。ちなみに先ほどのわたしは気配だけを消していました。わたしの気配を追うことができましたか?」
できたなら困るんですけど。今後の任務に支障が出かねません。場合によっては消えてもらわないといけないかも……?
そんな物騒なことを考えていたが、旦那様はわたしの予想とは真逆の答えを返した。
「無理だった。だが存在が消えたように感じたと言っただろう? 気配を消しているのにも関わらず違和感を感じなかったことよりもそっちの方が驚いたな」
「なぜ『存在していない』ように感じられたのかはわたしにも分かりませんね……こんなことを言われたのは初めてです。旦那様が特別なのでしょうか?」
「さあな。もう一度見れば分かるかも知れないが、君は嫌がりそうだ」
……旦那様って何なんでしょうね。真面目な話をしているかと思えば、突然いつもの調子に戻ったりする。わたしが嫌がりそう、と言って意地悪な笑みを浮かべるのはやめていただけません? わたしが嫌がる姿を見たい……とは違う気がしますけれど。
「本題に戻りますが、二人くらいなら紹介してもらえるかもしれません。でも絶対とは言えませんね。その二人も侍女や侍従には向かないと思いますが、そこは大丈夫なのですか?」
全ての責任はわたしが持たなければならないとシエル様から聞きましたが……?
「知っての通り、我が家は使用人に困っていない。この件を君に任せたのは、君が信頼できる人物を傍にいさせた方が良いと判断したからだ。それでも一応公爵夫人としての仕事にはなるが、嫌なら断ってくれて構わない。今回は重要な仕事でもないからな」
「旦那様って本当に良く分かりませんね。今の言葉だけ聞くとわたしのことを大切に想っているように聞こえますし」
その癖、わたしの嫌がることだと分かっていて色々としてくる。偉い人の考えることはわたしには分からない。分かる必要もありませんが。
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