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14 壊れてしまった家宝

「────ご機嫌麗しゅうございます、皇帝陛下。お目に掛かれて恐悦至極に存じます」

「頭を上げろ。久しいな、リーシャ。今日は私的な場なのだからそう堅苦しくせずとも良い」

「承知致しました」


 朝食を終えて約束の時間より少し早く皇城に行けば、わたしの謁見の予定を聞いていたらしい使用人の方が応接室まで案内してくださった。

 この国の公爵家は現時点で五家。その数少ない公爵家の人間であるわたしは重鎮としてどこに行っても丁重に扱われる。ロードだということは知らない人間がほとんどだけど、公爵夫人であることは周知の事実だから顔パスで皇城に入らせていただけてすごく便利。


 案内された応接室で待つこと約十分。従者もなしで、部屋の外で待たせるだけの護衛一人を連れた皇帝陛下はわたしの姿を視界に入れるなり含みのある笑みを浮かべた。


「では早速本題に入ろう。ユリウスの家宝である短剣が直った」

「えっ……本当ですか!?」

「ああ。この短剣が作られた頃の記録が見つかったんだ。確認すれば、『家宝に埋め込まれている石は万が一壊れてしまっても宿っていた力は消えない。元の形に戻すように壊れたパーツを合わせれば、勝手に修繕されるだろう』とのことだ。実際にやってみた結果、この通り」


 陛下が懐から出した布に包まれていたのはユリウスの家宝。そして埋め込まれている透明の石は……驚くほど綺麗に、修繕されていた。まるで最初から壊れていなかったかのように。

 でもたしかにあの日、わたしはこの宝石をバラバラに破壊してしまった。衝撃的すぎてご先祖様に謝罪したから良く覚えている。あれは前代未聞のやらかしだった。


「す、すごいですね……原理は分かりましたが、本当にそれで直るのか疑ってしまうくらい……」

「その記録には宝石の強化方法も記載されていた。『通常は宝石にだけ力を注ぐが、力が強すぎる者は家宝全体に力を巡らせた後、そのまま石に力を注ぐようにすると良い』らしい。この文面から予測するに、ロードの家宝は宝石だけでなく物体そのものに特別な力が宿っているのではないだろうか?」

「試してみても……?」

「もちろんだ」


 家宝全体に力を巡らせた後、そのまま石に力を注ぐように……皇帝陛下が読んだという記録書の通りに少しずつ短剣に力を注いでいく。そして最後に石に到達した瞬間、透明だった石が濃く鮮やかな紫色に変化した。僅かに光を発しながら輝くそれは、とても見覚えのあるもので……


「わたしの瞳と、同じ……」


 わたしの本来の色の瞳は、何度も鏡で見たことがある。特に能力を使っている時は瞳が少し光るようになっている。今わたしの手の中にある短剣に埋め込まれた宝石は、それと全く同じ色と輝きを持っていた。


「綺麗だな。エミリアと同じだ」

「お母様と……」


 ユリウスのロードが宝石に力を注げば紫色に変化する、と。このことは知っていた。けれど同時に、同じ紫でも力の持ち主によって僅かに色合いが違うとも聞いていた。わたしはお母様が生きていた頃の宝石の色を知らない。でも陛下が同じだとおっしゃるなら、きっとそうなのでしょう。

 お母様とわたしは似ている部分がたくさんある。だからわたし自身が母の形見のように思えて、少しだけ嬉しい。残された子供、という意味では形見であることに変わりはないのだけど、わたしが言いたいのはそういうことじゃない。


「改めまして、大切な家宝を壊してしまって申し訳ございませんでした。そして直してくださりありがとうございます」

「気にするな。これでようやく、当主全員が揃った会議を開けるな」

「はい。今年からよろしくお願い致します」

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