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12 わがまま

「リーシャです」

「入れ」

「失礼致します。旦那様、話というのは……大丈夫ですか?」


 旦那様の私室に呼び出されてお部屋に向かえば、入室する前にシエル様は去って行った。何やら別の用事があるらしい。声を掛けて部屋に入ると、旦那様は目元に手の甲をあてて光を遮断し、長椅子に横になっていた。私室に呼び出されるのも珍しいけど、ここまでラフな格好をわたしに見せるのも珍しい。


「大丈夫だ。呼び出しておいてこんな格好で悪い。仮眠するから意識がある間に君に報告しようと思ったんだ。そこに座れ」

「分かりました」


 睡眠薬でも飲んだのでしょうか? ここ最近ずっと、それこそつい先ほどまでお仕事をされていましたけど、疲れているのなら普通に寝室で眠ればいいのに……睡眠薬だって飲まなくても自然に眠った方が体にいいのではありませんか?


「今晩から四日ほど、任務で屋敷に戻らない。一日程度なら主人不在でも問題ないが、何日も屋敷を空けるわけにはいかないだろう? だから君に留守を任せたい。婚姻の儀の前も、君がいたから長期間不在にできたんだ」


 だが今はユリウスに行かなければならないこともあるだろう? と一瞬だけ視線をわたしの方に向けて言う。つまり、この三日間はユリウスに行かずにフェルリアにいてほしい、ということですね。

 そして睡眠薬を飲んだのは無理矢理にでも寝ておかなければならなかったから。……大変な任務になるみたいですね。少なくとも休む時間はないのだと思います。


「言いたいことは分かりました。いつもなら了承するところですが、今回は嫌です。旦那様、わがままを言ってもいいですか?」

「……わがまま? 言ってみろ」

「ありがとうございます。四日後は花祭りです。花祭りの日、皇都に出て旦那様と一日遊び回りたいと思っていました。なので三日で任務を終わらせてきてください。それができるのであれば屋敷の留守を守ります」


 とは言ったものの、どうしても難しいと言うのなら素直に引こうと思っていますよ。でも今年の花祭りはどうしても行きたい理由がある。このわがままで逆に負担になるようなことがあってはいけないと分かっていますが……


 ウェルロード帝国では毎年夏に『花祭り』というものが開催される。これは恋人や家族のような大切な人、日頃お世話になっている人に花を贈る日のことを言う。皇都では花を使用した様々な飾りや催し、屋台等が出ることになっていて、この国では一番人気のある行事になる。このために国外から観光に来る人もいるみたいですね。

 贈る花は何本でも何種類でも構わないし、渡す人数も決まっていない。告白やプロポーズをする人もいる特別な日だけど、特に理由なく配っている人もいる。とにかく参加したいという理由で。関係問わず、受け取るかは自分の好きなようにしていいのだけど。


「三日か……分かった、それでいい。君のわがままを聞くのは初めてだからな、できる限り叶えたい」

「ありがとうございます。あ、それともう一つ。三日目はユリウスに行ってもいいですか? 先ほどリジー達が訓練に向かったので様子を見たくて」

「構わない。では明日から二日間は頼んだ」

「はい。花祭りはユリウスの屋敷から出発、ということでよろしいですか?」

「ああ」

「ではそのように。よろしくお願い致します。ではわたしはこれで失礼しますね。……旦那様、わがままを言っておいて何ですが、ご無理はなさいませんよう」

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