18 うっかりです
「リーシャ様……」
リジーが抗議するような目線を向けてくる。うん、これはわたしが悪い。ごめんね?
「リーシャ?」
「あ、はい。どうぞ……」
「一週間ぶりだな……って、なんだ? その顔は」
「いえ、何でもないです」
こちらの都合ですからお気になさらず。あの、言い訳させてもらうと、わたしはこの方の気配を覚えるのを忘れていたのですよ。これから三年間ずっと一緒にいることになりますし、わざわざ気配を覚える必要がないと無意識に判断したからでしょうねぇ……あはは。
「まあ良いが……ふむ」
「何ですか」
「そう警戒した顔をするな。ただ、一週間前に比べると随分と変わったな、と」
「公爵家で健康的な生活を送っていましたからね」
「君はお母君に似ているのか。伯爵の血を感じないが、本当にあの伯爵の子か? 微塵も似ていない」
「お母様に似ていると言われるのは嬉しいです。わたしはお母様程の美貌はありませんけど、お父様には似たくなかったのでそう言っていただけて良かった。ですが失礼なことを言わないでくださいよ。非常に残念ですが、正真正銘フランクス伯爵の娘です。あの血が繋がっているだけの父親と、大事なお母様を一緒にしないでください」
お母様がいながら不倫していたお父様と違って、お母様は誠実で優しい方ですよ。お父様のことを愛していたわけではなかったようだけど、不誠実なことはしない。
お父様はどうでも良いから好きに言えば良いんだけど、お母様は大好きだから悪く言わないでほしい。そんな気持ちを込めて睨むと、『悪い、そんなつもりはなかった。お母君が誠実でいらしたのは君を見ていれば分かる』だそう。
「それなら良いです。婚姻の儀は何時からでしたっけ」
「もう少ししたら式場に向かう。その前にこの一週間の話でもしよう」
「分かりました。公爵様は大事な案件があると言っておられましたけど、それはもう良いのですか?」
「そうだな。しばらくは屋敷での事務的な仕事が主になる」
それでもやっぱり忙しいのでしょうね。わたしも公爵夫人になったからそれなりに仕事はあるのでしょうけど、フランクス領を一人で管理するのに比べたら全然楽ですよ。……たぶん。
フランクス領は、お母様が亡くなってからはお父様が無理な税を領民に課すから領民の手が回らなくて、作物はまともに育たず家畜をどうこうしている場合ではないし、少しずつ治安も悪くなっていった。それをわたし一人で立て直したんだよ?
完全には立て直せていなかったけど、税は標準まで戻して三日に一度は視察ついでに領民の生活を支援して。作物が育たなかった年にはわたしの私財で購入した食料を飢えている領民に支給して。色々研究しつつ、領地と領民を必死に守ってロードの仕事もこなす。
良く壊れなかったよね、わたし。おかげで領民には慕われていると自負しているが、わたしがいなくなったあの領地はまた以前に逆戻りするのだろうか。
ううん、わたしがそんなことさせない。せっかくあそこまで頑張ったのだし、何が何でも守り抜く。フランクスの爵位はどうするか決めてなかったけど今決めた。ちょうど適任の人に心当たりがあるし、近い内に皇帝陛下に相談しよう。
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