10 守りたい者
「……リーシャ様って、何を考えてるか分からないから怖いんだよね」
「…………」
そんな大層なものでもないと思うのですけど……わたしが考えていることなんて、基本任務のことと将来のこと、そしてどうやって旦那様に勝つかくらいです。それで言うならそこに無表情で立っているリジーあたりの方がよっぽど謎なのでは……?
「だけど嘘吐きじゃない。少なくとも、気を許した人間には特別な理由でもない限り不誠実なことはしない。だからさっきの言葉も偽りじゃないのは分かるよ」
「それは良かった」
「……実戦経験を積めばどんな時でも大切な人を守れるようになりますか?」
「平和な場所で訓練だけするよりは絶対にマシだと思うよ。でも『どんな時でも』というのは断言できないかな」
今のレイより、ルヴィより、リジーより……もしかすると旦那様よりも強かったかもしれないわたしは、守れなかったので。強くなればすべて解決するわけではなくて、時には運や状況も自分の未来を変えて来る。そのことをわたしは身を持って知った。だからこそ、こればっかりは無責任なことを言えない。特にレイの言う『大切な人』というのは家族であるイアンやフォルトのことだと思うから……
「十分です。一番最初に『命令』と言われているから、主人であるリーシャ様の言葉に背く気はなかったよ。確認してみたかっただけ。ありがとう」
「ちなみに、僕らが命じられたのは暗殺だけじゃなくて諜報や護衛もあるけどね。『主に』ってことは他にもあるんですか?」
「ええ、主な任務からの派生みたいなものですが。今まであったのはテロの事前阻止とかでしょうか? あとは罪人逮捕に協力したこともありますね」
つまり、皇族や国にとって直接的に不利益となるものを排除するのが任務というわけです。表で堂々と動けない汚れ仕事をするって感じですね。
「それから、わたしは恐らくロードの中で一番危険な役割を持っています。だから常に死と隣合わせになる。これは任務中もそうですし、任務が終わってからも恨みを買ってしまっていることがあるので気を付けなければなりません」
基本的に顔が割れてしまったらその場で息の根を止めさせてもらう。だけど結界を張ったりして注意しているとはいえ、どこで見られているか分からないでしょう? わたしは世界最強の人間というわけではありませんし、情報面においてもわたしを上回る人がいても不思議じゃない。
「だけど安心して。リジー、ルヴィ、そしてレイ。三人ともわたしの命に代えてでも守り抜くと誓います」
さっきレイは言った。『わたしは嘘吐きではない』『気を許した人間に対して特別な理由もなく不誠実なことはしない』と。リジーやルヴィもきっと同じように思ってくれているはず。だからこの『命懸けで守る』という言葉も信じてくれるはず。
ロードでもなく、本来一般人として危険な目に合うことなく生きていける三人を、わたしの都合で巻き込むんです。それならせめて、何があっても無事で帰さなければならない。怪我をしてしまうことはあるかもしれませんが、命だけは絶対に保証しましょう。
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