26 することもないので
◇
「良い? 何かあったらその場から動かず、わたしが来るのを待ってね」
「はい。ですが絶対にリーシャ様について行きます」
「やる気があるわね。本気でいくよ?」
「望むところです」
「うん。今日はリジーがメインでわたしは補佐だから。リジーが動けなくなったら置いていくけれど」
「はい」
婚姻の儀の翌日、わたしは日が昇る前からリジーと一緒にフランクス領に来ていた。フランクス領のとある森には特別な仕掛けがある。森の奥の奥には山荘があるが、その山荘には巧妙に隠された地下があった。一度地下に入れば最後、全ての仕掛けを突破するまで帰ることができない特別な訓練場。入り口は山荘、出口はフランクス領の端。
これは皇族の影であるフランクスのロードがあらゆる場面で任務を達成することができるように作られたもので、フランクス領内の地下がほぼ全て繋がっているため莫大な広さがある。
地下だというのに、森や小さな街、川、本物に限りなく近い厳重な警備の城などがあり、フランクスのためにどれだけの金銭が動いているかがこれを見るだけで簡単に理解できる。それだけの価値がフランクスのロードにはあるのだ。当然だが毎回仕掛けも変わる。とは言っても、非常に危険であるため、自分の実力に合ったレベルに仕掛けを設定することができるようになっていた。
わたしは侍女でありながら、わたしの影としての仕事もしているリジーと共に良くここを訪れる。わたしは最高ランクの仕掛けを十歳でクリアし、リジーも同じレベルでわたしを追うことくらいは何とかできるようになった。レベルによっては仕掛けを破壊する以前に、ただその場に立っているだけでも命懸けだ。何もしていなくても、わたしを追うことができるリジーは十分過ぎるほどの実力者と言える。
「リジー、左後ろから銃弾」
「はい」
「どこから攻撃があっても常に前を見る。死角からの攻撃は感覚で何とかしなさい」
「はい!」
実戦では何を捨ててでも任務を優先しなければならない。背後からの攻撃にも注意を傾けなければならないが、怪我をしても死にかけても任務達成が最優先だ。どんなに怪我をしても敵は待ってくれない。だからやるべきことの優先順位を間違えるなとお母様には教えられた。ただ、それはどの場面においても同じというわけではない。臨機応変な対応が求められるので基本的には、ということになる。
「リジー、タイムリミットは一時間よ。一時間が経過したら屋敷に帰らないといけないわ。旦那様に無断で来たのだからね」
「分かりまし────リーシャ様、爆弾です!」
「落ち着いて。時限式でまだ一分あるわ。リジー、解除できるでしょう?」
ここには狙撃も爆弾も当たり前にある。加えて他国から取り寄せられた魔道具の敵もいる。実際に動き、本物の鍛え抜かれた人間のように動く人形だ。この訓練場の仕掛けは絶対に同じものにならない。毎回僅かにでも変化する。常に全方位注意しながらのゴールは精神的にも消耗が激しい。何が起きてもおかしくないこの場から脱出するには、どれだけ冷静でいられるかが鍵となっていた。
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